次郎90-2_s

今もつけ台に立ち、すしを握る小野二郎さん(90歳)。

「すきやばし次郎」で、ほぼ10年ぶりに新しいすし種が誕生しました。それが、真鯵を酢〆にした「あじす」です。

「次郎」では新しいすし種には目もくれず、従来のすし種のヴァージョンアップのみに心を砕いてきました。たとえば、夏の「むしあわび」。いまから10年以上前でしたら、最上のあわびを調理して、握る寸前に包丁を入れると、カウンター席にいい香りが漂い始めました。

ところが、シーズンオフの乱獲などで、質の高いあわびが激減すると、以前ほどの香り高さがなくなりました。そこで考えられたのが、調理済みのあわびを握る前に今一度温めること。これで、香りが復活しました。

この香りこそが、あわびの命で、ワインでいう「ポテンシャル」(潜在能力)なのですね。これをあわびから引き出せているのは「次郎」のほかは、ほとんど知りません。

むしあわび。

銀座『すきやばし次郎』の「むしあわび」の握り。

さて、「すきやばし次郎」では、この10年の新しいすし種といえば、冬の「ぶり」だけでした。そこへ登場したのが「あじす」。鯵は夏の魚ですが、台風がやってくると、築地に鮮度の高い鯵が届きません。その時の応急処置として考えたのが「あじす」なんだそうです。

あじす。

銀座『すきやばし次郎』の「あじす」の握り。

いまから50年ほど前の「江戸前」のすし屋ではどこでも見られたすし種ですが、生の魚介を握るようになって、次第に忘れられたすし種になっていったとのこと。つまり「あじす」の登場は、往年のすし種の復活と言えるのです。この夏には大活躍しそうなすし種です。

【すきやばし次郎】
住所/東京都中央区銀座4-2-15 塚本総業ビルB1階
TEL/03-3535-3600
営業時間/(昼)11時30分~14時 (夜)17時30分~20時30分
定休日 /日曜、祝日、土曜夜、8月中旬、年末年始
http://www.sushi-jiro.jp/

文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。

 

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