文/鈴木拓也
健康を害さずに、お酒を存分に楽しめる方法はないか? 調子が良すぎるとはいえ、飲み過ぎた時についそんなことを考えてしまうのは、酒好きの性なのだろう。
ところで、飲んだことまでは帳消しにできないが、健康的な飲酒は可能だそうだ。そんなうれしいことを語るのは、みぞぐちクリニックの溝口徹院長。
溝口院長は、「オーソモレキュラー療法」の第一人者。この療法は、栄養素の適切な摂取に重点を置いて、心身の不調を治そうという考え方がもとになっている。この療法の知見を生かし、飲酒の弊害を抑える目的で書かれたのが、『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(青春出版社)である。
本書から、すぐに実行できる健康的な飲酒のコツを紹介しよう。
アルコールの代謝に関わる「ナイアシン」「ビタミンB群」「亜鉛」を十分に摂る
アルコール飲料そのものには、栄養素と呼べるものは、ほとんど含まれていない。しかし、体内に入ると、有害なアルコールを代謝するために多くの栄養素が消費される。そのため、飲酒によって特定の栄養素が不足しがちとなり、それに伴う不調が生じる。これが、オーソモレキュラー療法の視点で見た、飲酒の問題だ。
溝口院長は、アルコールの代謝を助ける栄養素として「ナイアシン」「ビタミンB群」「亜鉛」の3つを挙げる。なんといっても、これらを飲酒前に摂っておくことがとても重要だという。
特に、愛飲家ならほぼ不足しているという栄養素が、ナイアシン。アルコールの代謝にナイアシンは「主役級の活躍」をするそうで、これが足りなくなると代謝が滞って二日酔いやアルコール依存症の原因に。
溝口院長は、居酒屋のメニューにもあり、ナイアシンを比較的多く含む食材として、カツオの刺身、豚レバー、エリンギ、ピーナッツを挙げる。サプリメントで摂ってもいいそうだ。
ビタミンB群も、日常的に不足しがちなビタミンだという。そのうち、ビタミンB1は豚肉やウナギ、ビタミンB6はマグロやカツオなどと、動物性食材に多く含まれている。これらは、「ランチでもつまみでも、積極的に摂っておきたい栄養素」とのこと。
そして亜鉛も、「圧倒的に」不足している栄養素。不足してしまうのは、亜鉛をほとんど含まない「加工食品や精製食品の過剰摂取」が理由だが、これにとどまらない。
ストレスや糖質の多い食生活でも亜鉛は消費されてしまう。ストレスが高い人、パンやご飯、麺類やパスタなどの糖質摂取が多い食生活の人では、亜鉛の尿中排泄量が増えることがわかっている。あまりうるさいことは言いたくないが、「家飲み派」の人は特に、お酒を飲みながら、柿の種やポテトチップスなどのジャンクフードを食べていないだろうか。そんなことをしていたら、亜鉛は減る一方なのである。(本書より)
亜鉛を多く含む食材として、カキのほか、カタクチイワシ、赤身肉、レバーがあり、意識して摂ることがすすめられている。
腸内環境を整える栄養素で飲酒の害を防ぐ
意外に思われるかもしれないが、飲酒は「腸を荒らす大きな原因のひとつ」だという。例えば、グラム陰性桿菌(かんきん)が小腸で増殖するのは、飲酒が関係しているとされている。本来、大腸に生息する腸内細菌は、小腸ではほとんど増殖しない。しかし、もしそれが起きてしまうと、お腹が張るとか多量のガスが発生するなどの症状に見舞われる。これを「SIBO(小腸内細菌異常増殖症)」とよび、最近、非常に増えている病気だという。
また飲酒は、腸の粘膜に炎症を起こし、「リーキーガット症候群」を招くおそれもある。これに罹ると、腸管の上皮細胞同士の接合がゆるみ、必要な栄養素以外の大きな分子まで取り込んでしまう。こうなると、アレルギーや血糖値上昇などといった症状として顕在化するリスクがある。
そこで、粘膜強化に必要なビタミンAやビタミンD、さらにはグルタミン(アミノ酸の1種)を摂るとともに、「プレバイオティクス」の摂取も考慮する。プレバイオティクスとは、「腸の善玉菌のエサになる食品」。主に、オリゴ糖や食物繊維を豊富に含む食品が該当し、タマネギやキャベツといった野菜、大豆、ハチミツ、バナナ、玄米、キノコ類がある。
ただし、SIBOに罹っている人は、症状が悪化する可能性があるので、プレバイオティクスの摂り過ぎは避けたほうがいいだろう。
さて、腸内環境を悪くする元凶として、アルコール以外に名指しされているのが、小麦と乳製品だ。これに含まれるグルテンやカゼインが、リーキーガット症候群など諸症状をもたらすというのが、その理由。溝口院長は、酒のつまみにこうした食材を使ったものが多い点を指摘しているが、そこをうまく回避する食べ方も記している。
こってり系のつまみが好きな酒飲みには、少々きつい内容かもしれないが、実はグルテンフリーやカゼインフリーをお酒のつまみで実践することはそれほど難しくはない。たんぱく質を選べばいいのだ。魚介類ならお刺身もあるし、肉もOK。豆製品もOKなのである。しかも小麦アレルギーや乳製品アレルギーなどでなければ、厳密にすべてのグルテンやカゼインを避けなくても、かなり効果は期待できる(本書より)。
休肝日をもうけて長くお酒を楽しむ
上で取り上げたさまざまな栄養素をきちんと摂り、避けるべきものは避ければ、毎日の晩酌は問題ないかと言われれば、残念ながらそうではない。週1~2日は飲まない休肝日をもうけ、3か月のうち連続1週間のプチ断酒の実施を、溝口院長は推奨している。これもひとえに、末長くおいしい酒を楽しむためだ。
休肝日を定めたら、その日はじっとガマン……だと到底続かないので、成功のコツがある。
例えば、夕方仕事を終え、駅へと向かう道についつい寄ってしまう酒場があるのであれば、職場から駅までの帰り道を変えてみると、お酒を飲みたいという感覚が抑えられるかもしれない。習い事やジムなどを定期的にスケジューリングしてしまうのもいい方法だ。(本書より)
プチ断酒については、12月の忘年会の前、3月の歓送迎会の前というふうに、飲む機会が多い時期の直前にすれば乗り切れやすい、とも。
ところで、お酒がストレス解消のはけ口となっている人には、短い禁酒すらも難しいかもしれない。しかし溝口院長は、飲酒は身体への負担が増し、かえってストレスになっている点を指摘。飲酒以外でのストレス解消法をすすめる。
ストレス解消に効果的なのは、「普段ない感覚を自分に与える」もの。溝口院長にとってそれは、ゴルフと釣りだという。要は、非日常感を味わえるスポーツなり趣味なりに打ち込めればベスト。家の中でも、湯船にアロマオイルを入れて入浴するとか、ストレッチ運動で普段動かさない箇所を刺激するとか、やりようはいろいろ。いずれにせよ、「これからストレス解消するぞ!」と気持ちを整えるのが、うまくいくポイントだ。
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冒頭の繰り返しになるが、好きなだけ飲んでしまって、それを帳消しにする方法は、現代医学でも無理な相談。しかし、不足しやすい栄養素を補うなどして、健康リスクを最小限に抑えることはできる。生涯にわたり、お酒と楽しく付き合っていきたい方は、本書に書かれている数々のアドバイスを実践してみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。