文/鈴木拓也

シニア世代にさしかかると、いやおうなく「老い」を感じる機会が増えるが、そもそもなぜ老化現象は起きるのだろうか?

実は、老化や寿命に関する研究は昔から行われており、多くの知見と仮説が積みあがっている。しかし、「これが老化の根本理由」と断定できる定説は、まだないのが現状だ。もっとも、老化は「端的にいえば、タンパク質の劣化」であり、劣化を引き起こす諸因子については、かなりわかっている。

なかでも二大因子とされているのが、「酸化」と「糖化」。酸化とは、呼吸に伴って体内で生じる活性酸素が、細胞のタンパク質を傷つけて劣化させるというもの。これについては、ご存知の方も多いかもしれない。

対して糖化は、聞きなれない言葉だろう。

これは、「体内で過剰になった糖がタンパク質にくっつく現象」で、糖で変性したタンパク質は「AGE(終末糖化産物)」と呼ばれている。そして、AGEは、「近年、老化との関連で注目を集めて」いるという。そう説くのは、昭和大学医学部の山岸昌一教授だ。山岸教授は、30年以上前からAGEの研究を重ねてきた、この道の第一人者。著書の『老けない人は何が違うのか:今日から始める! 元気に長生きするための生活習慣』(合同出版)では、最新の研究結果に基づきAGEの影響と対策が展開されている。

老化の仕組みを解く重要ワードでありながら、あまり知られていないAGE。本書を下敷きに紹介してみよう。

さまざまな疾患に関わるAGE

近年、体内で長期間にわたって起こる慢性炎症が注目されている。この炎症は、細胞にダメージを与え老化を促進するが、炎症の主な原因となっているのがAGEと活性酸素だ。さらに、AGEは活性酸素を発生させ、活性酸素は糖化反応を推し進めるという相互作用もある。

そのAGEだが、体内で作られるものが3分の2、主に食事・喫煙の形で体外から取り込まれるものが3分の1の比率となっている。糖化の初期段階では、タンパク質は元の形に戻れるが、長期間にわたり糖化が続くと、もはや元に戻れず、AGEとして蓄積する。しかも、「簡単には私たちの体から排出もされない」という。こうして蓄積したAGEは、見た目の老いだけでなく、心筋梗塞、糖尿病、骨粗しょう症、アルツハイマー型認知症など、多くの老年病の罹患リスクを高める。おまけに、がん細胞の増殖や感染症の重症化にも、AGEは一役買っている可能性があるとも。

食生活の改善でAGEの蓄積を抑える

これだけ多くの疾患にかかわっているAGEだが、体内の蓄積を抑え、ひいては老化抑制になる方法はあると、山岸教授は力説する。

1つは、食事だ。

大概の食品には大なり小なりAGEが含まれており、食品由来のAGEの7%が体内に蓄積されるという。前述したように、その量は体全体にたまっているAGEの三分の一におよぶ。

山岸教授は、まずは「大食い、早食いしない」よう戒める。大食いは、取り込むAGEの絶対量を増やしてしまう。そして、早食いは、血糖値の急上昇を招きやすく、これが糖化を促進してしまうというのが理由だ。

食品については、血糖値を上げやすいものは避ける。いわゆるGI値・GL値の高い食品がこれにあたり、お菓子や精製穀物(食パンや餅など)は控えたほうが無難という話になる。ただし、精製穀物の食品であっても、工夫によって悪影響は多少抑えられるそうだ。

うどんよりそば、炊きたてのご飯より冷や飯、パスタはアルデンテのほうがおすすめです。というのは、冷や飯やアルデンテのパスタは消化、吸収するのに時間がかかり、摂取したときに食後の血糖値の上昇が起こりにくいからです。(本書より)

では、アルコール飲料は?

「糖尿病の予防には、糖質の多い日本酒よりも焼酎がよい」といった話はよく聞くが、意外にも糖質の多寡は、AGEの蓄積にほとんど影響しないという。

むしろ影響が大きいのは飲酒量。アルコールは体内で代謝されて、アセトアルデヒドになるが、これからAGEがつくられるそうだ。よって、糖質の少ないアルコール飲料でも、「次の日に残るくらい、しこたま飲んでしまえば後の祭り」。やはり飲酒は、適量にとどめるのが吉というわけだ。

「最強」のAGE対策になる食品とは?

AGE対策として、積極的に食べておきたい食品もある。

山岸教授が「最強」として挙げるのが、生のブロッコリースーパースプラウトだ。

ほうれん草、トマト、ブロッコリーといった緑黄色野菜には、糖化反応を抑える働きがあるが、ブロッコリースーパースプラウトが、その効果が特に高いという。これは、抗糖化・抗酸化作用の強いファイトケミカルの「スルフォラファン」が、ブロッコリーの20倍も含まれているため。長期間食べることで、減量や総コレステロール低下にも役立つという。そのほか、ブルーベリーといったベリー類、海藻、きのこ、そしてオクラや納豆のような「ネバネバ食品」もすすめられている。

また、普段の食生活で注意したいのが、「強火で加熱調理した食材は軒並みAGEを多く含んでいる」という事実。そこで、油で揚げた食品は控え、水でゆっくり蒸すか、ゆでた食材を取り入れるようにする。

こまめな活動と十分な睡眠もAGEを防ぐ

食生活以外については、AGEをためない習慣として「ちょこまか運動」がいいそうだ。

「NEAT (Non-Exercise Activity Thermogenesis、非運動性熱産生)」という言葉があるが、これは日常生活の動作で消費されるエネルギーを意味する。これには、デスクワークから買い物まで、何かしらエネルギーを消費するあらゆる行動が含まれるが、「ちょこまか運動」では、立って体を動かしている時間を増やすよう工夫する。

つまり、日中はできるだけ座ったままでいない。これが、まず大事です。加えて、自動車通勤の人は、自転車や電車などを利用した通勤手段に変える、デスクワークやテレビを見るなどの座位時間の合間に足踏みや軽い体操をする、マンションや駅、大型商業施設などではエスカレーターを避けて階段を使うなど、できることはたくさんあります。(本書より)

さらに、「ちょこまか運動」とは別に、週1回でも本格的な運動をし、睡眠不足は避けて体内時計に合った生活を送ること。平凡に見えるが、こうした生活習慣の積み重ねがAGE蓄積を防ぐという。

*  *  *

医学の目覚ましい進歩で、「人生100年時代」を見据えた生活習慣とでもいうべきものが確立されつつあるように思う。山岸教授にとってそれは一言でいえば「何をいつ、誰と、どう食べるべきか」に集約されよう。どうせ食べるなら、よりよく年を重ねる食べ方をしたいもの。そのための良き手引きとして、本書は参考になるはずである。

【今日の健康に良い1冊】

『老けない人は何が違うのか:今日から始める! 元気に長生きするための生活習慣』

山岸昌一著
合同出版

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。

 

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