文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/ドイツ在住ライター)

1200年の歴史ある都、エアフルト

ドーム広場の丘から望むエアフルト。大聖堂とセヴェリ教会の天を突くようにのびる塔が印象的。

文豪ゲーテ所縁の地を結んだ、ゲーテ街道8都市横断の旅も後半に突入。第1回のフランクフルト、ヴェッツラー(https://serai.jp/tour/1043112 )第2回のフルダ、アイゼナハ(https://serai.jp/tour/1047143)に続く5番目の町は、テューリンゲン州の州都エアフルト。ゲーテは1808年にこの町の官邸で、フランス皇帝ナポレオンと出会っている。ナポレオンは青年時代にゲーテの著書『若きウェルテルの悩み』を愛読しており、戦地にまで持参するほどだった。

市庁舎をはじめ様々な建築様式の建物が取り囲む広場、フィッシュマルクト。

エアフルトは1200年以上の歴史を持ち、古くから交通の要衝として栄えてきた。旧市街には様々な年代の豪華な建築物が残っており、町の歴史の古さとかつての繁栄ぶりがうかがえる。特にネオゴシック様式の市庁舎が建つフィッシュマルクトには美しい建築物が並び、まるで建築博物館のようだ。

食いしん坊はクレーマー橋を目指す

橋の両側に木組みの家や手工芸品のアトリエ、カフェなどが並ぶクレーマー橋。

市庁舎のすぐ近くにはゲラ川が流れている。この川にかかるクレーマー橋は、エアフルトを訪れる旅行者が必ず訪れるスポットだ。クレーマーとは小売商という意味で、かつて遠方から来た商人たちで賑わったこの地には、今も様々な商店が立ち並び、エアフルト一の観光名所となっている。家屋付きの橋というとイタリアのポンテ・ベッキオが有名だが、このタイプの橋としては、じつはこのクレーマー橋が欧州最長で最古のもの。

クレーマー橋は、グルメの宝庫でもある。エアフルトの郷土料理といえば、地元メーカー「BORN」のマスタードをたっぷりつけたテューリンガーソーセージや、クロースと呼ばれるじゃがいも団子が伝統的。それにくわえて、この橋には知る人ぞ知るグルメショップがあり、噂を聞きつけてやってくるファンたちが連日行列を作っている。

その行列の先にあるのは、チョコレート。

「ドイツで一番可愛くて美味しいチョコレート」と評判のGoldhelm。

ドイツで一番と名高いチョコレート工房「Goldhelm」( https://www.goldhelm-schokolade.com/ )を率いるのは、アレックス・キューン氏。シェフ自らが世界中をまわって厳選したカカオ豆と、フルーツやナッツ、スパイスなど多彩な素材を使い、丁寧に作りあげるチョコレートはまさに芸術作品。評判が評判を呼び、ドイツばかりか国外からも大勢の旅行者が訪れる。

店内に足を踏み入れると、見目麗しいプラリネ(一口サイズのチョコレート)のほか、薄いプレート型の板チョコ、チョコレートペースト、ココアなど、見た目も可愛いくおいしそうな商品がぎっしり。チョコレート好きならば興奮必至の空間だ。

姉妹店のアイスショップ。チョコレート風味の「橋のトリュフ」や「苺とトンカ豆」など個性的なラインナップ。

5年前には隣に姉妹店のアイス工房がオープンし、瞬く間に行列が絶えない人気店となった。自社農場で育てたフルーツやハーブなど自然素材を使ったアイスクリームはもちろんのこと、コーンも手作り。トッピングにチョコレートやフルーツが添えられるのも嬉しい。あまりのおいしさに感動して、一日に2回も食べに行ってしまった。

Goldhelmの向かいにある、テューリンゲンの特産品が揃う食材店「Thüringer Spezialitäten」( https://www.thueringer-spezialitaetenmarkt.de/ )も見逃せない。エアフルト大使としても活躍するオーナー、ベティーナさんのお眼鏡にかなったビールやリキュール、お茶やお菓子などが所狭しと並び、お土産探しにもってこいのお店だ。

ベティーナさんのイチオシは、ハーブの蒸留酒。ルターやゲーテのラベル付きボトルはお土産に喜ばれそう。

ゲーテ街道のハイライト 2つの世界遺産をもつワイマール

国民劇場の前に立つゲーテとシラーの像はワイマールのシンボル。

「古典主義の都」と「バウハウス関連遺跡群」という2つの世界遺産を有するワイマールは、ゲーテ街道のハイライトとなる町。若くしてザクセン・ワイマール公となったカール・アウグストに招かれ、ゲーテがワイマールにやってきたのは1775年、26歳の時だった。間もなく行政官となったゲーテは、政治家としても手腕を発揮。その後亡くなるまでの約50年間この地に住み続け、シラーらとともにワイマールの繁栄に貢献した。

世界遺産「古典主義の都」には、18世紀末から19世紀初頭にかけて花開いたドイツ古典主義の先導者である、ゲーテやシラーゆかりの建築物など十数件が登録されている。

世界遺産のひとつ、アンナ・アマーリア公妃図書館。ゲーテが館長を務めたこともある。

ゲーテが長年暮らした家は「ゲーテ・ハウス」として一般公開されており、『ファウスト』を書き上げた立ち机が置かれた書斎や息をひきとった寝室など、ほぼ当時のままの状態で見学することができる。

有名な「もっと光を」という臨終の言葉を残し、ゲーテが息を引き取った肘掛け椅子。
小柄だったゲーテは、自身が大きく見えるようにドアを小さくした。

ゲーテ自ら案を出して改装したというバロック様式の家は、淡いイエローやピンク、グリーンなどパステルカラーでまとめられ、色彩学の研究者でもあったゲーテの好みがうかがえる。来客があった際に自らを大きく見せるため、ドアを小さく作った、という微笑ましいエピソードも。

ゲーテも食べた? じゃがいも団子に玉ねぎ料理

カリッと焼かれたクロースと血のソーセージ。左奥に見えるのはアンズタケ。

地元のガイドさんの案内で、世界遺産のひとつであるヘルダー教会の前にあるレストラン「Jagemanns」(http://www.jagemanns.de/)でランチをとった。メイン料理は、こりこりとした食感の旬のアンズダケ(※取材時は夏季)と血のソーセージ。付け合わせはもちろん、テューリンゲン名物のじゃがいも団子だ。クロースと呼ばれるこのお団子は、通常はゆでて提供される。ここで初めて焼きクロースを食べたが、これは美味しい! 香ばしさともちっとした食感が楽しめて、最後まで飽きずにいただけた。

レストラン「Zum weißen Schwan」(左)の隣に見えるイエローの建物がゲーテが暮らした家。

ゲーテの家のすぐそばには、彼の行きつけのレストランが残っている。450年の歴史をもつ「Zum weißen Schwan」(http://weisserschwan.de) は、かつて日本の天皇皇后両陛下がワイマールをご訪問された際に午餐会の会場となった由緒あるレストラン。とはいえ堅苦しくない雰囲気で、ゲーテにちなんだメニューや名物の玉ねぎ料理がいただける。美食家で飲むことが大好きだったゲーテは、この店を「台所」と呼び、足繁く通っては一晩でワインを何本も開けていたとか。

ワイマールでは、毎年秋に玉ねぎ祭りが開催される。玉ねぎの飾りや玉ねぎのケーキ「ツヴィーベルクーヘン」、秋限定の新ワイン「フェダーヴァイサー」などたくさんの屋台が並び、40万人もの来場者で賑わうという盛大なイベントだ。1653年から続く古い歴史があり、ゲーテも常連だったそう。彼はこのお祭りでも、きっと大いに飲んだに違いない。

ドイツ観光局 https://www.germany.travel/en/home.html
エアフルト観光局 https://www.erfurt-tourismus.de/
ワイマール観光局 https://www.weimar.de/tourismus/tourist-information-weimar/

文・写真/坪井由美子 ドイツ在住ライター。旅行、グルメ、文化などの分野において新聞、雑誌、ウェブ媒体で執筆。レシピ連載や食のリサーチも手掛ける食いしん坊。2020年『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)出版。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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