文/鈴木拓也
23歳で歌手・俳優としてデビューし、芸能界で活躍する美木良介さん。彼にとって最大の悩みは「腰痛」であった。
20代の頃からギックリ腰を頻発し、30歳からは深刻な慢性腰痛に。日本中の名医を訪ねるものの一向に良くならず、50歳を迎えてさらに悪化。「10分立てず、10分座れず、10分歩けなかった」というひどさで仕事どころではなく、絶望感に打ちひしがれる日々。それが52歳のある日、ふとしたきっかけでみるみる快方に向かい、短期間で全快したという。
その奇跡の回復劇とその後の展開を綴ったのが、美木さんの著書『ロングブレスの魔法 呼吸を変えれば人生が変わる』(幻冬舎)だ。
独自の呼吸法で長年の腰痛を克服
本書によれば、美木さんの人生を変える「大きな気づき」があったのは、知人の勤務する病院で腰痛体操を教えてもらった時のことだという。
その体操の特徴は、呼吸を意識しながら寝たまま行うというもの。美木さんは、この体操にはあまり期待していなかったが、「呼吸」の2文字になぜか心が動いたそうだ。
腰痛で仕事を減らしていたので、時間はいくらでもある。美木さんは、図書館に通いつめ、呼吸に関する本を読み漁った。そこから「インナーマッスル」のことを知り、意識的な呼吸でインナーマッスルを鍛えれば、腰痛が緩和されるのでは、と思い至ることになる。それからは、暗中模索と試行錯誤の日々。
その後も取り憑かれたように呼吸を繰り返しました。ふと、身体がどんな動きをしているのか確認してみようと思い、上半身裸になって鏡を見ながらやってみると、息を吐くたびにお腹がギューッと締まるのがよくわかる。手を動かしたらどうなるかなど、鏡越しにさらなる研究を重ねながら夢中で呼吸を続けていくと、鼻から3秒吸って口から7秒吐くのがいちばん効くことを実感。(本書より)
やがて、腰の痛みが少しずつ引いていき、ついにはまったく痛みがなくなる。それどころか、体重は13kg余り減り、腹筋が割れるという効果もあった。20年以上も苦しんだ美木さんの、人生のターニングポイントであった。
腰痛・減量だけでなく糖尿病の改善も
美木さんは、みずから生み出したこの呼吸法を「ロングブレス」と名付け、主にテレビ番組を通じて紹介した。2010年代初めの当時は、折からのダイエットブーム。大きな反響を呼び、そのやり方を説明した書籍も出したところ、これも大ベストセラーに。
雨後の筍のようにさまざまなダイエット法・健康法が登場するなか、美木さんのロングブレスが注目されたのは、その効果の大きさによる。美木さんの出演した番組に関わったタレントやアナウンサーがロングブレスをやってみたところ、ほぼ例外なく減量効果を体感。
これで巻き起こった「ロングブレス旋風」は長く続く。腰痛改善や減量だけでなく、生活習慣病に効いたという人も続出した。
番組スタッフのSディレクターもその1人。32歳にして体重が88.4kg、血糖値420の糖尿病で、医師から入院を求められていた。彼の述懐が、『ロングブレスの魔法』に記されている。
「実は僕、ロングブレスってやる前はちょっと怪しいと疑っていました。だから半信半疑の状態で始めたのですが、実際に体験してみるとどんどん体調がよくなってくる。これまでダイエット企画はたくさん手掛けてきましたが、究極のダイエット法に出会えたと、今は思っています」
Sディレクターは、効果を検証するため糖尿病の薬をやめ、ロングブレスに賭けた。2か月後、驚くべきか体重は17.2kg減少し、血糖値は420から60へと劇的に下がっていたのである。手ごたえを得た美木さんは、2013年にロングブレススタジオを開く。
やり方は簡単な呼吸法
スタジオを開設したことで、美木さんのもとには身体の不調に病む、多くの人が訪れるようになった。そのなかには、企業経営者も少なくない。
例えば、ジャパネットの高田旭人社長やセガサミーホールディングスの里見治紀社長。二人ともひどい腰痛持ちであったのが、スタジオでレッスンを受けてたちまち回復。そのほかスポーツ選手やベテラン女優など多士済々が、美木さんの指導のもと元気になっている。
そんな話を聞くと、ロングブレスは習得の難しい特殊な健康法かと思ってしまうが、意外なほどシンプルだ。バリエーションは幾つかあるが、基本となるのが、やや後傾した立ち姿勢で片脚を半歩前に出し、お尻を締める。3秒かけて鼻から息を吸いながら、両手を頭上に上げる。それから両腕を左右肩幅に下げ、両手で大きなボールをつぶすような体勢で、7秒かけて口から息を強く吐く。細かい点は本書の解説に譲るが、簡単な呼吸法だ。
医学の専門家ではない人が編み出した健康法とあって、鼻白む向きもあるかもしれない。が、多くの体験者の証言は、目に見える効果があることのなによりの証拠。物は試しと、やってみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『ロングブレスの魔法 呼吸を変えれば人生が変わる』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。