年を重ねると、身体のあちこちに不調が現れてくるもの。そんなときは病院に行き、症状に合わせた治療を受けることが一般的ですよね。
しかし実はもうひとつ、漢方医学という選択肢もあります。
病気にならないような生活を送り、毎日をイキイキと過ごすことをめざす漢方医学の考え方を養生(ようじょう)といい、江戸時代に貝原益軒が著した『養生訓』もよく知られています。
過去に『サライ.jp』でも、現代版の養生訓になる【漢方で始める「大人の養生法」】を連載していました。今回は、この中から漢方医学に関するトリビアを10選ご紹介します。
■漢方そのものに関する意外なトリビア4選
漢方と聞いてまっさきに浮かぶのは、苦い薬草を鍋で煎じて飲む、というもの。とっつきにくいと考える人も少なくないでしょう。
そんな漢方に興味を持っていただくために、こんなトリビアはいかがでしょう?
(1)漢方薬は大きく2種類に分けられる
じつは、漢方クリニックなどで処方される漢方薬には大きく分けて、病の根本を治す本治(ほんち)と、症状に合わせて用いる標治(ひょうち)の2つの考え方が存在します。
通常は本治1種類、場合によって標治と合わせて2種類(以上)。一般的には種類が少ないほうがよいとされ、熟達した漢方医ほどその患者にあったオーダーメイドの漢方薬1種類をきれいに処方しようとするそう。
(2)水戸黄門の印籠はポータブル薬箱だった
八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)など、漢方薬には丸の文字がつくものがいくつもあります。
丸は、薬をひいて粉にし、ハチミツで丸めて作った丸薬という意味。そして水戸黄門で有名な印籠は、こうした丸薬などを入れていた持ち歩き用の薬箱のこと。水戸のご老公も漢方薬が手放せなかったようです。
ちなみにドラマ『水戸黄門』では、遊び人タイプの助さんに比べ真面目なキャラクターの格さんが、この印籠を預かる役目を務めていました。
(3)漢方薬はありとあらゆる症状で処方される
漢方薬の中でもっともよく知られているもののひとつが葛根湯(かっこんとう)。顆粒のものが薬局で気軽に買えるので、飲んだことがある人も少なくないでしょう。
葛根湯といえば風邪のひきはじめというイメージですが、じつはさまざまな症状に用いられる漢方薬なのです。
漢方薬は体質も考慮した上で選ばれるのですが、葛根湯の場合、比較的体力のある人に対しての頭痛や鼻風邪、結膜炎や乳腺炎などの炎症性疾患、肩こり、上半身の神経痛、筋肉痛、じんましんなど、さまざまなケースで処方されます。
(4)日本の漢方医に世界も注目している
西洋医学では、症状や検査結果などをもとに病名を診断し、薬を処方します。一方、漢方医は患者さんの漢方のタイプ=証(しょう)を見極め、証に合った漢方薬を処方します。
また、客観的な検査値や画像検査が重視される西洋医学に対し、漢方医学では問診をより丁寧に行い患者の自覚症状の変化を重視するなど、アプローチのしかたも対照的。
ですが日本では、西洋医学の知識を持った上で漢方の勉強をしている漢方医が多く、世界的にもとても特徴的なんだとか。伝統医療と西洋医学を融合した新しい医療として、世界からも注目されているのです。誇らしいことですね。
■すぐに取り入れられる養生のトリビア6選
漢方すなわち「漢方薬の服用」と思われがちですが、じつは同時に養生(生活習慣の改善)がとても重要。
体質と症状によって、食べ物や入浴方法といった生活習慣を変えることも欠かせないのです。
ここでは、意外と知られていない症状ごとの養生トリビアを取り上げます。
(5)日中の頻尿にはぬるめのお湯で半身浴
不意に強烈な尿意に襲われる、緊張すると尿意を感じるといった日中の頻尿は、不安や緊張などの心理的な原因が多いとされ、気が異常な方向に巡っている気逆証(きぎゃくしょう)タイプと考えられます。
気逆タイプは、過度に熱を引き起こさないことが肝心。入浴時のお湯の温度を高く設定しすぎないようにします。
長湯でのぼせてしまうのは逆効果。風呂ふたを解放し、入浴剤を用いた半身浴などでゆっくりとお風呂の時間を楽しみましょう。
(6)抜け毛予防には過度の性行為がご法度
年を重ね、抜け毛に悩む人も多いでしょう。不老不死はいまだ夢物語ですが、生活習慣や食事の内容次第で老化の進行を遅らせることは可能です。
老化防止には体を温めることが効果的。入浴や腹巻きの着用、カイロなどで腰を温めるなどもおすすめです。
一方、房事過度(頻繁すぎる性行為)は下半身のエネルギーの使いすぎになるので避けた方がよい、とのこと(あくまでも、過度の場合です)。
また、無理なダイエットも老化を加速させますので要注意。
(7)かすみ目になったら豚の角煮を
夜更かしや乾燥で目の疲れ、かすみ目を感じる人も多い今の時期。
漢方医学では、かすみ目は血(けつ)が不足した血虚(けっきょ)の状態と考えます。血の不足はかすみ目のほか肌の乾燥、髪や爪の不調となって現れます。
血を補うにはほうれん草や黒ゴマが有名ですが、豚肉、タコ、卵、バターなども有効。【漢方で始める「大人の養生法」】では、かすみ目におすすめの薬膳レシピとして、豚の角煮を紹介しています。
(8)のぼせて吐く二日酔いには唐辛子がNG
まもなく忘年会シーズンの到来で、気になるのが二日酔い対策。のぼせて嘔吐したり、手足が冷えたりするタイプの二日酔いは、漢方では気逆証(きぎゃくしょう)+熱証(ねつしょう)タイプ。
身体の熱をとることがポイントになるため、身体を温める食材(唐辛子・にら・羊肉など)を避けます。のぼせて嘔吐するタイプの二日酔いになりやすい人は、火鍋やキムチは避けたほうがよさそう。
(9)腰痛には適量のお酒がいい
慢性的な腰痛も、加齢とともに増えてくる体のトラブルのひとつ。原因としては、血のめぐりの悪い瘀血証(おけつしょう)が考えられます。
瘀血証を改善し、血のめぐりをよくする食材は青梗菜、にしん、ししゃも、酢、サフランなど。
うれしいことに、百薬の長と呼ばれるお酒も血をめぐらせる食材のひとつ。適量を飲む分にはよいとのこと。ただし、生冷飲食(生もの、冷たいものを飲食すること)は血のめぐりを悪化させるので、くれぐれも飲みすぎには注意です。
(10)間食をやめれば6,000円たまる
生活習慣を改善していくことが、漢方の基本的な考え方。ストレスなどで間食がやめられない場合も、生活習慣をいかに変えるかが重要になってきます。
毎日間食で200kcal程度摂っているなら、1か月でほぼ1kg分の脂肪が体にたまる計算に。
間食を買うお金の分と思って毎日200円ずつ貯金していけば、1か月で6,000円のへそくりに変わります。
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漢方ときくとハードルが高く感じられますが、その基本は病気にならないような生活を送る、毎日をイキイキと過ごすという、いたってシンプルなもの。ご紹介した記事をきっかけに、気軽に取り入れられる養生法を見直してみてはいかがでしょうか。
【参考記事】
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文/よりみちこ