
華やかなパリの社交界を舞台に高級娼婦ヴィオレッタの純愛と悲劇的な運命を描いたヴェルディのオペラ『椿姫』。1853年のイタリアはベネツィアでの初演から、時を重ねて今や“オペラの代名詞”と言われるほどの人気作。ここでは、4月上旬(4月2日~12日/5公演)に新国立劇場で上演されるヴァンサン・ブサール演出版『椿姫』の見どころ聴きどころを紹介します。

オペラ史上最も有名な作品のひとつ『椿姫』、その原題は「道を踏み外した女」
熱心なファンはもちろん、オペラを観始めて間もない人からも愛される『椿姫』は、聴く者の心をつかむ美しくドラマティックな音楽に加え、ストーリー(物語)がわかりやすいことから、「オペラ入門におすすめの名作」とも言われています。
イタリア・オペラを頂点に導いた作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901年)の中期の作品で、19世紀のフランスを代表する小説家アレクサンドル・デュマ・フィスの小説が原作となっています。イタリア語の原題『ラ・トラヴィアータ』(La traviata)は直訳すると「道を踏み外した女」。それが日本で『椿姫』と呼ばれるのは、原作小説のイタリア語題名を訳した「椿の花の貴婦人」が元になっていると言われます。

【あらすじ】
パリ社交界の華である高級娼婦ヴィオレッタは、富豪の息子アルフレードから求愛される。ためらいながらも彼の真摯な愛に心を開いたヴィオレッタは、二人で郊外の家に移り住み、愛の生活を送る。
そんな中、アルフレードの留守中に、彼の父ジェルモンが訪れ、娘(アルフレードの妹)の縁談のために二人の関係を終わらせてほしいと懇願。ヴィオレッタは涙をのんで身を引くことを決意し、パリに戻る。ヴィオレッタを追ったアルフレードは、娼婦仲間フローラの邸宅での舞踏会で偶然居合わせたかつてのパトロンと一緒にいるヴィオレッタを見て彼女を罵倒。別れは決定的なものになる。
時が経ちアルフレードは自らの誤解に気づくが、時すでに遅く、結核に冒されていたヴィオレッタは病床で息絶えていく。愛するアルフレードに看取られながら。

名場面を作りだす充実したヴェルディの音楽。それを聴かせるのは世界で絶賛される歌手たち!
【聴きどころ・名場面】
「道を踏み外した女」という原題に相応しい悲劇的な旋律の前奏に続いて始まる第1幕。ヴィオレッタのサロンでの華やかな舞踏会の場面で歌われるのは有名な「乾杯の歌」。続いて、恋に戸惑うヴィオレッタが「ああ、そは彼の人か~花から花へ」と自問自答する大アリア。一気に展開するここまでが最初の聴きどころ。
第2幕では、ヴィオレッタにアルフレードと別れるように父ジェルモンが迫る。ここでのヴィオレッタとジェルモンの二重唱は、数あるオペラの中でも絶品の名場面。そして、第3幕。息も絶え絶えのヴィオレッタが歌う「過ぎ去りし日よ、さようなら」で落涙のクライマックス。
【ヴェルディの名曲に挑む歌手たち】
ヒロイン、ヴィオレッタは、圧倒的な表現力と美声で観客を魅了し、世界の主要劇場から引っ張りだこの最旬ソプラノ、カロリーナ・ロペス・モレノ。世界の歌姫としてミラノ・コルティナ冬季オリンピック閉会式で「乾杯の歌」を歌った美貌のソプラノです。

アルフレードを演じるのは、ヴェルディのオペラを得意とするイタリア注目のテノール、アントニオ・コリアーノ。カロリーナ・ロペス・モレノと共に、新国立劇場初登場となります。
アルフレードの父ジェルモンには世界屈指のバリトン歌手、ロベルト・フロンターリ。新国立劇場でも『リゴレット』などのヴェルディ作品でのタイトルロールで観客を感動させてきたフロンターリが演じるジェルモンも楽しみでなりません。
華やかな舞台衣裳に込めた演出家ヴァンサン・ブサールの思いに注目
今回の『椿姫』の演出は、ファッションや照明まで融合させる美的センスに定評があり、ヨーロッパ各地の歌劇場で数々の作品を手掛けてきたヴァンサン・ブサール。上掲のイラストは今回の公演の衣裳デザイン画なのですが、描いたのは、そのヴァンサン・ブサール。ソリスト、合唱団を合わせると60人を超える歌手たちが舞台に上がる『椿姫』。舞踏会の場面などでの華やかな衣裳も大きな見どころで、そうした衣裳の一着一着に込めたブサールの思いも貴重な演出秘話としてお伝えします。

「『椿姫』という作品は、19世紀半ばの人々がどういうふうに生きてきたか、ヒロインがその時代をどのように駆け抜けていったかを表現している作品だと思います。つまり、非常に社会風刺の要素が強い作品であるということができます。この作品を上演するにあたって私は、この物語に登場する人々が、現代社会を生きる人たちに教えてくれることは何か、ということを表現したかったのです」
自身の演出による『椿姫』の新国立劇場初演(2015年5月)に当たってのヴァンサン・ブサールのインタビューでの発言。ブサールが自らデザインする舞台衣裳のデザインには、そうした意図が込められています。
まず、ブサールが狙ったのは、19世紀という作品の時代設定と、今現在との時間的な隔たりをなくすこと。だからといって衣裳を現代のものに置き換えたりするのではなく、舞台を観たときに観客の中で時代が限定されないようにしたかったと言います。
そのために、女性の衣裳のデザインは、19世紀の半ばのものに基礎をおきつつも、フォルムをデフォルメしたり、当時はなかった生地を使うなどして、より自由さを込めたデザインに。と同時に、19世紀半ばよりも古い時代を感じさせる衣裳を纏った女性を存在させたりするなどの工夫も凝らされているのです。
逆に男性は、全員がモノトーン。体にぴったりとフィットするデザインの衣裳は、ズバリ19世紀に流行った男性ファッションそのもの。そんな男性と女性の衣裳の色彩のギャップとクールさが観るものの目を惹き、物語に現代的な意味を与えていきます。






こうしてヴァンサン・ブサールがデザインした衣裳を製作したのは、衣裳スーパーバイザーのエリザベト・ドゥ・ソーヴェルザックとパリの舞台カンパニーCompagnie Les Brigands(カンパニー・レ・ブリガン)の工房。2015年の初演時の衣裳リストに記載された衣裳の点数は、女性ソリスト3役7着、男性ソリスト9人11着、女声合唱25人25着、男声合唱25人25着、合計62人68着。なんと、これらのデザインはひとりひとり違ったものになっています。多くの人物が登場する夜会の場面などでは、衣裳に目を凝らして見るのもおすすめです。
ヴィオレッタという美しく華やかなヒロインを描くメロドラマであると同時に、愛すること、今を生きることの尊さをも感じることができる『椿姫』。ヴェルディの珠玉のオペラを存分に楽しみましょう!
新国立劇場 2025/2026 シーズンオペラ『椿姫』
[全3幕/イタリア語上演/日本語及び英語字幕付]
公演日程 2026年4月2日(木)〜4月12日(日)
約2時間45分(休憩含む)
■新国立劇場オペラサイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/latraviata/
■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)
取材 堀けいこ





