文・写真/横溝絢子(海外書き人クラブ/トルコ在住ライター)
65歳以上の外出禁止
コロナ禍におけるトルコでは、学校やショッピングモールの閉鎖、カフェ、レストランの店内飲食禁止、スポーツ試合や宗教儀式、集会、職場への通勤の厳しい規制が続いている。
スーパーマーケットの営業について、午前9時から午後9時までの営業が許可されているが、少なくとも1メートルの間隔で並ぶなど密集回避が義務付けられている。屋外マーケットも食品や日用品を扱っている店舗だけが営業を認められ、3メートルの間隔を空けるなど厳しい規制が設けられている。
そして現在、20歳以下および重症化のリスクが高いは65歳以上が外出禁止となっており、外出禁止を破った場合は罰金の対象となる。
そんな中、トルコの各自治体では、外出禁止で買い物に行けない65歳以上の市民のために無料で代行を行う取り組みを行っている。
トルコには老人ホームのような施設がなく、イスラムの習慣に基づき、お年寄りは家族が一丸となってお世話するもの、年老いた両親と同居することは当たり前となっている。
それでも子供が遠くに住んでいる65歳以上の市民や身寄りのないお年寄りは存在するため、この取り組みは必要とされている。
また買い物の代行のみでなく、本人がいかなくてはならない病院や銀行への訪問補助もある。警察へ繋がるダイヤル155にかけると、そこで車両の予約をすることができ、該当の日時に行政の車が手配される。これはトルコ国民のみならず、トルコの滞在許可証(イカメット)を保持する外国人も利用できる。
餌の配布で野良猫保護
カフェ、レストランの店内飲食禁止(デリバリーのみ可)により影響を受けている意外な生き物は野良猫。
国民のほとんどがイスラム教であるトルコは動物に優しい国。イスラム教の預言者ムハンマドと愛猫ムエザの逸話がよく知られている。ムハンマドが礼拝のため外出しようとしたところ、ムエザが着ようとしていた服の袖部分で熟睡している。ムハンマドはエムザを起こさないように、袖の部分をハサミで切り取り、片方の袖がないまま出かけてというもの。
また1日5回の礼拝の前に手足や口を水で清めるイスラム教徒にとって、グルーミングを行う猫は犬などの他の動物に比べて清潔な生き物とされている。
このようなことから、トルコでは猫の愛護活動が盛ん。レストラン、カフェなどでは客の残飯を取っており、猫に与えるところが多い。そしてコロナ禍では、レストラン、カフェでの飲食が禁止となり、残飯が残らなくなったことを懸念し、各自治体の有志において、週に数回、街中に猫餌が撒かれている。
買い占めの起きないシステム
現在トルコではマスクの販売が一切禁止されている。マスクが必要な市民(外出禁止対象外の年齢)は、トルコ郵便が運営するショッピングサイトより身分証番号や住所などの情報を記入し、一人週5枚の使い捨てマスクが薬局により受け取れる仕組みになっている。
このシステムにより、必要な市民にだけマスクが行き渡ることになり、マスクの転売も不可能であるため、医療機関へのマスク不足がない状態でいることが可能となっている。
また市民や動物にでさえ配慮が行き届いているとの安心感からか、消毒液等の一時的な品薄はあったが、他の日常必要品の過度な買い占めも現在までに起こっていない。
コロナの本当の恐怖やパニックは、差別や生活への不安といった要素から生まれているものかもしれない。
中東一、新コロナウイルス患者の多くなってしまったトルコであるが、元々食料自給率が100%を超えていること、そして外出禁止になってしまったとしても、政府の迅速な補助があり、また動物愛護の余裕があると示されたことは、市民に大きな安心感を与えていると思われる。
文・写真/横溝絢子(トルコ在住ライター)
銀行員として5年以上住んだニューヨークを離れ、トルコの田舎町、カッパドキアの大ファンになり、移住。2011年より開始。これまでの連載執筆経験、メディア出演実績などは以下の通り。地球の歩き方イスタンブール特派員(連載中)、NHK BS1「世界で花咲け! なでしこたち」、メディアファクトリー「ヤマザキマリのアジアで花咲け! なでしこたち」、BSジャパン「速水もこみち トルコ食紀行」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」、毎日放送「世界の日本人妻は見た! 」、NHKラジオ第1「ちきゅうラジオ」、TOKYO FM「コスモ アースコンシャス アクト」など。海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。