教会がモスクに転換！これからどうなる、世界遺産アヤソフィア（トルコ）
文・写真／横溝絢子（海外書き人クラブ／トルコ在住ライター）
世界遺産アヤソフィアとは
トルコのイスタンブールを代表する世界遺産アヤソフィア。もとは6世紀に東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル（現在のイスタンブール）におけるキリスト教の大聖堂として建設されました。長らくギリシャ正教の総本山でしたが、1453年にオスマン帝国がこの街を征服したことをきっかけに改修されモスクとなり、20世紀初頭まで使われていましたが、1934年にトルコ政府がこれを世俗化（宗教組織から切り離すこと）し、博物館となり、1985年にイスタンブール歴史地区の一部として、ユネスコの世界遺産として登録されました。
アヤソフィアは誰のものか
その後、イスラム原理主義者によりアヤソフィアをモスクに転換するよう求める動きがあり、2005年、トルコの最高行政裁判所に対し、アヤソフィアは、本来1453年にコンスタンティノープルを征服したオスマン帝国のスルタン（君主）メフメト2世が設立した財団のものであるとの訴えが起こされました。
そして7月10日、最高行政裁判所はこの訴えを聞き入れ、メフメト2世の時代に作られた不動産証書において、アヤソフィアはモスクとして登録されており、これ以外の目的で使用されることは違法であるとの結論を下しました。この決定を受けて、エルドアン大統領により、建物の管轄がこれまでのトルコ文化省から宗務庁へと移管されました。
86年ぶりのモスク化
その後アヤソフィア内には、キリスト教の聖母子画などが描かれていますが、イスラム教では偶像崇拝が禁じられているため、布で覆い隠す措置が取られ、また礼拝用のじゅうたんが敷かれるなど一気に「モスク化」が進められます。86年ぶりにモスクとなったアヤソフィアで7月24日に開催された金曜礼拝には、大統領も参加し、敷地内外に全国から数万人規模の国民が詰めかけ、歓迎の声が上がりました。
国際社会からは批判の声
ユネスコはモスク化の決定を受け、公式声明にて「事前協議なしにアヤソフィアをモスク転換したトルコ当局による決定は非常に遺憾」だと発表しました。またトルコ当局に対し「即刻、協議するべき」と訴えています。
東方正教会の指導者や、信者の多いギリシャもこの決定を非難しています。東方正教会最大のロシア正教会も、トルコの裁判所が正教会の懸念を考慮に入れてなかったことに遺憾の意を示しています。
これからのアヤソフィア
アヤソフィアが宗教施設となったことで、これまでの入場料1人100リラ（約1,500円）が無料となります。また「アヤソフィア イ ケビル ジャーミィ (Ayasofya-i Kebir Camii)」と改名されました。1,500年前に建てられたアヤソフィアの維持・修繕費は、今まで博物館としての入場料に頼っていましたがその収入はなくなることになります。
アヤソフィアが宗教施設として復活したことで、世界遺産としての認定が取り消されるわけではありません。モスク化された現在は、礼拝時間の１時間前に一般公開を一時停止、礼拝終了の30分後に再開され、一般公開中はモザイク画を見ることができます。
今後もアヤソフィアがユネスコの世界遺産として登録を続けるには、トルコ当局による適切な保存努力と、引き続き一般公開が必須になります。
文・写真／横溝絢子（トルコ在住ライター）プロフィール
銀行員として5年以上住んだニューヨークを離れ、トルコの世界遺産都市、カッパドキアの大ファンになり、2011年より移住。現地女性の手仕事、トルコ刺繍（オヤ）を日本にむけて販売（デイジーカッパドキア）、また通訳および旅行コーディネーターを行う。これまでの連載執筆経験、メディア出演実績：NHK BS1「世界で花咲け！ なでしこたち」、メディアファクトリー「ヤマザキマリのアジアで花咲け! なでしこたち」、BSジャパン「速水もこみち トルコ食紀行」、読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」、毎日放送「世界の日本人妻は見た！ 」、NHKラジオ第1「ちきゅうラジオ」、光村図書出版「英語教科書」、小学館「サライ.jp」および「みんなの教育技術」、日経BP「日経ARIA」、朝日新聞出版「ジュニアエラ」など。海外書き人クラブ会員（https://www.kaigaikakibito.com/）。
