文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)

ICT化が進んでいたので、自宅学習移行もスムーズ

欧州オランダでは、日本から2週間遅れの3月16日から義務教育の休校が始まった。

あまりイメージがないかもしれないが、もともとオランダの小学校のICT(Information and Communication Technology・情報通信技術、ITと同義)化は非常に進んでいる。すべての教室にスマートボード(電子黒板)が導入されている小学校も、決して珍しくない。そんな教育環境を最大限に生かし、普段から様々な教育ソフトウェアを活用しているのだ。

スマートボードがある小学校の教室

スマートボードがある小学校の教室

そういった理由から、オランダの小学校は、突然の政府からの休校要請(日曜夕方の政府発表で、翌日からの休校)にもかかわらず、自宅学習にスムーズに移行することができた。けれどそれは、画面越しに担任教師が講義を行うような「オンライン授業」ではなく、普段の授業で使用していた教育ソフトウェアに自宅からログインして行う「自宅学習」である。
小学校ごとに使用ソフトに差はあるものの、算数は「Gynzy」(https://www.gynzy.com/en/)というソフトウェアが人気だ。
こちらのリンク先の動画(https://www.youtube.com/watch?v=-Pw5m5I9LMQ)で、「Gynzy」がどのような仕様なのか確認できる(オランダの普段の教室の様子も垣間見られる)。

こういった教育ソフトウェアは通常学校ごとに使用契約を行っている。オランダは教育の自由が保証されているので、どのようなメソッドで教えるか、どのような教科書や教育ソフトウェアを使用するかということは、学校ごとに任されている。

その日の課題が指定されたスケジュール表

その日の課題が指定されたスケジュール表

ちなみに、どこの学校も「その日するべき課題」は決まっているが、しっかり時間割に組み込んでいるかどうかは学校によって異なる。筆者の子供の学校は、何時にどの課題に取り込んでも良い放任スタイルだ。けれど、他の小学校はしっかり時間割を作っているとも聞いている。

担任教師と生徒のコミュニケーションも円滑に

オランダでは、教師と保護者が専用の連絡アプリでやり取りするのがスタンダード。そのアプリ経由で、面談の予約なども行うことができたりもする。今回の休校で、そういうツールを生徒と教師間で使い始めた学校も多い。

教師は、その連絡アプリ経由で日々の挨拶や業務連絡を生徒あてに送信している。筆者の子供が通う小学校は、そのアプリのチャット機能を使い、平日の午前中は勉強の質問をすることができる。

担任教師に書き取りドリルを撮影して送信

担任教師に書き取りドリルを撮影して送信

ここまではデジタル寄りのことしか書いていないが、学校からは紙ベースで行う書き取りドリルのようなものも支給されている。そういった課題は、やったページを撮影し、教師に先ほどの連絡アプリ経由で提出している。

タブレット越しに担任やクラスの仲間とビンゴをするオランダの小学生

タブレット越しに担任やクラスの仲間とビンゴをするオランダの小学生

また、4月からは「Microsoft Teams」(https://www.microsoft.com/en-us/microsoft-365/microsoft-teams/group-chat-software)という会議ツールを使って、クラスミーティングを行う学校が増えた。筆者の子供の学校は、授業というよりも担任がホストになってみんなでビンゴをしたり勉強にまつわるクイズ大会を行ったりと、生徒たちの寂しさをまぎらわせることに活用されている。

ドリルのオンライン提出しかり、デバイス越しのビンゴ大会しかり、オランダの自宅学習はアナログとデジタルが上手く融合されている。

自宅学習のために、デジタルデバイスとWiFiをサポート

学校からデジタルデバイスを借りることもできる

学校からデジタルデバイスを借りることもできる

ここまで読んで、「インターネット環境やデジタルデバイスが無いとできないな」と感じた方もいるかもしれない。オランダも、「WiFiやデジタルデバイスが無い家庭は、自宅学習から取り残されてしまう」と休校開始当初から問題になっていた。そのため、政府は早々にこの休校中の自宅学習のために250万ユーロ(約2億9千億円)の予算投入を決定。その他にも、様々な財団や基金がラップトップの提供を名乗り出て、把握できているだけでも1万6千台のラップトップが寄付された。ラップトップを持たない生徒は、こういったラップトップを主に学校経由で貸与されている。貧困家庭ばかりではなく、「兄弟が多いので、同時に自宅学習するにはデバイスが足りない」というような理由でも貸し出しは許可される。

その他にも、WiFi環境整備をサポートする自治体もある。首都であるアムステルダム市は、450世帯のWiFi整備をしたと報道されている。

このように、国を挙げて休校中の自宅学習を後押ししていることがうかがえる。

自宅学習するオランダの小学生

自宅学習するオランダの小学生

オランダの小学校は、5月11日からの再開が予定されている。けれど普通に開けるのではなく、クラスの人数を半分にし、隔日で登校するグループと自宅学習するグループに分けることになった。教室の人口密度を減らす作戦だ。それが功を奏するのかどうかはまだ分からないが、今後もオランダの奇抜な取り組みからは目が離せない。

[Ruim 16.000 laptops en tablets ingezet voor onderwijs op afstand]
https://nos.nl/artikel/2329347-ruim-16-000-laptops-en-tablets-ingezet-voor-onderwijs-op-afstand.html
[Zorgen over niveauverschil thuislerende kinderen: ‘Verschillen straks groot’]
https://nos.nl/artikel/2328823-zorgen-over-niveauverschil-thuislerende-kinderen-verschillen-straks-groot.html

文・写真/倉田直子 (オランダ在住ライター)
北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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