宮崎市と鹿児島市のちょうど中間に位置する宮崎県都城市は、「肉と焼酎のふるさと」です。日本一の売り上げを誇る焼酎メーカー・霧島酒造の本拠地であり、日本一の産出額を持つ食用の牛、豚、鶏の産地でもあります。そして、この焼酎と肉をアピールした「ふるさと納税」が注目を集め、2015年度上半期には、ふるさと納税による寄付額が全国最多を達成しました。今回はそんな「焼酎と肉のふるさと」都城市を訪ね、うまい芋焼酎と都城ならではの美味を2回にわたって紹介します。
「あなたの知らない都城は、あなたの好きな黒霧島の故郷です」
この斬新なキャッチコピーを作ったのは、2015年度上半期にふるさと納税による寄付額が全国最多額となった宮崎県都城市。寄付の総額は13億3300万円、寄付を行なった人の95%は、都城市とは特に縁がない他府県の人たちだったそうです。そのことからも、この取り組みが非常に注目されたことがうかがえます。
「ふるさと納税は、都城市を知ってもらうためのツールのひとつとしてとらえています」と、にこやかに語るのは市長の池田氏。
都城市には、本格焼酎『黒霧島』などの銘柄で知られる霧島酒造があります。2014年で3年連続焼酎メーカーとしては日本一の売上高を誇る霧島酒造は、全国での知名度が群を抜いています。この焼酎と並んで、産出額全国1位というのが、都城市の特産品である食用の牛、豚、鶏です。
都城市では、ふるさと納税の返礼品をこの「焼酎と肉」というふたつの名産に絞り、大きくアピールしてきました。例えば、一升瓶の焼酎が365本送られてくる「焼酎1年分」など、インパクト絶大な返礼品の数々がネットで話題を呼びました。
今回は、このユニークな取り組みを打ち出した都城市を訪ねます。
雄大な景色に囲まれた霧島酒造の工場へ
最初に訪れたのは霧島酒造です。澄んだ空気の向こうに広い空と雄大な霧島連山を望む大淀川に沿って立つのが、霧島酒造の本社増設工場。
霧島酒造の創業は1916年。初代の江夏吉助氏が本格焼酎の製造を開始し、1949年に現在の霧島酒造株式会社となりました。2代目の江夏順吉氏は名ブレンダ―としても知られた人物で、独自の蒸留器の開発や仕込み水に地下水の「霧島裂罅水」(きりしまれっかすい)を採用して、優れた焼酎造りに手腕を発揮したといいます。
その匠の技を生かした焼酎造りは、天井の高い広々とした作業場で米麹を造る「米蒸し」から始まります。専用の大きな蒸し器では、ちょうど洗米・浸水した米を蒸していました。外側は硬く、内側は柔らかくなるように蒸しあげた米は、麹菌が生育しやすい温度に管理し、麹室に運ばれます。
麹室の中は手を入れると、ほんのりと温かさを感じる温度です。この温度管理が、いい麹を造る秘訣といいます。できあがった米麹が黒ずんで見えるのは、黒麹菌を使っているため。食べてみると、ほのかに酸味のある独特な味わいです。
麹造りの手順は日本酒とほぼ同じですが、焼酎の麹菌を使うことで酸味のある麹ができるのです。酸味の正体はクエン酸で、この強い酸が腐敗やカビの繁殖を抑えて焼酎もろみを守り、いい焼酎が生まれるといいます。
工場内は大量の仕込みを行なうため、随所が機械化されていますが、大切な部分は今も人間が手をかけているのが印象的です。例えば、仕込みに使うさつま芋「黄金千貫」(こがねせんがん)は、洗浄された後、焼酎の酒質に悪影響を及ぼす品質の低い部分を、人の手でひとつひとつ切り落とされていました。
会社は大きくなり機械化が進んでも、良い焼酎を造る姿勢は2代目江夏順吉氏の時代からしっかりと受け継がれているのです。
今回、紹介した本社増設工場は一般には公開していませんが、「霧島ファクトリーガーデン」にある志比田増設工場は随時見学ができます。また、焼酎の製造工程や原料となる「黄金千貫」や天然の地下水「霧島裂罅水」などについては、同じ敷地内のミュージアムに詳しく展示されています。
取材協力/霧島酒造株式会社
http://www.kirishima.co.jp/
文/岡本ジュン