文・写真/長谷川律佳(海外書き人クラブ/メキシコシティ在住ライター)

メキシコのお酒と聞くと真っ先に思い浮かぶのはテキーラ、という人がほとんどではないだろうか。だがメキシコが誇る酒はそれだけではない。いにしえから飲み継がれている「神の酒」や世界中で人気が高まっている地酒など、今注目したいメキシコのお酒をご紹介しよう。

安酒のイメージを一新したメスカル

まず初めはメスカルから。アガベ(リュウゼツラン)を主原料とする蒸留酒と聞けば「なんだそれならテキーラと一緒ではないか」と思う方もおられるはず。そもそも、「テキーラ」とはアガベから作る蒸留酒のうち、1994年に設立された「テキーラ規制委員会」が定めた基準をクリアしたものだけに与えられる称号。つまり、テキーラはメスカルの一種、なのである。

メスカルのお伴はライムではなくオレンジ。そこにチリパウダーを混ぜた塩と乾燥させたグサノ(イモムシ)があれば完璧だ。

メスカルのお伴はライムではなくオレンジ。そこにチリパウダーを混ぜた塩と乾燥させたグサノ(イモムシ)があれば完璧だ。

かつては「安酒」のイメージが強かったが、若者を中心に復権し今やアメリカ合衆国ではハリウッドスターや人気歌手がメスカルブランドを立ち上げるほどの世界的なブームになっている。

その特徴はなにより香ばしくスモーキーな味わい。この薫りの秘密はその工程にあるという。ピーニャとよばれるパイナップルのような形をした茎の部分を地中で蒸すのだが、その期間、実に3日。これが燻したような香りになる秘訣なのだ。

地中に埋められたピーニャ。この上に、大きな布をかぶせる。

地中に埋められたピーニャ。この上に、大きな布をかぶせる。

テキーラがオートメーション化された工場で大量に生産される一方、メスカルはピーニャを蒸すところから瓶のラベル貼りまですべて手作業。オロ・デ・オアハカのメスカル工場を見学した際、蒸したピーニャをつぶす役は未だに馬が担っていると聞いて驚いたものだ。

蒸したピーニャをつぶす馬

メスカル好きの友人にその魅力はなにかと聞いてみると「作り手やアガベの種類(ブルーアガベのみを主原料とするテキーラと違い、メスカルはブランドによって異なるアガベが用いられている)、そして生育する土壌によって味にバラエティがあるのが面白い」のだそう。メスカルはショットで職人の技をじっくり味わうのがいいだろう。

現地でしか味わえない「神の酒」

メスカルのような蒸留酒が生まれる以前からはプルケという名のお酒が存在している。日本のどぶろくに似た白濁した醸造酒で、こちらもリュウゼツランの一種マゲイから採取した「アグアミエル」という透明の液体を発酵させる。プレヒスパニックの時代には祭事に使われていたため「神の酒」という呼び方をされることも。

アココテという植物をストローのように使ってアグアミエルを吸い出す。

アココテという植物をストローのように使ってアグアミエルを吸い出す。

アルコール度数は4%程度と低く、プロテインやミネラルそしてアミノ酸といった栄養素を多く含むプルケ。「トラスカラ州やイダルゴ州などの産地ではアルコールというよりは栄養補助的に子どもの頃から飲んでいるんだよ」とは、先日メキシコシティにオープンした「プルケ博物館」の取材時にメキシコ人記者から聞いた話だ(メキシコの法律では18歳未満の飲酒は禁止されている。念のため)。

現在はナッツや、イチゴのようなフルーツフレーバーのプルケも人気。

現在はナッツや、イチゴのようなフルーツフレーバーのプルケも人気。

プルケは発酵速度がとても速く、メキシコ国外に持ち出すのはなかなか困難。ぜひメキシコ旅行の際にお試しいただきたい。

プルケは発酵速度がとても速く、メキシコ国外に持ち出すのはなかなか困難。

ラテンアメリカ最古の歴史を持つメキシコワイン

さて、リュウゼツランを原料とするお酒からちょっと離れてお話を続けよう。
メキシコは先にご紹介した地酒以外に、実に400年以上もの歴史を誇るお酒がある。それが、ワインだ。

Madera 5提供

Madera 5提供

ラテンアメリカ産のワインといえばチリやアルゼンチンが有名どころだが、実はアメリカ大陸で一番古い醸造所はメキシコのコアウイラ州にある。ただしメキシコでのワイン産業は、1595~1822まで統治国スペインによって禁止されていた。というのも、メキシコ産ワインの質のよさ、そして生産量とがスペインのワイン産業にとって脅威となったからである。

Madera 5提供

Madera 5提供

現在では国内11の州でワインが作られているが、そのうち、バハ・カリフォルニア州エンセナーダ近郊のバジェ・デ・グアダルーペは世界各地のワイナリーやワイン愛好家からも熱い視線を注がれる地。ロサンゼルスからは世界のワイン好きたちが3000人規模の客船でエンセナーダに乗り付け、さかんにワイナリーツアーも行っているほどだ。

Madera 5提供

Madera 5提供

バジェ・デ・グアダルーペにあるワイナリーMadera 5のオーナー、マウリシオ・カントゥ氏によると「バハ・カリフォルニアのワインはそのはっきりした渋みや舌触りが特徴的」だという。

居酒屋蔵のオーナーシェフ松本武也さん

また、Madera 5やPijoanといったワイナリーとのコラボワインを提供しているメキシコシティの人気店・居酒屋蔵のオーナーシェフ松本武也さんは「バジェ・デ・グアダルーペのワインは、いわゆるミディアム~フルボディラインでありながら、重すぎない味」なのだとその魅力を話してくれた。

メスカルおよびメキシコワインは日本の通販サイトでも取り扱いがある。これを機に、テキーラだけではないメキシコの新たな一面を味わってみてはいかがだろう。

文・写真/長谷川律佳(メキシコシティ在住ライター)
2010年よりメキシコシティ在住。現地旅行会社が発行する日本語・スペイン語バイリンガルフリーペーパーの編集長を経て、2015年よりフリー。現在、書籍やwebにて執筆。海外書き人クラブ会員(http://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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