文・写真/御影実(オーストリア在住ライター)
ハプスブルク帝国の都ウィーンを首都に持つアルプスの小国オーストリア。国のサイズは北海道と変わりませんが、この国にはなんと1500もの城があります。
今回は、そんな古城の国オーストリアのなかでも、ぜひご紹介しておきたいとっておきの名城を6件ご紹介します。
オーストリアの城、基本のき
オーストリアの公用語であるドイツ語で、「城」は主に「シュロス」(Schloss)と言いますが、ドイツ語には他にも「城」を示す言葉がたくさんあります。まずは様々な「城」を、用途や特徴の違いでご説明しましょう。
ブルク(Burg)は、軍事拠点に位置した、戦い守るための「城塞」です。中世の無骨な古城や要塞を指し、地理上の軍事拠点にそびえるケースが多いです。山の上や河沿いの立地が多く、派手さやきらびやかさよりも戦いやすさや防御のしやすさを優先した実用的な外見となっています。ハンガリーやチェコなど隣国からの侵略に悩まされたオーストリアの歴史を反映しています。何重にも重なった城門や城壁、堀、塔などが特徴で、日本の古城とも重なる点が多く、軍事拠点としての実用性が重視されていたのがわかります。
一方、パラスト(Palast)は街にあり、王侯貴族が舞踏会を楽しんだ「宮殿」に近いものです。他にも、城塞が整備されずに放置された廃墟(Ruine)や、巨大な富を持った修道院(Kloster)、貴族の狩猟用の別荘(Jagtschloss)なども、「城」に含まれます。
このようにオーストリアで「城」と一口に言っても、非常に広範囲に渡ります。では、それぞれの特徴を示す城をご紹介していきましょう。
【1】ラポッテンシュタイン城
まずはブルク(Burg)の例として、12世紀に建てられたラポッテンシュタイン城を紹介します。山頂の更に上にある巨大な岩の上に作られた古城です。戦略的には、チェコからオーストリアを守る立地にあります。
【2】アックシュタイン城
同じくブルク(Burg)に分類されるのが、ドナウ川を見下ろす岩山の上に建つアックシュタイン城です。昔は船から通行税を取る役割を担っていたり、一方で船から金品を強奪する領主が住んでいたりと、様々な伝説を残しています。
【3】貴族の宮殿、パレ・ダウン=キンスキー
パラスト(Palast)は英語のpalace(りっぱな邸宅、館)にあたり、帝都に住む貴族の住居として建てられたものです。17世紀バロック時代以降のものが多く、オーストリアではそのほとんどが、ウィーンに居住していた貴族の館を指します。
ウィーンの旧市街に建つ宮殿「パレ・ダウン=キンスキー」は、ボヘミア(チェコ)の貴族キンスキー侯爵家の住居でした。18世紀に建てられたバロック様式の建築物で、幼少時のモーツァルトもここで演奏会を開いたことが記録されています。内部はまさに豪華絢爛。ハプスブルク帝国貴族の贅を尽くした建物です。
現在でもウィーンに数多くの宮殿が残されていますが、結婚式や舞踏会などのイベントスペースやレストラン、ホテルとして利用されています。
【4】古城の廃墟、コルミッツ城
廃墟になった古城には独特の雰囲気があり、いにしえの戦のあとに草や木が生い茂る様子は、歴史好きな人の心を打ちます。
森林に囲まれたコルミッツ城は、13世紀にはすでに記録に残されており、数々の領主の居城となりましたが、17世紀以降重要性を失い、廃墟となりました。現在は残された塔に登ることができ、廃墟の探検気分が味わえる貴重なスポットとなっています。
廃墟とは言っても、自由に内部見学も可能ですし、山の上から絶景を眺めながらピクニックや軽食を楽しむ家族連れで賑わう、人気の日帰り旅行先となっています。
【5】クロスターノイブルク修道院
中世からある古城より豪華な建物といえば、修道院。広義の「城」には、修道院も含められ、その壮麗な建築と奥の深い歴史や伝説は、多くの訪れる人を魅了します。
当時の知識階級であった聖職者が学問や医学を修め、周辺地域の封建領主として富を蓄えていた修道院は教会権力の象徴でもありました。
ウィーン郊外にあるクロスターノイブルクは、聖人伝説も残る歴史の古い修道院です。中世初期にはここに首都機能があった時代もあり、周辺地域の領主として富と栄華を極めました。
【6】貴族の狩猟の館、エッカーツアウ
ハプスブルク帝国の王侯貴族の多くは狩猟を趣味とし、田舎に広大な森と館を持っていました。この館はヤークトシュロス(Jagtschloss)と呼ばれ、豪華な宮殿とは異なり、持ち主とその招待客が狩猟を楽しむための別荘として使われました。
内部の特徴として、大量の鹿の角が飾られていたり、個人所蔵の小さな図書室があったりと、貴族の充実したプライベートが垣間見えます。
ハプスブルク家と深い縁があり、サラエボ事件で暗殺された皇位継承者フランツ・フェルディナンドが愛した狩猟の館、エッカーツアウは典型的なヤークトシュロスで、二階の居室には数え切れないほどの鹿の角が飾られています。
現代も使用されている古城
オーストリアで、古城は愛でるためだけにあるわけではありません。多くの城が現在もそれぞれの役割を持ち、地域の文化や歴史を伝え、有効利用されています。
観光用に整備公開されているだけでなく、ホテル、博物館、結婚式場、映画のロケ地、祭りの開催地などの用途での利用や、副業としてワイン醸造や養蜂を行っている城もあります。自治体に運営を任され、研修所や幼稚園や老人ホームとして利用されている城も多く、過去の遺物としてではなく、歴史を語り継ぐ生きた証人として今でも活用されています。
このように昔から現在まで、様々な表情を見せるオーストリアの古城。ウィーンにある宮殿から、荘厳な城塞まで、それぞれの歴史と魅力を発見してみる城めぐりの旅、なかなかいいものですよ。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ所属。