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旅行

二度の大戦と冷戦を見守った、国境近くのローカル線「グライヒェンベルグ鉄道」(オーストリア)

文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)

オーストリアには、さまざまな歴史背景を持ったローカル線が数多くあります。今回はそんな中でも、ヨーロッパの近現代史の縮図ともいえる「グライヒェンベルグ鉄道」をご紹介します。

レトロな車体と美しい風景が魅力の路線ですが、オーストリアの南東の端という地域ならではの歴史を背負っています。今回は、そんな歴史をひも解きながら、列車と一緒にヨーロッパ近現代史を駆け抜けてみましょう。

グライヒェンベルグ鉄道

●アクセスと特徴

オーストリアの首都ウィーンから、シュタイヤーマルク州の州都グラーツまで、オーストリア国鉄で南へ2時間半。このグラーツからさらに各駅停車で1時間南下したところに、フェルトバッハという町があります。グライヒェンベルク鉄道はここを出発し、さらに南のバート・グライヒェンベルクという温泉町へ向かうローカル線です。

ローカル線とはいっても、観光用なだけではなく、この地方の住民の貴重な足となっているため、平日週末にかかわらず、通年一日4本運行しています。距離は21キロメートルで、所要時間は約30分。チケットは車内で購入できます。

観光客と、仕事や学校帰りの地元の人たちが入り混じった客層は、不思議とアットホーム。小さな無人駅で、現地のお客さんが運転手と軽くおしゃべりしながら乗降するのを見るのも、ローカル線の楽しみの一つです。

グライヒェンベルグ鉄道

●二度の大戦を見守った、国境の路線

ハプスブルク時代に既に鉄道敷設の計画があったこの地域は、東のハンガリーと南のスロヴェニアの国境からほど近く、二度の世界大戦を見守ってきました。

第一次世界大戦中は、出発駅のフェルトバッハからほど近いところに捕虜収容所があり、のちに傷病兵のための病院として使われました。

グライヒェンベルグ鉄道

この路線の正式な運行は1931年からですが、第二次世界大戦中は、オーストリアと、のちの共産国スロヴェニアとハンガリーの国境近くという立地から、この全路線の区域が戦場となり、運行はストップしました。

戦後徐々に路線は復興し、1948年には再開通しますが、冷戦時代は「鉄のカーテン」のすぐそばということで、オーストリアの中では見捨てられた僻地でした。ハンガリーやスロヴェニアのシェンゲン地域への加入により、国境が自由に行き来できるようになり、つい最近になってオーストリアだけでなく、隣国の旅行客が訪れ、活気が出てきました。

このように、国境近くという立地から、二度の戦争と冷戦の影響を強く受けたこの地域は、今ではさまざまな国から観光客を受け入れ、観光産業に力を入れています。また、冷戦時代に見捨てられていた森林では、美しい自然の車窓風景やハイキングを楽しむことできます。

まさに、冷戦終結とEU内の移動の自由により、息を吹き返した地域といえるでしょう。

グライヒェンベルグ鉄道

●レトロな電車で田園風景を行く

フェルトバッハ駅で乗車する電車は、1931年から現役のE1です。1980年に改修、改装され、レトロな水色車体に今でも乗客を乗せて走っています。また、ここではもう一台、E2と呼ばれる赤と緑と白のカラフルな車体の電車も走っています。

この路線は直流電化標準軌線ですが、この地域独特の、連続する丘の尾根を上がったり下がったりしながら走るのが特徴的です。車体が古いこともあり、車内でもかなりの上下動を感じることができます。

通常車内はとても空いていて、国境のローカル線の旅情を味わうことができます

グライヒェンベルグ鉄道

車窓からの風景は、「ジャングル・エクスプレス」の異名にふさわしく、この地域特有の丘のほか、果樹園やブドウ畑、畑や森など、自然豊か。傾斜は42‰(パーミル)になるところもあり、世界遺産で有名なセメリング鉄道より急勾配で、アルプス地域では最も急勾配の粘着式鉄道(駆動力が車輪にかかって車輪とレールの間の静摩擦に頼って走行する鉄道)とされています。

車窓からの風景は、オーストリアの田園風景のハイライトを集めたよう。

小さな町から始まり、畑や農家が広がります。

グライヒェンベルグ鉄道

さらに、ブドウ畑や果樹園が広がる丘陵地帯を抜け、次第に列車は「ジャングル」のような森の中に入っていきます。

グライヒェンベルグ鉄道

この辺りが、第二次世界大戦では戦場となり、冷戦時代には「鉄のカーテン」間際の地域として見捨てられていた、南東オーストリアの風景です。歴史を見守り、歴史に翻弄されてきた地域だからこその、取り残された自然の豊かさといえるでしょう。

●近隣の見どころ

せっかく見どころの多いこの地方を訪れたのですから、近隣のスポットも合わせて回ってみましょう。

フェルトバッハ駅の北には、その勇壮な姿と魔女伝説で知られるリーガースブルク城がそびえています。

グライヒェンベルグ鉄道

また、手作りチョコレートで有名なツォッターのチョコレート工場は、何百種類のチョコレートを味見することができ、この地域の観光産業を支えています。

さらにこの辺りは、特産のシルヒャーと呼ばれるロゼワインが有名で、ワイン居酒屋「ブッシェンシャンク」では、気軽にワインと軽食を楽しむこともできます。

* * *

レトロな水色の電車に乗って、ヨーロッパの近現代史に思いを馳せつつ、自然豊かな美しい車窓からの風景を楽しむ、グライヒェンベルク鉄道。オーストリアの鉄道の中でも、僻地でレア度満点のローカル線の旅をお楽しみいただけることでしょう。ぜひ当地の観光がてら、乗車してみてください。

文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

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