文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)
オーストリアに10か所ある世界遺産のうち、ドナウの湾曲した流れと、山と渓谷の美しい景色、美味しいワインで知られるヴァッハウ渓谷は、ウィーンからの日帰り旅行先として人気です。
今回は、そんな世界遺産ヴァッハウ渓谷を走り抜けるローカル線「ヴァッハウ鉄道」に乗って、歴史と自然とワインを楽しむ旅に出てみましょう。
●アクセスと楽しみ方
ヴァッハウ鉄道は、ウィーンからオーストリア国鉄で1時間ほど西のクレムス駅から出発しています。
3月末からの10月の週末のみですが、7~9月は平日も一日三本運行しています。通常、予約不要で飛び乗ることができ、チケットは車内で購入できます。
出発駅のクレムスから中世の歴史の残る街デュルンシュタインまでが人気の区間ですが、クルーズ船の船着き場のあるシュピッツ、考古学的発見で有名なヴィレンドルフを経て、終点のエマースドルフまでの全行程は1時間弱。
本数が少ないため、列車のスケジュールと街歩きや観光の時間との調整が難しいですが、クルーズ船や路線バスとうまく組み合わせ、乗り物を楽しみながら見どころを回ることもできます。
●ヴァッハウ鉄道の車窓風景
ウィーンから南へ1時間、オーストリア国鉄クレムス駅から、金色の車体のヴァッハウ鉄道に乗り込んでみましょう。
車窓からの風景は、次第にワイン畑が広がる、のどかな風景に変わっていきます。トンネルや渓谷など、バリエーションに富んだ地形が特徴的です。
ヴァッハウ渓谷はオーストリア有数のワインの産地。ワイン生産に適した丘陵と、ドナウ河からの反射で日光を存分に受ける地の利は、ローマ時代から知られていて、有名なオーストリアワインの名産地となっています。
また、この地域はローマ人が交通の要所として、ドナウ河沿いに城塞を築いた歴史があり、中世には城下町が栄えました。河の両岸に建築された古城や城塞教会は、古代からの歴史を伝えています。ウィーンにあるようなバロック様式の尖塔ではなく、どっしりとした城のような外観の教会が特徴的です。
さらに、渓谷ということもあり、トンネルや岩山、崖など、自然の風景も豊か。眼下にドナウの湾曲が見えると、その景色の美しさにため息が出ます。
こちらが、多くの乗客が下車する、デュルンシュタインの駅。有名な観光地ですが、駅は小さな無人駅です。
この駅を過ぎても、ワイン畑と岩山と、時々顔を出すドナウの流れの車窓風景は、飽きることがありません。対岸の山やクルーズ船を見ていると、時間が飛ぶように過ぎていきます。
出発駅のクレムスから、ドナウクルーズ船に接続しているシュピッツ間が最も利用者が多く、そのあとは列車はほぼ空になり、のんびり風景を楽しむことができます。
今回は、考古学的奇跡ともいえる、ヴィレンドルフのヴィーナス像が発掘された小さな村ヴィレンドルフで下車してみました。
対岸の山頂には、「強盗騎士」の伝説で有名なアッグシュタイン城がそびえたっているのが見えます。中世の時代には、ドナウ河に鎖を渡して通行税を取ったり、城の岩棚に人質を幽閉したりした伝説が残っています。
●ヴァッハウ鉄道沿線の見どころ
1時間弱の路線ですが、車窓風景だけではなく、電車を降りての街歩きや、別の交通手段も楽しめるのが、世界遺産ヴァッハウ。
今回下車したヴィレンドルフには、「ヴィーナス像」が発掘された現場を訪れてみることができます。2万5千年前にここに住み、同じドナウの渓谷の景色を見ていた古代人の生活に思いを馳せてみるのもいいものです。世界史の教科書でおなじみの「ヴィレンドルフのヴィーナス」像は、ウィーンの自然史博物館に所蔵されていますが、ここには実物の10倍の巨大像が、ドナウの流れを見下ろしています。
また、シュピッツ駅で下車すると、ドナウクルーズ船との接続があり、船で出発地点であるクレムスまで戻ることができます。
人気の観光地デュルンシュタインは、イギリスのリチャード獅子心王が十字軍の帰りに捕らえられていたデュルンシュタイン城の廃墟と、中世の雰囲気を色濃く伝える城下町で有名です。
ぜひ中世の街並みが残る旧市街に足を踏み入れ、名産のワインとアプリコットを味わってみてはいかがでしょう?狭い路地が行きかう町は入り組んでいて、歴史の中に迷い込んだような気分になります。水色の尖塔がかわいらしい、修道院も見どころの一つです。
***
世界遺産を走るヴァッハウ鉄道、いかがだったでしょうか?バリエーションに富んだ車窓風景と、歴史ある見どころ巡り、クルーズ船との組み合わせなど、様々な楽しみ方ができる路線です。
ぜひ、ウィーンからの日帰り旅行先のプランに加えてみてくださいね。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。