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EUで最も傾斜のきつい標準軌鉄道「エルツベルク鉄道」(オーストリア)

文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)

アルプスの小国オーストリアでは、山奥で意外な歴史を持つローカル線と出会えることがあります。

今回ご紹介するのは、アルプスに聳える鉄鉱山と運命を共にした、EUで最も傾斜のきつい標準軌鉄道、「エルツベルク鉄道」です。

●鉱山と鉄道の歴史

直訳すると「鉱石山鉄道」を意味する「エルツベルク鉄道」は、この地域の鉄鋼の生産と深いつながりがあります。

アイゼネルツ・アルプスと呼ばれるこの地域では、遅くとも11世紀ごろから鉄鉱石の採掘が始まったとされ、現役の露天掘り鉄鉱山「エルツベルク」がそびえたっています。

このエルツベルクで採れた鉄鉱石を、高炉のあった隣村フォーデルンベルクや、西の工業都市リンツ、首都ウィーンと接続している東のレオーベンまで運ぶために建設されたのが、このエルツベルク鉄道です。

この路線は、ハプスブルク時代の1872年ごろから建設が始まり、1891年には最高度地点を含む全路線が、ラック式鉄道として開通しました。これで、鉄鉱石が山脈の西にも東にも運搬できるようになり、この地域の鉄鋼はハプスブルク帝国を支えました。

ところが次第に、エルツベルクの鉄鉱山はその重要性を失い、鉄道も役目を終えていきます。

「世界最強」ともうたわれた蒸気機関車は、1971年ごろからディーゼルの列車に置き換えられ、1978年に最後の蒸気機関車が走った後は、歯車軌道そのものが取り外され、ディーゼル機関車が走る通常軌道鉄道となりました。1986年には、とうとうそのディーゼル機関車ですら鉱石を運ぶことがなくなり、元来の鉱石運搬用鉄道という役目を終えます。

現在は路線も縮小され、フォーデルンベルクから最高高度地点プレービヒルを経由し、鉄鉱山エルツベルクまでの区間を、ディーゼル機関車が夏季日曜限定で、一日2本のみ運行し、鉄道ファンや家族連れを喜ばせています。

●エルツベルク鉄道の栄光

オーストリア国内でもほとんど知られていないローカル線、エルツベルク鉄道ですが、いくつかの記録を持っています。

まずは、EUで最も傾斜がきつい通常軌道線路であること。71.5パーセントの急勾配の最高地点は、二つのスキー場を抱えるプレービヒルの山頂。州では最も高い海抜1204メートルの高度にある駅です。

また、1978年までこの路線を走っていた蒸気機関車は、鉱石や車体、燃料の石炭を含む300トンの重量で、この急こう配を時速15キロで走ったため、「世界最強のラック式蒸気機関車」の異名をとったといわれています。

現在は一部の鉄道ファンとこの地を訪れる人たちだけに知られるマイナー路線ですが、過去の栄光は、さすがハプスブルク帝国を支えただけのことはありますね。

●車窓からの風景

それでは、エルツベルク鉄道に乗って、失われた鉱山鉄道の名残を体験してみましょう。

今回乗車するのは、フォーデルンベルクの駅。村の建物の陰にひっそりとたたずむ駅の中は小さな資料館になっていて、チケットもここで購入することができます。

車内で出発を待っていると、運転手と車掌がやってきて、鉱山鉄道の歴史の説明が始まります。この路線は現在では「博物館鉄道」として、鉄道愛好家の有志団体が運営管理を行っています。オーストリアではこのように、地元の鉄道好き有志が集まって、廃線寸前の路線を観光用に生き返らせるローカル線が多く、寄付等でサポートをする鉄道ファンも多くいます。

田舎の駅を、列車はゆっくりと発車します。現在走っている青いディーゼル機関車は、1964-67年の間に製造されたものです。

車窓の風景は、神秘的で自然豊かなアルプスの谷。「鉄の道」の名を冠した国道や、周辺の村より少し高いところを走り、次第に景色が開けてきます。

この路線には、19世紀に建設された8本のトンネルと5本の高架橋があり、約150年前のレトロな車窓風景を再現してくれます。

車窓から見える景色は次第に森が深くなり、傾斜がきつくなってきます。ディーゼル特有の力強いエンジン音が響き、車窓からスキー場のリフトが見え始めると、かなりの高度のところにいると実感します。

時間にして30分ほどの行程ですが、山間のさびれた村から、谷を見下ろす景色、森の中の急勾配、高架やトンネルや鉄橋、車窓から見えるスキー場など見どころが多く、飛ぶように時間が過ぎます。

●露天掘り鉄鉱山見学

列車はトンネルを通り、終点にある鉄鉱山エルツベルクに到着します。この露天掘り鉱山では、専用の巨大トラックに乗り換えて、鉱山ツアーに参加することができます。(鉱山見学トラックは別途予約が必要です)

「世界最大のタクシー」に乗って、「世界最大のピラミッド」と称するこの鉄鉱山を見学するツアーも一見の価値があります。緑に包まれたアルプスの山に忽然と現れる、むき出しの岩山の無骨さ迫力には驚かされます。

また、中世の頃から鉱山の町として栄えたアイゼネルツ旧市街を散策し、城塞のように堅牢な教会にも足を運ぶと、鉱山とともに栄え、最盛期を過ぎてさびれつつあるこの地域の歴史に思いを馳せることができるでしょう。

* * *

アルプスの鉄鉱山と運命を共にした、「エルツベルク鉄道」。現在は夏季限定の観光用鉄道ですが、山奥の急こう配に鉄道を通し、鉱石を運搬した当時の技術と熱意を肌で感じながら、のどかな山脈を車窓から楽しんでみてはいかがでしょうか。

文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)所属。

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