文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)

オーストリアの中でも、緑の丘と美しい自然が知られる、シュタイヤーマルク州。そんな自然たっぷりの中を駆け抜け、さまざまな鉄道体験ができる、「ファイシュトリッツタール鉄道」をご紹介します。

車窓を流れる美しい森の風景や、牧歌的なアルム、地元のワインが楽しめるバー車両の他に、欧州唯一の狭軌道車両での宿泊まで楽しめてしまう、鉄道好きにはたまらないローカル線です。ファイシュトリッツタール鉄道

●ファイシュトリッツタール鉄道の歴史

今年で108年目を迎えるファイシュトリッツタール鉄道は、オーストリア南部のシュタイヤーマルク州で、1911年に開業されました。24kmの距離に、駅が4つ、トンネルが3つ、鉄道橋が9つ。当時のトルコ、イタリア、スロヴェニアなどからの労働者が投入され、異例の27か月で完成しました。ファイシュトリッツタール鉄道

760ミリの軌間は、過去にご紹介したヘレンタール鉄道などと同じ、ボスニアンゲージです。

この路線の先のラッテンで、1922年に炭鉱が発見されたため、鉄道も18km延長されます。採掘された石炭は、この鉄道を通り、州都グラーツまで運ばれました。狭軌道から標準軌への接続となるため、乗換駅のヴァイツでいったん全ての積み荷を人力で載せ替える必要がありました。また、残りの石炭は、当時中欧最長の運搬用ロープウェー(13.6km)により、北西にあるセンメリング鉄道へと接続し、首都ウィーンへと運ばれました。

ラッテンの鉱山博物館

ラッテンの鉱山博物館

このラッテンの炭鉱は、1922年から1960年のたった38年しか採掘は行われていませんでしたが、エネルギーが石炭から石油になったことで需要が激減し閉山となります。それと同時に自動車の普及もあり、住民の鉄道利用も減少したため、1971年から徐々に旅客輸送の機能は失われていきました。現在は博物館鉄道として、鉄道好きや親子連れに絶大な人気を誇っています。ファイシュトリッツタール鉄道

ファイシュトリッツタール鉄道は、6月から9月の土曜日に3本のみ運行。現在は工事中のため、ヴァイツ―アンガー間は運行が停止され、アンガー―ビルクフェルト間の35分間の運行です。炭鉱用に延長されたビルクフェルト―ラッテン間は、現在は廃線となり、サイクリングロードとなっています。また、蒸気機関車とディーゼル機関車の両方があり、天候によってはディーゼルのみの運行となる年もあります。

●ファイシュトリッツタール鉄道に乗ってみる

それでは、アンガー駅から乗車してみましょう。ディーゼル機関車VL11-16がお出迎えです。夏休みの時期の週末ということもあり、発車前から乗客が乗り込み、ほぼ満席となっています。ディーゼル機関車VL11-16

客車の座席はノスタルジックな木製

客車の座席はノスタルジックな木製

車窓からの風景は、豊かな森の自然。歴史を感じさせる車両に、健康的な美味しい空気を味わい、シュタイヤーマルク州を満喫できます。シュタイヤーマルク州を満喫

スナックやドリンクを提供するレトロなバー車両もあり、ここでは地元の名産の「シルヒャー」と呼ばれるロゼワインなどを楽しむことができます。ぜひ乗車中に立ち寄って、地元の名産品を味わってみましょう。スナックやドリンクを提供するレトロなバー車両

終着駅のビルクフェルトに到着すると、ブドウのツタに覆われたかわいらしい駅舎がお出迎え。終着駅のビルクフェルト

蒸気機関車がのんびりと整備を受けています。乗客が気軽に整備士に声を掛けたり、運転席に乗せてもらったりと、オーストリアののどかな田舎らしい、穏やかな空気が流れます。蒸気機関車乗客が気軽に整備士に声を掛けたり、運転席に載せてもらったりと、オーストリアののどかな田舎らしい、穏やかな空気が流れます

ビルクフェルト駅から丘の上の教会まで歩くと、パステルカラーのかわいらしい街並みを散策することができます。また、自転車専用車両に自転車を積んで、さらに先のラッテンまでサイクリングを楽しむ乗客も。休暇のアクティビティと組み合わせて、有意義な一日になりそうです。

方向転換するディーゼル機関車と、ビルクフェルトの教会

方向転換するディーゼル機関車と、ビルクフェルトの教会

●欧州唯一の狭軌道寝台車

今回の出発点となった、ファイシュトリッツタール鉄道のアンガー駅には、実際に宿泊できる寝台車があります。

こちらが、その宿泊専用車両。1891年建造のボスニアンゲージ(760mm)のザルツカンマーグート鉄道(現在は廃線となった、ザルツブルク―バード・イシュル間の鉄道)や、ファイシュトリッツタール鉄道でも旅客・貨物用として使用されていた、引退車両です。ファイシュトリッツタール鉄道のアンガー駅には、実際に宿泊できる寝台車があります

客室内には、シャワー、ミニキッチンとテラスが付いていて、隣接のホテルの設備も利用することができ、とても快適です。

この車両に宿泊すると、ローカル線の発着時には、部屋から発着を見守ることができます。ちょうどこの日には、電車好きの大きなカメラを抱えた年配の男性と、その奥様がにこやかに、発車する列車に手を振ってくれました。

* * *

旅客路線や石炭運搬用としての役目を終えてからほぼ50年経っても、多くの人に愛されるファイシュトリッツタール鉄道。地元の鉄道好きの保全運動と、全国から訪れる鉄道ファンや家族連れに支えられ、博物館鉄道としても異例の人気を誇っています。

乗車して風景を楽しむだけではなく、車内で地元のワインを楽しみ、廃線をサイクリングし、引退車両に宿泊と、五感全てを使った鉄道体験を満喫できます。

文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ(http://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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