鳴き声以外は全部食べる−−。沖縄で豚との付き合い方を表す言葉ですが、ミミガー(耳皮)、チラガー(顔の皮)からチマグ(豚足)、そして中身(内蔵類)やその血にいたるまで。あらゆる部位を料理に使います。
そんな多彩な豚肉料理の中でも、年中行事や旧正月といった特別な日のご馳走が「ラフテー」です。琉球王朝時代から食べられており、“琉球料理の華”ともいえるでしょう。
三枚肉(バラ肉)を下茹ですることでその脂を落とし、泡盛を使って肉を軟らかくしてじっくり煮ていく。手間暇がかかる、大変贅沢な料理です。
今回も、松本料理学院学院長の松本嘉代子さんにその作り方を教わります。
「『ラフテー』といえば、一般的には醤油味のものを思い浮かべるでしょうが、白味噌で味付けする『味噌ラフテー』もあります。『味噌煮豚』ともいいます。
醤油仕立てのラフテーは、温かいうちは軟らかくいただけます。しかし、時間が経って冷めると肉が硬くなるのです。一方、味噌で味付けすると、味噌に含まれる酵素の働きだと思われますが、肉が硬くならないのです。さらに、温め直しても軟らかいままです。
今回は、まずは味噌を使ったラフテーの作り方を紹介します。冷凍もでき、先ほど言ったように温め直しても硬くならないので、作り置きしておくと大変重宝します」
【味噌ラフテー】
材料(5人分)
豚三枚肉(バラ肉) 600g
鰹だし 4カップ
泡盛 1カップ以上
砂糖 大さじ3〜4
白味噌 100〜120g
針生姜 適宜
【作り方】
「下茹でするのは肉を軟らかくするのと同時に、脂を落とすためです。これで、脂分が約半分になります。このように、琉球料理の基本は豚肉の脂分を落としてから調理することです。豚肉をより美味しく食べる、先人からの知恵ですね。
下茹での火加減は、強火のほうが余分な脂が早く出てきます。
②の豚肉の切り方は地域でも異なり、角切りにする場合もあります。2〜3センチの角切りにするとよいでしょう。
また、③で泡盛を入れるのは、肉が早く煮えて味の浸透がよくなるからです。泡盛の量は、①で肉が軟らかくなっていたら少なくて構いません。反対に、まだ硬いときは多めに入れてください。
泡盛がなければ、ウォッカを使うこともできます。
味噌は一度に入れると味が浸透しにくいので、2回に分けて入れてください。白味噌は沖縄産のほうがコシが強く、長時間煮るのに向いています」
やはり、その土地の料理には地元の調味料が合うようです。本格的に作るなら、沖縄土産に買ってもよいし、沖縄のアンテナショップで購入する手もあります。
これまで、料理店で味噌味のラフテーを何回か食べたことがありましたが、ややしつこい印象を受けました。多分、最初の下茹でが十分ではなかったのだと思います。
今回、松本先生が作られたものを食べてみると、余分な脂が落ちたあとに、味噌の風味がしみて、まろやかな味わい。肉も大変軟らかく仕上がっています。
沖縄では、ラフテーには皮付きの三枚肉を使います。ところが、沖縄以外では皮付きの豚肉はまず流通していません。三枚肉以外に、肩ロースでも美味しく作れるので、ぜひ試してみてください。
次に、醤油味のラフテーの作り方も紹介しましょう。
醤油味のラフテーにする場合は前述したの③までは同じで、④で醤油(1/2カップ)を2回に分けて加え、最初の5分くらいは強火、あとは弱火にして1時間くらいゆっくり煮ます。
砂糖の量は多くなり、1/2カップに。
最後に、松本先生から砂糖について注意点があります。
「沖縄では、戦後のアメリカ統治時代にグラニュー糖が大量に出回ったこともあり、レシピで、ただ砂糖と書いてあればグラニュー糖のことです。お菓子などで上白糖を使う場合は、『上白糖』と明記します。
グラニュー糖は、上白糖より純度が高いので食材の味を活かします。上白糖を使うときは、分量を加減してくださいね」
味噌と醤油。ふたつの味わいのラフテーを紹介しましたが、それぞれの美味しさがあり、また好みもあるので、作って食べ比べてはいかがでしょう。
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。