本部半島のエメラルドビーチから望む、伊江島。「タッチュー」と呼ばれる城山が目印です。

文/鳥居美砂

伊江島は沖縄本島北部、本部半島沖に浮かぶ離島です。本部港からフェリーで約30分。日帰りでも気軽に、島旅が楽しめます。

島のほぼ中央にそびえる(と言っても、標高はわずか172メートルですが)「城山」(ぐすくやま)がシンボルです。平坦な島だけに、突如突き出たようなその存在感は大きく「タッチュー」(先が尖ったものという意味)と呼ばれて親しまれています。

伊江島は、島らっきょうやジーマーミ(地豆=落花生)の産地としても知られています。水はけのよい土壌が、これらの作物の栽培に向くそうです。もちろん、豊かな漁場を持つ離島ですので、海の幸には事欠きません。

*  *  *

そんな伊江島の味を看板に掲げる店が、那覇市内にあります。それが『伊江島 食の家 しまぶくろ』です。

店を営むのは伊江島出身の島袋徳明(のりあき)さん、真紀子さん夫妻。伊江島食材を中心に、沖縄の力強い島野菜をたっぷり使った料理が、幅広い客層から支持されています。

伊江島出身の島袋徳明さんと、奄美大島出身の真紀子さん。

開店は2015年2月ですが、じつはそれ以前に東京・渋谷で約7年間営業しており、正確には“那覇に移転”となります。この東京時代からの名物が「ラフテー」です。まず、その黒さに驚かされます。

「この色になった訳は、東京で初めて仕込んだラフテーの煮汁を継ぎ足し、継ぎ足しで使っているからです。甘みに黒糖を使っていることもあって、こんなに真っ黒ですが、熟成した旨味を味わってほしいですね」

黒さの秘密を教えてくれたのは、徳明さんです。沖縄に戻る際も、この煮汁を運んできたといいます。

「ラフテー」540円。黒糖の甘さや醤油の味がひとつにまとまり成熟して、他では味わえない旨味になっています。

伊江島では、琉球王国時代から小麦作りが盛んでした。水はけのよい土壌は稲作には適していませんが、小麦には合っていたのです。戦後は栽培農家が減ってしまいましたが、再び島の特産品として注目を集め、手がける人も増えていきました。

『しまぶくろ』で使用する小麦粉も、伊江島の地粉です。「江島神力(えじまじんりき)」と呼ばれる在来種で、ふすまや胚芽も一緒に挽いた全粒粉を使っています。小麦自体の香りがよく、それに食物繊維も豊富です。

その特徴をストレートに味わえるのが、沖縄のチヂミといえる「ヒラヤーチ」でしょう。

「地粉自体に豊かな風味があるので、生地にはニラとツナだけ入れて焼いています。揚げ物にも地粉を使っていますが、地粉だけだと小麦粉の風味が強すぎるので、普通のものとブレンドしています」(徳明さん)

伊江島の在来品種の小麦「江島神力」を使った「ヒラヤーチ」540円。

地粉は沖縄そばの麺にも使用され、夜の営業以外に、週4日のランチ営業でも食べられます。伝統的な沖縄そばとも、油をまぶさない生麺を使った沖縄そばの味わいとも違って、全粒粉からなのか蕎麦粉に近いような風味がします。

ちなみに、沖縄そばについては14回15回にわたり詳しく紹介していますので、参照ください。

出汁は鰹節がきいて、すっきりした旨味とコクがあります。

伊江島小麦麺を使った沖縄そば。具は店特製の真っ黒なラフテー、島かまぼこ、卵焼き。756円。ランチ時には現在、サービス価格の500円で提供。

「沖縄といえば豚文化で、肉中心と思われがちですが、最近はベジタリアンやさらに卵や乳製品も摂らない完全菜食主義のビーガンといわれる方もいらっしゃいます。そんなお客様に応えて、島野菜中心のお料理もお出ししています」

そんな話を披露してくれたのは、奥様の真紀子さんです。ラフテーやテビチ、チャンプルーといった琉球料理から、ベジタリアン対応の料理まで。さらに海鮮も豊富で、ときには徳明さんの父親が獲ってきた島タコが、伊江島から届きます。

この懐の深さも『しまぶくろ』の魅力です。

「しまぶくろ チャーガンジュー サラダ」972 円。「チャーガンジュー」とは、“いつも元気”という意味。長命草、ハンダマー(水前寺菜)、フーチバー(よもぎ)、青パパイヤといった沖縄の伝統野菜、「島野菜」がたっぷり。魚の天婦羅がのっています。

サラダやチャンプルーには島野菜を多用して、滋養豊かに仕上げます。

美味しくて、身体にもよい。−−まさに「ぬちぐすい」、命の薬です。伝統の味を現代風にアレンジしていても、琉球料理の基本はしっかり引き継がれています。

【伊江島 食の家 しまぶくろ】
住所/沖縄県那覇市牧志3-10-5
電話/098-917-5222
営業時間/12:00〜14:00(月・木・金・、土曜のみ)
     17:00〜22:30(L.O.)
定休日/火曜、不定休あり
公式facebook https://ja-jp.facebook.com/iishimabukuro/

文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。

 

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