沖縄には、季節ごとにさまざまな行事があります。なかでも先祖崇拝の思想が強いため、先祖を供養するシーミー(清明祭)やお盆(旧盆)などの行事は盛大です。また、沖縄では法事のことを焼香(スーコー)と呼び、これもまた丁寧に営みます。
シーミーは、二十四節気のひとつ「清明」に行われます。立春、雨水、啓蟄、春分ときて、その次が清明。旧暦の3月はじめ頃です。
墓前に、始祖を共通にする父系の血縁集団の門中(ムンチュウ)が総出で集まり、持ち寄った料理やお酒を供えたあとで、これらのご馳走をいただきます。ちょうど、お墓でピクニックをするようなものです。
シーミーはもともと中国から伝わった行事で、首里士族を中心に地方に広がりました。そのため、本島北部や離島ではそれほど盛んでありません。本島南部ではシーミーの時期、道路が渋滞することもあるほどです。
宮古・八重山では旧暦1月16日に行うジュウルクニチー(十六日祭)のほうが盛大だそうです。なんでも、グソー(あの世)の正月で、この日に墓前祭を行います。
これらの行事や法事のときに欠かせないのが、重詰料理です。
今回は、法事用の重詰料理を紹介します。ここでは詳しいレシピではなく、その概要の紹介になりますが、沖縄の行事料理について理解してもらうことはできるでしょう。
教えてくださるのは当シリーズ記事の指南役、松本料理学院の学院長・松本嘉代子さんです。
「重箱に詰める料理は5、7、9、11品といった奇数にするのが基本です。ひと品ずつの料理も、それぞれ奇数個にするのが理想です。
9品の場合、カステラかまぼこ、かまぼこ、豚三枚肉(バラ肉)の煮つけ、魚の天婦羅、揚げ豆腐、昆布、ごぼう、大根、こんにゃく、になります。仏事の重詰料理では、かまぼこは白いものを、昆布は二つ折にして切り込みを入れてから、その中のひとつの輪でまとめたケーシクーブ(返し昆布)にします。
シーミーや旧盆はむしろ祝い事と捉えられ、かまぼこは赤を、昆布は結び昆布を使います。
昆布は日本の食文化では“喜ぶ”につながり、お正月のおせちやお祝いごとで用いられますが、沖縄では慶事・弔事問わずに使いますね」
松本先生は、それほど食材が豊富ではない島国で、手に入る食材に工夫を加えて使っているのでは、と分析されています。昆布に切り目を入れ、こんな風にまとめたものは他の地域ではまず見かけません。
「仏事に関わらず、豚肉や魚を使うのは中国の影響でしょうね。神仏にお供えする料理は御三味(ウサンミ)と呼ばれ、重詰料理もそのひとつですが、本来は文字通り三つの味を意味します。牛・羊・豚、あるいは豚、鶏、魚がその原型で、中国の三牲(さんせい)が起源です。三牲とは神に供える3種の生贄のことです。
今でも、中国から渡ってきた子孫が住む那覇市久米では重詰料理ではなく、豚、鶏、魚を使った酢の物などの料理をお供えしています」(松本先生)
現在も「久米」という地名が残っていますが、琉球王朝時代は久米村と呼ばれていました。14世紀に中国の福建省から渡ってきた人たちが帰化して、住んでいた地区です。36の苗字があったので「久米三十六姓」といわれ、ちなみに現在の沖縄知事・翁長さん、前知事の仲井真さんもその末裔だと聞きました。
さて、豚肉は三枚肉(バラ肉)の部位を煮つけにしますが、お好みで豚肩ロースを使っても構いません。下茹でした後、重箱の幅の1/3の幅に切り揃え、1センチの厚さに切ったものを、鰹だし、泡盛、砂糖、醤油で煮ていきます。
泡盛を入れることで、調味料の浸透がよくなります。泡盛の度数は30度以上がお勧めです。
魚の天婦羅にはアンダアチー(メカジキ)を使いましたが、ほかにハタ類やフエダイ類の白身の魚が向いています。
1センチ角、7センチの長さに切って薄塩をしてから、塩をして少し時間をおき、水気を十分にとっておくと魚の身が引き締まります。そのあと、厚めの衣をつけて170度に熱した油で色よく揚げます。
一丁が大きい島豆腐は4〜5等分に切って、薄塩をしてからしばらく置き、ペーパータオルでしっかり水分をとっておきます。高音の油で揚げてから十分に油をきって、重箱の1/3の長さに切ります。
こんにゃく、ごぼう、大根はそれぞれ下茹でしてから煮ます。ごぼうはやや濃いめの味付けです。
カステラかまぼこと白かまぼこは、買ってきたものを盛り込みます。これで9品揃いました。
以上の料理を重箱にきちんと盛り込むには、初めにそれぞれの料理が入る1/3の幅に食材を切り分けることが大切です。大根はかなり無駄が出ますが、取っておいて味噌汁の具にするといいでしょう。
そして、表面もできるだけ平らに仕上げると、見た目もきれいに仕上がります。
沖縄では行事が近づくと、デパートやスーパーでいろいろな重詰料理が売られます。全品作るとなると、かなりの手間暇がかかるので、重詰料理は家庭で作るのではなく“買うもの”になっていったのでしょう。
でも、こうした行事料理には、ただ美味しいだけでなく、先人が守り伝えてきた大切な意味が込められています。手作りすることで、沖縄の食文化を再認識することができるのです。
最後に、松本先生はこう締めくくられました。
「全品家庭で作るのは無理でも、いくつかは手作りしてみてください。食生活の乱れが問われる今日、家で手作りすれば、添加物を使わずに塩分にも気を配って仕上げられます。健康を維持するためにも、ぜひ作り続けてほしいですね」
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。