福井県最北端に位置するあわら市。周囲を水田に囲まれるあわら温泉は、その落ち着いた風情から関西の奥座敷、永平寺精進落としの湯として親しまれてきた。温泉の歴史は明治16年(1883)、灌漑用の井戸を掘ったところ、高温の温泉が湧出したことに始まる。
あわら温泉の最大の特徴は74本もの源泉があり、それを集中管理するのではなく、旅館などの各施設が保有していること。源泉はそれぞれ泉温や泉質が微妙に異なる。その微妙な湯の違いを体験できるのが、えちぜん鉄道あわら湯のまち駅前にある『芦湯(あしゆ) 』である。この足湯には5つの浴槽があり、2本の源泉と、それを混ぜた混合泉の3種類の温泉に浸かれる。湯は肌になめらかな塩化物温泉だ。
『芦湯』のある駅前広場には10店舗の飲食店が集まる屋台村『湯けむり横丁』がある。和食や串揚げ、おでん、ラーメンなどの夕食はもちろん、夕食後に立ち寄るのもおすすめだ。地元客の利用も多く、旅先での和やかな交流も嬉しい。
あわら温泉へは、今春開業の北陸新幹線芦原温泉駅から路線バスが便利である。駅の施設内には新たに飲食物販店舗『いろはゆ AWARA』が開店。福井名物の越前おろし蕎麦やソースカツ丼などが味わえ、土産品も充実。鯖のへしこから若狭塗の工芸品まで揃う。
芦湯
福井県あわら市温泉1-203
電話:0776・78・6767(あわら市観光協会)
営業時間:7時~23時
定休日:無休
入湯料:無料
交通:えちぜん鉄道あわら湯のまち駅すぐ
あわら温泉屋台村・湯けむり横丁
福井県あわら市温泉1-207
電話:0776・77・1877(あわら湯のまち駅観光案内所)
営業時間・定休日:店舗により異なる
交通:えちぜん鉄道あわら湯のまち駅すぐ
いろはゆ AWARA
福井県あわら市春宮1-12-18
電話:0776・43・0721
営業時間:8時~21時30分(最終注文20時30分)
定休日:不定
交通:JR芦原温泉駅すぐ
名匠建築の宿で上質な滞在を愉しむ
明治期に開湯したあわら温泉は、鉄道の開通や大正から昭和初期に旅行の流行で発展し、多くの文人墨客が来訪した。しかし昭和31年(1956)の芦原大火で温泉街が焼失、新たな都市計画のもと再整備が行なわれ現在に至る。旅館・ホテルは20軒ほどあり、その中の一軒、あわら温泉の歴史とともに創業140年を誇るのが『つるや』である。
「温泉湧出の翌年に湯治宿として開業しました。芦原大火では新築中の建物が被害に遭いましたが、災難を乗り越えて完成したのが本館です」と話す女将の小田絵里香さん。本館の建物は、兵庫・城崎温泉の『西村屋』や静岡・熱海温泉の『大観荘』などを手掛けた名棟梁・平田雅哉による設計施工。数寄屋建築の巨匠らしい、銘木を活かした端整な客室はそれぞれ意匠が異なり、自ら彫刻した大胆な欄間や工事の合間に彫った六歌仙の人形など、見どころが豊富だ。
温泉は湯量が豊富な自家源泉を使い、露天風呂を備える大浴場、貸し切り風呂、足湯すべてが掛け流しである。足湯のある中庭には温泉玉子用の釜があり、ほんのり塩分のある温泉で茹で上げた作りたての味が楽しめる。夕食は季節の食材を活かした上品な会席料理で、春は鮑や蛤、甘鯛などの旬の恵みが越前焼きや鯖江市で受け継がれる河和田塗の器で供される。
つるや
福井県あわら市温泉4-601
電話:0776・77・2001
チェックイン15時、同アウト11時
料金:1泊2食付きひとり4万1800円~ 20室。
交通:JR芦原温泉駅から車で約15分(送迎車あり、要予約)
取材・文/関屋淳子 撮影/奥田高文
※この記事は『サライ』本誌2024年4月号より転載しました。