古風なようで先進的な構造。無骨なようで華やか。400年も前に創建された「城」には、日本人が大切にする美的感覚や細やかな気遣いが随所に見られる。それは芸術でもある。

歌川広重と渓斎英泉の合作『木曽街道六十九次』(1835〜1837年頃)。英泉による「鵜沼ノ駅従犬山遠望(うぬまのえきいぬやまよりえんぼう)」には、木曽川沿いの犬山城が存在感をもって描かれている。国立国会図書館デジタルコレクション

年間50か所を訪ねる“城マニア”が入門者向けに案内

春風亭昇太さん(落語家・64歳)
昭和34年、静岡県生まれ。東海大学中退後に入門。平成4年に真打昇進、12年に文化庁芸術祭大賞受賞。平成28年より『笑点』の司会、令和元年より落語芸術協会会長を務める。

全国の高座を飛び回る人気落語家、高い視聴率を維持する長寿番組『笑点』の司会者。春風亭昇太さんには加えて“3つ目の顔”がある。芸能界きっての「城マニア」として、城郭関係のイベントなどに引っ張りだこなのだ。

「お城に興味を持ち始めたのは中学生の頃。地元の山の中の遺構を見て、わくわくしたことがきっかけです。今も年間に50か所以上は訪れます。地方で落語会がある時は、事前に近くの城跡を訪ね、噺の枕の題材にすることもあります。やっぱり城は“郷土の誇り”なんでしょうね。場の空気が和みます」

趣味が高じて、今では城に関しても専門家並みの知識を持つ昇太さん。自身は山中にある城跡の傍らに立ち、かろうじてわかる堀の跡などを見て楽しむのが好きというが、入門者はまず天守の仕組みや構造から知ってほしいと語る。

「遠くから眺めるとどれも同じように見えるかもしれませんが、近くから見ると、まったく外観が異なることにすぐ気づきます。天守の堂々たる偉容と美しさは、軍事施設としての機能美を追求した賜物で、実に見応えがある。最上階まで足早に登って、“お殿様はこんな風景を見ていたのか”と、風景を眺めて終わるだけではもったいないんです。見た目や構造から時代背景や地域性、城主の趣向などに思いを巡らし、門や櫓、石垣など、軍事施設としての機能全体にも目を配っていく。1日過ごしても飽きませんよ」

昇太さんは、天守に向かう時や登る時は「攻める側」、降りる時や帰る時は「守る側」の立場や気持ちになって歩くそうだ。城内に備わるそれぞれの機能の特徴や弱点を、自分なりに発見、考察しながら楽しむためだ。

興味や関心を広げるきっかけ

『城あるきのススメ』(小学館)などの著書もある昇太さんは、天守の美しさや偉容に見惚れることから始めつつも、さまざまな方向に興味や関心を広げるきっかけにしてほしい、とこう続ける。

「歴史や建築的な知識が身につくのはもちろん、僕の経験に照らしても、城めぐりはいろいろな趣味に通じる魅力があります。鉄道やバスに乗って現地に向かう、山に登る、土地の温泉に浸かり、地元のグルメを楽しむ……。旅の醍醐味を無限に広げることができます。入城料は安いし、城内をたくさん歩くから健康にもいい(笑)。歩いたり、山を登ったりするのが苦手な人はどうすればいいかって? 落語会に来てください!」

ちなみに、姫路城など落語の演目と縁のある城も少なくない。

何より、城は国の宝であるだけでなく、日本人の歴史や文化を象徴する存在でもある。

「“居を構えて一人前”という考え方に通じますが、城を構えるのは武将にとっての夢。城には男のロマンという一面があるはずです。大きさや外見だけでなく、そんな物語も知ってほしい。桜や花見も落語に登場しますが、日本らしさの象徴です。春の到来を、大っぴらに外でお酒を飲みながら喜ぶなんて、外国ではあまり許されないでしょう。城と桜を同時に愛でられるんだから、春は日本人に生まれてよかったと感じる季節です」

日本には、かつて3〜4万もの城が築かれたともいわれているが、昇太さんの目標も壮大だ。故郷の城跡のある山を買い、仲間と城を“復興”することだ。

「“そこに城があった”と想像するだけでも楽しいけど、その歴史を自分たちの手で掘り起こし、再整備してみたい。城主は僕。『笑点』では味わえない、“お殿様気分”を味わってみたいんです!」

※この記事は『サライ』本誌2024年4月号より転載しました。

『サライ』2024年4月号の特集第2部は『芸術建築として「国宝の城」を愛でる』。

 

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