『RE:KYOTO〜潜入ワンカメ京都リポ〜』とは

左:杉本家十代目当主 杉本節子さん 右:ナビゲーター 木村寿伸

サライ京都チャンネル「RE:KYOTO(リ・キョウト)〜潜入ワンカメ京都リポ」は地元京都の放送局でキャスターなどを15年間務め、現在、中央競馬や地方競馬の実況などフリーアナウンサーとして活動する木村寿伸(きむら・ひさのぶ)がナビゲーターを務めます。 京都で活躍している人、何かに挑戦している人への取材を通して、京都の魅力を“再発見”しようというこの企画。 単独潜入風、近頃話題のブイログスタイルでお送りすることで、近しい人しか知らない取材対象者の表情や本音の部分に迫ります。

重要文化財「杉本家住宅」とは

京都の中心部、四条烏丸エリアにありながら、江戸時代以来の大店(おおだな)の構えを今に伝える京町家「杉本家住宅」。江戸時代に熟成された京大工の技量が遺憾無く発揮され、技術性、意匠性ともに優れた建造物です。

国指定重要文化財 杉本家住宅(京都市下京区綾小路通新町西入る)

2021年秋から2023年秋まで築150周年記念事業として「大屋根の葺替え工事」を進める杉本家住宅。大がかりな工事ゆえに現在一般公開は一時休止となっています。しばらく見られないということもあり、工事直前、特別に中を取材させていただきました。この企画の前編では、住宅内部の様子を非公開エリアも含めてご紹介しましたが、今回の後編ではさらに奥深く、まだお伝えしきれなかったエリアや、町家を守る現当主の思い、そして大屋根の葺替え工事の様子に迫ります。

お話を伺ったのは築152年目となる京町家杉本家住宅十代目当主で料理研究家の杉本節子(すぎもと・せつこ)さんです。

杉本家に伝わる古文書

杉本さんにまず見せていただいたのは、江戸時代の天保12年に書かれたという杉本家の食の習わしなどが記された古文書です。それによれば、元々呉服商を営んできた杉本家住宅では、毎月10日ごとの決算の日には、食事に必ず魚がつくという習慣が記されています。そういった日以外はというと、朝夕はお茶漬けと香の物のみ、昼は一汁一菜ということでしたから、当時の京商家は非常に質素倹約していたことが分かります。

京商家の習わしが記された杉本家の古文書

父・杉本秀太郎さんの書斎にて

続いて案内されたのは九代目当主にして日本を代表するフランス文学者であり、節子さんの父、秀太郎さんの書斎です。

こちらも普段はもちろん非公開です。ほぼ生前使用されていたままになっているというこの書斎。今は周囲をマンションに囲まれているため当時の景色とは異なりますが、2階にあるため見晴らしが良く、眼下に庭を望むことができますし、執筆活動する上では最高のロケーションだったのではないかと想像します。机の上に積まれたたくさんの書物や原稿、ペン立てにささったままの使い込まれた無数の筆から、当時の空気をそのまま感じられるような感覚になりました。亡くなる当時、哲学者の梅原猛さんから“京都で最後の文人”と評された秀太郎さん。その秀太郎さんも九代目当主という立場では大きな壁と向き合っていたと杉本さんは話します。

「祖父が亡くなった時はバブル経済が崩壊した時期と重なっていたので、この京都の資産を手放して、建物を残すのかどうかということが、父が祖父から受け継いだときの大問題だったわけですけど、父は自ら商売を継がず、学究の道を志しました。そして一方でこの家を残す財団を設立しようとしたんです。このときに力を貸してくださる有識者の方々とのお付き合いといいますか、ご支援というものに逆に恵まれたわけですね。経済人とならなかったがゆえに。商売を継がなかったからこそ、この建物を残すことができた。今があると言えると思います」

生前のまま残された父・杉本秀太郎さんの書斎

料理研究家にいたる思い

杉本さんは当主とは別に、料理研究家として京都の食文化をメディアなどを通じて発信する活動もしていますが、そのきっかけは父の書斎で見かけた一冊の本だったといいます。

「フランス料理の歴史を写真で編集した美しい本があったんです。すごく素敵なレストランで男性の給仕にサービスされている母と娘の写真で。自分の生まれ育った家では女性というのは日に3回、走り元から台所へ上がったり下がったりしながら、先に父ですとか子供たちに食べさせて、やっと自分がお箸をつけようと思ったら『おかわり!』とか言われてね。そんな女性の姿と全然違う女性の姿がフランス料理の世界にあって、それでフランス料理を学んでみたいという気持ちになりましたし、祖母や母が縛られていた料理というものを、一人の女性として自分の仕事にしてみたいという気持ちが大きくありました」。

杉本さんは短大卒業後、調理師の専門学校で料理を学んだあと、東京でフランス料理研究家に師事。そんな折、実家の存続問題が浮上したため京都へ戻ることになりました。

三姉妹の次女だった杉本さんですが、長女が他家へ嫁いだこともあり、父の亡き後、家を継ぐことに。料理研究家を目指す道半ばの当主交代でしたが、ここで転機が訪れます。当時地元の新聞社が募集していた「現代のおばんざいを作る」という企画に応募し、見事採用。晴れて料理研究家の道がスタートしました。

「自分の生まれ育った家が代々行ってきた京商家の習わしを、私は実際に資料を手に取って知ることができますので、私にしか語れない京都の食文化を伝えていくことができればと強く思ってきました」。

当初求められるのはそうした京都のいわゆるおばんざいの分野が多かったものの、料理の先生として外部に出向する中で、元々憧れていた「フレンチのような料理を提案してみてほしい」という依頼も増えてきたといいます。

若かりし頃、心の中にあった“脱町家”の気持ち。一度家を飛び出し、料理の世界に携わったことで一つ区切りがついたと杉本さんは話します。「今は料理研究家と当主の2つの車輪で動いていっているんだなと実感しています」。

もう一つの顔は料理研究家。講習会やメディアなどで京の食文化を伝える

いよいよ始まった大屋根の葺替え工事

2021年11月下旬。大屋根の葺替え工事がスタートしました。町家全体は全て天然素材でできており、経年劣化していくため、何十年というスパンで定期的にメンテナンスを行う必要があります。

「家を守っていくときにどういう問題が待ち構えているのかと考えたときに、この大屋根の葺替えが私のこの先の人生においても、一つの大きな事業になるんだなという覚悟はずっとあったんですね」。

私も今回特別に工事の様子を取材させていただきましたが、前編でお伝えした住宅内部の至るところにパイプが張り巡らされ、そして屋根瓦も下ろされていました、剥き出しになった屋根の層を野地板の部分まで見ることができます。

その野地板と屋根瓦をくっつける「葺き土」と呼ばれる土の部分は粘土を失い、サラサラで、瓦を押さえる役目を果たさなくなっていました。屋根として機能せず老朽化しているのが改めて分かります。また、普段、人が立ち入らない場所にある柱は、所々暗い赤みを帯びた茶色に染まっており、建設当時の町家全体はいわゆるこのベンガラ色で塗られ、はんなりとした風情を漂わせていたことも窺えます。

屋根の葺替え工事は丸2年を予定

杉本家十代目当主としての覚悟

工事全体は丸2年。国からもらえる工事の補助金は一部のみ。工事の規模が大きくなればなるほど所有者の負担は大きくなります。ただでさえコロナ禍で住宅の一般公開もできず収入は減っている状況。

そんな中、このピンチを打開するために挑戦したのがクラウドファンディングによる資金調達でした。

「工事に必要な費用より、かなり小さな額にして、とにかくクラウドファンディングの成功を目指そうということでやってみたところ、目標額の倍近くの金額をご支援いただきました。町家は守るべきものであると皆さんに思っていただいているんだなと責任の重さも感じますし、100年、150年後にも京都に在り続けるために、多くの方に町家のことを知っていただく、この工事をするということがそういうことを周知していくきっかけになっていくようにしていかなければいけないと思います」。

“町家を継承する運命”と“自分が求める生き方”。工事がきっかけで始めたこの取材ですが、それぞれの当主が直面する町家存続の問題とその葛藤にも少し触れることができました。今京都では歴史ある町家が取り壊され、あるいは商業施設などに姿を変えています。

この企画の前編で杉本さんが語ってくれた「町家は暮らしと共にある」ということから言えば、本来の意味での町家は次々と姿を消していることになるでしょう。そんな中、この杉本家住宅では、ここで暮らしてきた人々の営み、息吹を確かに感じることができました。

町家を継承する運命と自分の求める生き方、その葛藤にも触れることができた

<重要文化財 杉本家住宅> 「公益財団法人 奈良屋記念杉本家保存会」
京都市下京区綾小路通新町西入ル矢田町116番地 
Tel:075-344-5724  
Mail:narayakinen@sugimotoke.or.jp
Website:https://www.sugimotoke.or.jp
Twitter:https://twitter.com/@setsukosugimoto

テーマ音楽 尾辻優衣子(二胡奏者)
オープニング「京騒奏」
エンディング「鏡花水月」
企画制作・出演 木村寿伸(フリーアナウンサー)

 

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