紫式部ことまひろを演じることとなった吉高由里子さん。 (C)NHK

ライターI(以下I):もう2か月ほど前になりますが、2024年の大河ドラマ『光る君へ』の制作発表がありました。主人公が紫式部で演じるのは吉高由里子さん。役名は「まひろ」ということがアナウンスされました。『鎌倉殿の13人』が参院選の開票特別番組放送のため一週お休みというタイミングで、気が早い話ですが、『光る君へ』について考察したいと思います。

編集者A(以下A):2023年放送予定の『どうする家康』を含むそれまでの62作の大河ドラマでもっとも古い時代を扱ったのは、1977年の『風と雲と虹と』。平将門(没年940年/演・加藤剛)と藤原純友(没年941年/演・緒形拳)の時代が描かれました。紫式部の時代は将門の時代から40~50年ほど後。『鎌倉殿の13人』の源頼朝(演・大泉洋)や九条兼実(演・田中直樹)の「お祖父さんのお祖父さんのお祖父さん」の時代になります。

I:まだ主人公の紫式部のキャスティングしか発表されていませんし、脚本もこれから。クランクインも1年先という段階ですので、史実がどうこうとか、時代考証などあまり考慮しないで、「こんな場面が見たい!」というのを好き勝手に放談したいと思います。ところでAさん、制作発表の際に「ストーリーが一年持つのか?」という質問をしたらしいですね?

A:はい。しました。これは完全に期待の裏返しですね。期待していなかったら質問すらしませんよ。大河ドラマファンにとってドラマの出来不出来は一年間の生活リズムにかかわる重要事項ですから、激励の意味も込めての質問です。主人公紫式部(役名まひろ)が生きた時代は、日本の歴史の中でもひときわ華やかな時代ですから、その空気をどのように映像化してくれるのかとても楽しみにしています。

I:紫式部は、時の権力者藤原道長の娘で一条天皇の皇后になっていた彰子付きの女官で、世界の文学史に冠たる長編小説『源氏物語』の作者です。

A:『ビジュアル版逆説の日本史 古代編下』第8章「『源氏物語』の誕生と仮名文学の発達」からの受け売りですが、「なぜ世界最初の大長編小説が日本で生まれたのか?」「なぜ紫式部は、この小説の主人公を〈源氏〉にしたのか?」という命題を劇中どのように描いてくれるのか――。第一の関心事がここです。ひらがなが普及したことで、この時代は紫式部や清少納言に代表される女流文学が大流行しました。おおざっぱな表現を使うと、「女流文学バブル」。その是非はともかくバブル的なイケイケの高揚感あふれる時代だったのでしょう。

I:では、トピックスごとにまとめてお話を進めていきましょう。

藤原道長を演じるのは誰だ?

I:『光る君へ』のキャスティングでもっとも注目されているのが、藤原道長を誰が演じるのか? ということだと思います。

A:紫式部と道長の関係は、文学活動のパトロンだとか、愛人だとかさまざまいわれていますが、おそらく現代の感覚では把握できない、すべてを超越したパートナーだったのではないかという気がしています。前出の『ビジュアル版 逆説の日本史』から引用しますが〈高級貴族たちは、娘が生まれるとことのほか喜び、その娘を「后がね」つまり入内候補者として大切に育てた。下級貴族の娘たちの中から教養ある者を選んで侍女としてつけ、『古今和歌集』など和歌の教養、琴などの楽器、美しい文字を書くことなどとともに、立ち居振る舞いや衣装のセンスも身につけさせた〉時代です。そういう時代に道長の娘彰子付きになったのが紫式部でした。

I:彼女の執筆活動を支えたのも道長だといわれていますね。『紫式部日記』には、道長が『源氏物語』の読者でもあったことが記されていますし、道長との歌のやり取りも当時の王朝貴族の教養の高さが知られて面白い。

A:道長は、長徳の変などでライバルを蹴落としてもいます。陰謀ということでいえば、『鎌倉殿の13人』同様の展開にもなり得ます。そうした流れに紫式部が絡むのかどうか。いったいどんな物語になるのか、想像がつかないのが逆に楽しみでしょうがないです。

I:王朝貴族といっても、華やかなだけじゃないんですね。

A:道長といえば、『御堂関白記』の自筆本が伝来しています。以前、陽明文庫を訪れた際に拝見しましたが、道長は真面目で几帳面な性格だったんだろうなという筆致だったのを覚えています。いったい誰が演じることになるのでしょうか?

平安時代の「入内競争」は江戸城大奥より過激だった?

I:『鎌倉殿の13人』でも源頼朝が娘の大姫を後鳥羽天皇の后にしようとする「入内問題」がクローズアップされましたが、紫式部の時代は入内合戦がもっともヒートアップしていた時代ではないでしょうか。後年、江戸城の大奥でも将軍をめぐる争いが映画やドラマになっていますが、「平安の大奥」はもっとすごいんですよね?

A:娘を天皇の后とする。そして生まれた皇子が天皇に即位して外祖父として実権を握るというスキームですね。健康で天皇の心をとらえる娘の存在が、一家の興亡に直結するという、よくよく考えるとハチャメチャな時代だったんですね。道長は運がよかっただけで、同じ藤原北家内でも皇子が生まれなかったことで無念の涙をのんだケースもあります。そうした悲喜こもごもをどう描くのか楽しみです。映画の『大奥』のようなギラギラになったりするんですかね?  考証を度外視して清少納言ともどんどんやり合ってほしいですね。

陰陽師の安倍晴明にも活躍してほしい!

I:さて、陰陽師として著名な安倍晴明も『光る君へ』の同時代人。道長の日記『御堂関白記』にも登場します。道長の犬とのエピソードもあったりしますね。

A:年齢的には、道長と晴明は45歳も離れていますから。仮に『光る君へ』に登場するにしても、映画『陰陽師』の佇まいとは異なる晴明になると思われます。晴明が84歳で亡くなった時、道長は39歳ですからね。それでも、この時代のスターともいえる存在です。なんらかの形で登場してほしいですね。

I:私は、まひろ(紫式部)と晴明が面識のある設定でもぜんぜんOKですけどね。いやむしろふたりの絡みに期待しちゃいます(笑)。

A:何事も陰陽師などに伺いを立てるのが平安時代。物の怪の存在を信じ、物忌、かたたがえなど今では迷信といわれるものが絶対でした。呪詛を駆使して政敵を除外しようと試みるのも当たり前の時代です。現代的な感覚ではコントのようですが、それが「平安の常識」。そうしたこともどう描かれるのか気になりますね。

I:どんどん楽しみが増えていきますね。

源頼光に源頼信。清和源氏の先祖たちが跋扈した時代

I:大河ドラマの醍醐味のひとつが合戦シーンというファンも多いかと思います。紫式部が主人公ということで、合戦シーンなど皆無なのでは? としょんぼりしている方もいるのではないでしょうか。

A:しょんぼりですか(笑)? 私は『鎌倉殿の13人』の源頼朝の先祖が登場するものと期待していますから「しょんぼり無用」ですよ。藤原道長と縁が深かったのが源頼光、頼信の兄弟。頼光の子孫が以仁王の令旨を奉じて挙兵した頼政。頼信の子孫が頼朝になります。

I:頼光、頼信ともに道長の信頼が厚かったようですし、各地の受領を歴任する中で蓄えた財から多額の進物を道長らに贈ったみたいですね。

A:有名な酒呑童子の物語は、都から子供や貴族の娘がさらわれる事件が頻発していた際に、安倍晴明が「大江山の鬼」が原因と見立て、源頼光らが退治に向かったというものです。鬼とは何かという問題もありますが、頼光は土蜘蛛とも戦ったともいわれますから、そうしたシーンを派手に豪快に描いてほしいです。「まさかりかついだ金太郎~」のモデル坂田金時(公時)も出てきたら盛り上がりますね。

I:頼光は後一条天皇が即位した際には昇殿も許されたそうですから、道長とはかなり近い存在だったんでしょうね。私は、ミスマッチ的なもののふ(武士)と紫式部の絡みが出てこないかなあと希望します。

近衛忠大さんの指導で「この世をば」をやってほしい

A:道長といえば、〈この世をば わが世とぞ思う 望月の 欠けたることもなしと思えば〉という和歌が有名です。教科書的には、藤原氏の栄耀栄華を詠んだものといわれていますが、実際にはさまざまな解釈が提起されているようです。大河ドラマ登場を機に議論が深まっていくと思われます。

I:「この世をば」ではなく「この夜をば」ではないのか? という意見もあるのですよね。私は、この歌を記録したのが、道長の家とはライバルだった小野宮流の藤原実資が日記に書き留めたために現代に伝わったというエピソードが好きです。

A:道長自身はこの歌を書き留めていないんですが、息子の頼通が春日祭の祭使の大役を13歳で務めた時に詠んだ〈若菜摘む 春日の原に雪降れば 心づかいを 今日さえぞやる〉なんかは書き留めているみたいです。親バカ全開のこの歌も劇中登場しますかね?

I:私は考証度外視して、〈この世をば〉の歌を唱和する際に、歌会始の披講のように〈この世をば~~  我が世とぞ思う 望月の~~~〉と節をつけながら詠んでほしいです。もちろん紫式部も登場させて。

A:披講といえば、現在、道長の子孫にあたる五摂家筆頭近衛家の次期当主近衛忠大さんが歌会始で披講役を務めておられます。近衛さんのご指導のもと、〈この世をば〉の歌を唱和するシーンって見たいなあ。あ、これも考証度外視ですが……。

道長臨終のシーンへの期待

I:道長の晩年は、自ら建立にかかわった法成寺とともにありました。法成寺には仏師定朝作の九体の阿弥陀如来があったそうです。道長は臨終の際に、阿弥陀仏の手から五色の糸を伸ばして、自らの手と結び合ったそうです。

A:私は、そのシーンに最大限の関心を寄せています。考証度外視でその場に紫式部がいてもいいと思っています。美術スタッフの腕の見せ所になると思いますし、もう大河史上屈指の美しい場面になるとわくわくしています。

I:2024年1月から放送のドラマについて熱く語ってしまいました。繰り返しますが、道長の孫の孫の孫が九条兼実。道長に仕えた源頼信の孫の孫の孫が源頼朝になります。

A:歴史の大河の流れはほんとうに悠久ですね。

左から制作統括の内田ゆきさん、吉高さん、脚本家の大石静さん。 (C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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