「RE:KYOTO〜潜入ワンカメ京都リポ〜」とは

『サライ』のもうひとつのYouTubeチャンネル「サライ京都チャンネル」の中で、「RE:KYOTO(リ・キョウト)〜潜入ワンカメ京都リポ」は、地元京都の放送局で15年間活動してきたフリーアナウンサーの木村寿伸(きむらひさのぶ)がナビゲーターを務めます。

京都ですでに活躍している人、何かに挑戦している人への取材を通して、京都の魅力を“再発見”しようというこの企画。 タイトルの「RE:」には「再び」という意味がありますが、そういった“再発見”や、取材、配信を通して、地元京都に何か「“RE-TURN”恩返し」できないだろうかという思いも込めました。 単独潜入風、近頃話題のブイログ(動画版ブログ)スタイルでお送りすることで、近しい人しか知らない取材対象者の表情や本音の部分に迫ります。

第1回は、京都四条烏丸エリアにある人気カレー店「spice chamber(スパイスチャンバー)」についてレポートします。

第1回 京都四条烏丸エリアにある人気カレー店
「spice chamber(スパイスチャンバー)」

一口食べれば、ガツンとくるスパイス感やひき肉の食感、玉ねぎの旨み、甘み。渾然一体となったその一皿は今や京都を代表するカレーの一つとなりました。 そんなキーマカレーへのこだわりや、仕事に対する姿勢、京都に対する思いなどを伺いました。

お隣、大阪では本場のインドやスリランカなどとも違う、香辛料の刺激や和風出汁などを効かせた独創的な味わいが楽しめる、いわゆる“スパイスカレー”が流行しましたが、京都ではそういった趣とはまた違う、個性的なお店が数多くあります。筆者が無類のカレー好きということもあり、そういったお店に足繁く通っていますが、その中のお気に入りのひとつがこのSPICE CHAMBERです。

京都四条烏丸交差点から徒歩5分ほど。黒地にカレーを連想させる黄色の文字でカレーと書かれた無骨な看板

脱サラして店を始めて11年、メニューはキーマ1種類のみ

店主は阿蘓慎太郎さん。山形県出身で、東京、大阪、京都と移り住み、2010年にSPICE CHAMBERをオープン。立ち上げから11年という歳月の中で、今や行列が絶えない、京都を代表する人気店となりました。2021年版「ミシュラン カレー部門ビブグルマン」にも選出。最近はオンラインショップで冷凍販売も始め、京都はもちろん、全国でその味が楽しめるようになっています。

そんなこのお店、フードメニューは「キーマカレー1種類」ととてもシンプルです。

お店を始める前は大阪でレコード会社の宣伝担当をしていたこともあり、並べられたスパイスの瓶の横には店内のBGMに使っている、店主こだわりのCDがずらり。それに加えてカウンター6席、6人掛テーブル1つというコンパクトな店内が、隠れ家バーのような佇まい。

当時、職場の近くにあった中津のカレー店の味、そして親子で営んでらっしゃる温かい雰囲気に憧れを抱き、「いつか自分もこういうお店をやってみたい」と思うようになったという阿蘓さん。

ちょうどその頃、会社で早期退職の募集の話があり、「これは良い機会だ」と一念発起でカレー職人に転身。料理もほとんどやったことがなく、様々なカレー店を巡り、独学で勉強しました。「ダラダラと準備していてもダメだ。1年で店を開こう。あとは走りながら決めたらいい」そう心に決めました。この10年間で試行錯誤を繰り返し、キーマカレーも進化。

今もパンチのある辛みがありますが、オープン当初はもっと辛かったらしく、メニューの看板に「キーマカレー(辛)」というように(辛)を強調しているのは、当時のお客さんから「これ辛すぎるからちゃんと書いとかなあかんで!」と言われたからだそうです。

店主の阿蘓慎太郎さん

日本で進化を遂げた日本のカレーライス

キーマカレーを注文すると、既に仕込んであるひき肉や玉ねぎ、スパイスが混ざりあったルウを鍋から取り出し、それをフライパンで加熱。

そこに切ったジャガイモを入れます。ルウと分けているのは、あらかじめ混ぜてしまうと、ジャガイモの成分がルウに溶け出し、スパイスの輪郭がぼやけるから、とのこと。同時進行でオリーブオイルの上にピーマンを敷いて火を通します。

仕込みの段階でほぼ調理は済んでいるので、あとはそれをご飯とともにお皿に盛って最後に小粒の梅干しを中央に乗せて完成。四条烏丸エリアのオフィス街にあるので、なるべく早く提供できるように心がけています。

カレーを作っている段階であとひとつ何かが足りないと考えていたところ、日の丸弁当の梅干しに着想を得たという阿蘓さん。これが結構カレーに合う。

「インド発のカレーだけど、日本で進化した日本のカレー」にしたかったと話す通り、決して目立ち過ぎず、しかし存在感はしっかり示す梅干し。ジャパニーズカレーの佇まいがこの一皿にはありました。

一口目から押し寄せる旨味、スパイスの刺激、具材の甘味のマリアージュ

シンプルに「美味い」と唸る一口目。もちろんスパイスのガツンとくる刺激も魅力ですが、昨今スパイス感を前面に出すカレー店が多い中、こちらのカレーは最も大切な旨味がしっかり感じられます。ジャガイモやピーマンを提供前にカレーと合わせることで、具材そのものの旨味、食感も残っている。鶏のムネ肉を使っていながらジューシー感を味わえるのは特に玉ねぎの存在が大きいかもしれません。
淡路島産の甘味にこだわっているのもポイント。全てが渾然一体となった一皿です。

唯一無二のキーマカレー。中央の梅干しが「日本のカレー」を表現

以前は提供していたチキンカレーはお休み中

インタビューの途中、衝撃を受けたのは、「元々はキーマではなく、チキンカレーを出したくて店を始めた」という言葉。キーマへのこだわりを前面に押し出して取材を進めようとする筆者の思惑が大きく崩れた瞬間でした。

チキンありきで、その双璧となるもう一つのカレーを作ろうということで誕生したキーマ。チキンの方が人気があったということですが、提供してしばらく経つと味に納得がいかなくなり、改良を重ねてはメニューから消したり出したり。現在は三代目チキンカレーをメニューから引っ込めた段階だそう。

「キーマ一本でやっていくとは考えていない。今はまだ自分でもわからないけど、ひょっとすると(四代目)チキンカレーがいつか登場するかも」という、お店のファンなら気持ちが高揚するお話も伺えました。

逆に言えば、キーマに関しては限りなく店主の理想に近い形になっているということでしょうか。「僕は全然ストイックじゃないですよ」と話すものの、人気メニューを自分の納得がいかないからといってメニューから下げる勇気。実際メニューからなくす度にお客さんは減りましたが、その後、キーマのファンが増えていったそうです。

こだわっていないようでこだわっている、これが阿蘓さんの魅力のようにも思えます。

数年前に提供していたメニュー。筆者も元々はこのカレーのファンでした

仕込みの様子も特別に取材

仕込みは基本、当日の朝。約80人前を2時間から3時間かけて作ります。

鶏ムネのひき肉、玉ねぎをそれぞれ10キロ用意。フライパンで大量のひき肉に火を通します。このとき特に下味はつけず、混ぜすぎない。肉の粗さを残すために、ある程度ほぐしたらあとは放置。その間に、これまた大量の玉ねぎをひたすら切ります。

それが終わると今度はオリーブオイルを熱した鍋にカルダモンやコリアンダーといったホールスパイスを投入。こうしてスパイスを熱し、香りや効能を引き出す工程を「テンパリング」といいます。

このあと、テンパリングした鍋に玉ねぎやトマトを入れ、挽肉と合わせ、こだわりの17種類のミックススパイスを合わせると仕込みも完成なのですが、撮影は玉ねぎ投入の時点でストップ。いわゆる企業秘密で取材NGです。

「NGにすることもないんだけどね。あとはトマト入れたりするだけで地味だから、面白くないと思う。そんなに大したカレーではないですよ」と阿蘓さん。どこまでも謙虚な方です。ただ、裏を返せば、まだ自身のカレーに納得せず、更なる高みを目指しているといえるのかもしれません。

それぞれの工程はシンプルながらもこだわりを感じました

カレーは“魔法の食べ物”

お店の今後について尋ねると、「ただ真っ直ぐ走りたい」と阿蘓さん。

「周りは気にせず自分の道をただ真っ直ぐに走りたい。人と違うことをしていたら競争は起きないから。そうしたら一心不乱に走れるでしょ。だから流行りのカレーを作るより、ここでしか食べられないカレーを作りたい」と話します。唯一無二のキーマカレーに辿り着いたのもこの考えの賜物かもしれません。

最後に、「阿蘓さんにとってカレーとはどんな存在ですか?」と尋ねると、こんな答えが。

「カレーはいろんな人たちと繋がれる”魔法の食べ物”。老若男女問わず、愛される料理だから来てくれるお客さんも様々だし、そうした人たちからたくさんの刺激を受けるから。特に京都という場所は、自分が好きなこと、面白いと思うことを突き詰めている人が多く、それがうまく街の中で存在感を発揮している。そうした動きをまた面白いと思ってくれる人がいる。そんな街だから11年やってこられました」
 
「スパイスチャンバー」を和訳すると「スパイスの部屋、スパイス室」。

その名の通り、カレーのスパイスはもちろん、自身の周りの人たち、訪れるお客さんたちから受けるスパイスのような刺激が混ざりあって、このお店ができているのかもしれません。

阿蘓さんは、決して奢ることなく、これからも自身が納得する一皿を追い求めていきます。

インタビュー後、「まだ取材が足りなければいつでも来てね」と言ってくださいました。気さくで優しく、謙虚。そしてこだわりのある方です

SPICE CHAMBER(スパイスチャンバー
〒600-8422 京都市下京区室町通綾小路下る白楽天町502番地 福井ビル1F
火〜金) 11:30〜15:00 ,18:00〜2100
土)11:30〜15:00 定休日)日・月(月曜が祝日の場合は昼営業)
※詳しくはホームページ内の営業カレンダー参照
TEL 075-342-3813 HP https://spicechamber.com

テーマ音楽 尾辻優衣子(二胡奏者) オープニング「京騒奏」 エンディング「鏡花水月」
企画制作・出演 木村寿伸(フリーアナウンサー)

 

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