新鎌倉殿の頼家(演・金子大地)を支える13人は、誰がどのような基準で選んだのか?  (C)NHK

ライターI(以下I):『鎌倉殿の13人』は、参院選挙後の開票特別番組の放送が入るために一週お休みになりました。例年は19時15分から放送することも多いので異例の対応になりました。

編集者A(以下A):前週の第26回で源頼朝(演・大泉洋)が亡くなり、第27話からは新たなステージが始まります。やはり「新章開幕」は日曜夜8時スタートにこだわったのだと解釈しています。

I:BSや「NHK+」など、視聴環境も多様化していますが、やはり節目回は「日曜夜8時」なんですね。

A:さて、前週の第26回では、鎌倉殿の後継者をめぐるいざこざが描かれました。頼朝の落馬から死までの約半月の人間模様が丹念に描かれていたのですが、義時(演・小栗旬)の様子を見ていて、ハッとさせられました。

I:何のことでしょうか。

A:頼朝は義時に対して〈いつまでもわしの側にいてくれ〉というほど寵愛した側近中の側近。単に妻の実弟というだけの関係以上の存在だったと思います。そうした側近が将軍の代替わりにあたってそのままの立場でスライドできるだろうかと思ったわけです。

I:なるほど。江戸幕府の話になりますが、第五代将軍綱吉の側用人として権勢を振るった柳沢吉保は、代替わりで権力中枢から離れました。六代家宣、七代家継で側用人だった間部詮房も代替わりで失脚しました。

A:第26回の義時の様子を見て、頼朝側近だった義時もまかり間違えば失脚、あるいはもしかしたら粛清第一号になっていたのかも! などと思ったわけです。

I:確かにスリリングな展開でした。義時の実父時政(演・坂東彌十郎)とその妻りく(演・宮沢りえ)は、〈御台所は北条から出す〉ということで全成(演・新納慎也)の擁立を画策します。全成の妻実衣(演・宮澤エマ)はその気になり、姉の政子(演・小池栄子)と一触即発の雰囲気になりました。これまで義時がさまざまな場面で活躍できていたのはすべて頼朝という後ろ盾があったればこそだと解釈すれば、確かに義時こそ危うい立場にいたともとれます。

新たに政子を後ろ盾にして再始動

亡き頼朝(演・大泉洋)の後家として鎌倉を守る役目を担う政子(演・小池栄子)。 (C)NHK

A:義時が政子に〈姉上は鎌倉殿の後家でございます〉〈これからは、姉上のご沙汰でことが動くことも多々ありましょう〉と、後継者を頼家(演・金子大地)にするように働きかけた場面も、自らの生き残りをかけた必死な動きにも見えました。

I:深読みしすぎな感じもしますが、義時にとっても危機だったということには同意します。それでも、劇中、義時はいったん身を引こうと考えますが、政子が頼朝の髻(もとどり)にあった念持仏を示して、〈私の側にいて〉と懇請します。

A:前週、これが義時と政子の「共闘宣言」だという話をしました。これで義時は新たに「鎌倉殿後家」の後ろ盾を得たわけです。このシーンを見て、1981年に山口組の田岡一雄三代目組長が亡くなった後の混乱の中で、実質的に組を動かしているのは文子未亡人だとして兵庫県警が文子未亡人を「三代目姐」と認定したことを思い出しました。

I:実質的に誰が組織を動かしているのか? 実は政子の意向が重要視されたということで、俗にいう「尼将軍」誕生の瞬間ともなりました。ともかく政子の後ろ盾を得たことで、義時は失脚を免れたということですね? もしかしたら、政子も時政陣営になっていたかもしれないですし、そもそも義時正室の比奈(演・堀田真由)は「比企の娘」ですから。

A:来週から始まる第二幕では、姉政子と弟義時が、〈頼朝が築いた幕府〉という枠組みを守るための戦いが始まります。義時にとっては同時に自分の身を守る戦いでもあったかもしれません。義時は劇中で頼朝が埋葬された場所にお参りしていました。「頼朝とともにある」ということを確認したのでしょう。

I:いろいろなことを考えると、政子と義時は、日本の歴史で最強の「姉・弟」コンビではないですかね?

A:ああ、そうかもしれません。『魏志倭人伝』で卑弥呼を説明している個所に〈男弟あり。佐けて国を治む〉と記述される「姉・弟」と、幕末の坂本乙女・龍馬の「姉・弟」くらいしか思い浮かびません。もっといるかもしれませんが。

I:作者の三谷幸喜さんは「政子・義時」の関係を『サザエさん』の「サザエ・カツオ」の姉弟関係に擬して説明したこともあります(笑)。あとは、『巨人の星』の星明子・飛雄馬も著名な姉弟ですね。いずれもフィクションですけど。

キーワードは「頼朝以前」「頼朝以後」

A:頼朝が築いた幕府を守ろうとする姉弟の戦いの障壁になるのが、御家人=坂東武士の存在ということも露呈しました。頼朝の火葬場の後片付けの場で、畠山重忠(演・中川大志)と和田義盛(演・横田栄司)が交わした会話が象徴的でした。

I:〈あのお方を恨んで死んでいったものは多い〉〈心の底から嘆き悲しんでいるのはお身内を除けば、ごく一握り〉〈これで坂東は坂東武士の手に戻った。いうことなし〉ですね。その会話を義時嫡男の頼時(後の泰時/演・坂口健太郎)が後ろで聞いていました。

A:「頼朝が築いた幕府を守る」立場からすれば許しがたい発言です。義時の息子に聞かれてしまうとはいかにも脇が甘い。畠山重忠、和田義盛の今後のことを思うといたたまれません。

I:義時側の立場に立てば、畠山、和田の発言は、とんでもないかもしれませんが、彼ら側から見たら違う風景が見えてきますよ。 木曽義高(演・市川染五郎)を討った藤内光澄が罪なくして斬られたように、鎌倉殿の名のもとに「理不尽」がまかり通っていたのも事実。坂東武士が汗水流して手に入れた富を惜しげもなく朝廷や京の貴族に分配したことも、彼らからすれば納得いかなかったことでしょう。

A:さすが、プロフィールに「好きな鎌倉武士は和田義盛」と記すだけはありますね。歴史は立場を異にすれば、見方が変わりますから、こればっかりはしょうがない。坂東武士からすれば、「鎌倉殿頼朝の威光を笠に着て、権力を握ろうとする義時」となるのでしょう。

I:これから鎌倉は、血みどろの権力闘争に突入していくわけですが、ほんとうに悪いのは誰なのか、私なりに楽しみたいと思います。

A:登場人物の誰に感情移入するかで楽しみ方が変わってきますね。私は史上最強の「姉・弟」コンビが「頼朝の幕府」を守るためにどこまで非情になれるのか、注目したいですし、「政子一世一代の大舞台」の大演説シーンがどう描かれるのか、待ち遠しくてたまりません。

I:絶対にハンカチなしではいられない回になりますね。とにかく後半戦は、スリリングな人間ドラマが続きます。食わず嫌いで、これまで一度も見ていないという方も第27話だけは見てほしいですね。人間が欲得だけで動くとどうなるか。

A:大河ドラマ史上屈指の名場面が続出する予感がしますね。

義時(演・小栗旬)は非情になれるのか!? (C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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