『RE:KYOTO〜潜入ワンカメ京都リポ〜』とは
サライ京都チャンネル「RE:KYOTO(リ・キョウト)〜潜入ワンカメ京都リポ」は地元京都の放送局で15年間活動してきた現フリーアナウンサーの木村寿伸(きむら・ひさのぶ)がナビゲーターを務めます。 京都ですでに活躍している人、何かに挑戦している人への取材を通して、京都の魅力を“再発見”しようというこの企画。 タイトルの「RE:」には「再び」という意味がありますが、そういった“再発見”や、取材、配信を通して、地元京都に何か「“RE-TURN”恩返し」させていただきたいという思いも込めました。 単独潜入風、昨今話題のブイログスタイルでお送りすることで、近しい人しか知らない取材対象者の表情や本音の部分に迫ります。
第2回は、京都市伏見区の蔵元「齊藤酒造」についてリポートします。
京都市伏見区の蔵元「齊藤酒造」とは
日本有数の酒処、京都伏見。日本酒造りに欠かせない全国でも指折りの名水が流れるこの土地では、古くから酒造りが盛んに行われています。季節も冬に近づき、これからが仕込みの最盛期。
今回訪れた齊藤酒造では、杜氏たちが酒の仕込みに精を出す一方、新たな試みにチャレンジしていました。
江戸時代の元禄の頃より呉服商を営んできた齊藤家が酒造業に転業したのは、明治28年。大正天皇の御大典を記念し、商標を“英勲”としてから、昭和、平成、そして令和に渡ってこのブランドを守り育ててきました。
現在は日本全国をはじめ、海外へも銘酒を送り出し、高い評価を受けています。
日本酒造りの現場に潜入
吟醸造りは、精米した米を水洗いし、白米に水分を含ませる「洗米(せんまい)・浸漬(しんせき)」から始まり、
それを蒸す「蒸米(むしまい)」、麹室で麹カビを育てる「製麹(せいきく)」、酵母を育てる「酒母(しゅぼ)造り」、
その後、「仕込み・醗酵(はっこう)」に移ると、いよいよお酒を搾る「上槽(じょうそう)」へと進みます。
お酒の種類にもよりますが、ここまでくるのにかかる日数は40日間ほど。さらに上槽から約半年かけて熟成させ、
ようやく最後のチェック「官能検査」に入ります。
私は蒸米の工程を取材しましたが、蒸米後はすぐに冷まさないといけないということで“時間との戦い”。
米をほぐす皆さんの表情はとても真剣で、辺りは張り詰めた空気が流れていました。
その後、酒母造りの現場へ向かうと、そこには若き女性蔵人の姿が。
募集がない中、「酒造りがしたい」と自分から飛び込んできたという彼女。杜氏の浦井さんは「自分たちは酒をつくるだけでなく、後継者を育てるのも仕事。将来が楽しみだし嬉しい」と、後進の姿に目を細めていました。
コロナによる“ピンチ”を“チャンス”に
こうして手間暇かけてつくられる日本酒ですが、この1年半は新型コロナによる酒類の自粛要請などを受け、酒造業界は苦境に立たされています。
「口で言うのも恐ろしいくらい」。そんな齊藤 透(さいとう・とおる)社長の言葉からも深刻な影響を伺い知れますが、一方で、「厳しい状況だからこそ、改めてチャレンジする心に火がついている」とも話します。そんな思いを形にしたものが今年の春に発売した“料理梅酒”です。
コロナ禍で誕生した“飲める”万能調味料
実はこちらの商品、「普段から料理に“梅酒”を使っている」という社員の話がヒントになって商品化されたもの。
社長のご子息で、開発責任者の齊藤 洸(さいとう・ひろし)常務はその狙いをこう話します。
「日本国内でのアルコールの需要のシェアにおいて、日本酒はわずか7%。その7%にはない別のシェアをつくることが今求められている。お酒をたしなむ層ではなく、料理をする主婦層をターゲットにするのが狙いです」。
この料理酒は、ベースが日本酒、その中でも吟醸酒というランクの高いお酒を使用していることが最大の特長で、
ホワイトリカーなどをベースにした一般的な梅酒と比べるとアルコール臭さがなく、よりクリアな味になるといいます。
販売にあたり、料理研究家の杉本節子さんに協力を依頼し、レシピカードを作成しました。
考案した杉本さんは「臭みを抑えるアルコールと甘味、味を引き締める酸味。その全てがこの1本で叶う。
砂糖やみりんを加える必要もないので、まさに万能。頼りになる1本です」と評価します。
それに加えて、この料理梅酒には実はもう1つの特長が。調理用に色々配合は工夫されていますが、普通の梅酒に何か調味料を添加しているわけではありません。ですから一般的な料理酒と違い、飲むことができます。
梅の香りに濃厚な甘味、控えめな酸味、そして驚くほどにスッキリな後味。私も飲ませていただき、日本酒ベースの良さを感じました。正直、飲んでも美味しい料理酒なので、普通に梅酒として楽しんでしまいそう。料理をしている最中、“ちょい飲み”が進み、途中で酔っ払わないようにしたいものです。
将来の展望と蔵元としての覚悟
「日本の人口そのものが減少していくことで、今後の酒造業界は厳しくなる」。
そう話す齊藤常務は、将来の展望について大事なポイントを3つ挙げました。
1つ目は、今回の料理梅酒のようにこれまでとは“別のジャンルへの挑戦”。
2つ目は“海外向けの輸出”。
現在、全世界における日本酒のシェアは1%もない状況ですが、このコロナ禍でも海外への輸出は業界全体で伸び続けており、まだまだ伸びしろがあるとのこと。
そして3つ目がコロナから回復してきた時の“インバウンドの復活”。
日本酒を楽しんでいる既存の層に向けた努力は言わずもがな、新たな層をどう開拓していくのかが今後のキーになりそうです。
しかしそういった様々な挑戦を続ける中でも変わらないのは齊藤社長の“根底にある思い”。
「我々は酒をつくるのが仕事ではなく、酒を通して多くのお客様に“喜び”を感じていただこうとしている。
長い歴史がある清酒の伝統を大事にしながら、現代のお客様の喜び、楽しみ、癒しに繋がるようなお酒を
これからもつくっていきたいと考えています」。
その言葉には、業界が苦境にある中、業界人として担うべき役割、覚悟が表れているように感じました。
古き良きものを守り続けるのではなく、形を変えてでも残ってきたものが伝統文化産業。
激動の時代、転換期を迎える今、良いもの、楽しいものと感じてもらえる新たなお酒を求めて、齊藤酒造はその歩みを進めていきます。
齊藤酒造 株式会社
〒612-8207 京都市伏見区横大路三栖山城屋敷町105番地
TEL 075-611-2124
アクセス 京阪「伏見桃山」駅または近鉄「桃山御陵前」駅から徒歩約20分
HP https://www.eikun.com
テーマ音楽 尾辻優衣子(二胡奏者)
オープニング「京騒奏」
エンディング「鏡花水月」
企画制作・出演 木村寿伸(フリーアナウンサー)