世界文化遺産である「古都・京都」。

1200年以上の歴史によって涵養された文化や佇まいは、多くの人々を引き寄せ魅了します。しかし、奥深き歴史ゆえに格式や荘厳さ、威厳、権威などが立ち入ることを許さない雰囲気を醸し出し、時として訪問者をたじろがせることも…。

さらには、「一見さんお断り」「これより先はご遠慮ください」は、京都でしばしば見聞きすること。そうした背景から、「本来の京都」「観るべき京都」「観たい京都」を体験する機会は、もしかしたら知らぬ間に失われているのかもしれません。

そこで、「京都の奥義」では「一見さんお断り」の向こう側にある京都、もう一歩奥の京都へと誘います。

四季折々、コロナ禍でなければ「年に何度か、必ず京都へ参ります」と、おっしゃる方は多いことでしょう。京都好きの方でしたら、こんなご経験はございませんか?

京都の街を散策しておりますと、大きな敷地の高い板塀に囲まれた、奥ゆかしいお屋敷が街並みに溶け込むように佇む姿を目にします。そんな時、きっと次のような問いと願望が、ふつふつと湧いてくるのではないでしょうか。

「どんな人が、住んでいるのかしら?」
「お屋敷の中は、どうなっているのかしら?」
「できたら…観てみたい」

そんな方々のお気持ちにお応えし、この記事では京都御苑の西側、閑静な住宅の一角にございます、京都の商家(株式会社山本仁商店)のお住まい『仁風庵(じんぷうあん)』の内部と所蔵する美術品を特別にご案内いたします。

京都の「おもてなし文化」を受け継ぐお屋敷

『仁風庵』は、昭和15年(1940)頃に建てられた近代和風住宅です。年に数回、市民講座などの催しが開催される他は、住居として使用されているため、完全非公開となっております。

元々は、岐阜で白生地問屋を営んでいた山本仁三郎が、大正9年(1920)に京都・室町に拠点を移した後、店とは少し離れた閑静な地に、客人や取引先をもてなすため完成させた屋敷です。今は、京都に移って3代目となる山本彰彦氏の御一家がお暮らしになっています。

店舗の『山本仁商店』は祇園祭の鉾町・室町通りの鯉山町にあり、京都の「祇園祭」を支える町衆文化の担い手としても貢献されています。代々の当主が、時代時代に合った「仁」の心を大切に、商いを文化として発展してこられた商家です。
 
また、『仁風庵』は、平成19年(2007)に国の登録有形文化財に指定され、京都市の景観重要建築物の指定も受けています。真壁造の和風外観の建築に、洋室やテラス、茶室を有する点で、上質な近代住宅として高く評価されています。

南側の庭から見える、居間と茶室。

主屋は木造2階建の桟瓦葺(さんがわらぶき)で、屋敷の南側にある表門をくぐり、玄関を入ると右手に洋風応接室,左手には居間と茶室があります。北に向けて中廊下がのび,東側の緑が美しい庭に面して、12畳半のお座敷をはじめとする和室が3室並びます。屋敷の西側には台所、お風呂などの水まわりの空間が配されています。2階には客間と次の間,洋室等があり、天井照明や建具に用いられた装飾ガラス、アール・デコ風の意匠が印象的です。和風建築に洋風の空間を取り入れる昭和初期の流行を全身で感じることができます。

東側の庭から見た、和室。

祇園祭の宵山・屏風祭で年に一度だけ公開

山本家所蔵の貴重な美術品『曾我物語図屏風(そがものがたりずびょうぶ)』は、江戸時代初期の作品で保存状態も良く、令和3年(2021)の京都文化博物館での展覧会「よみがえる承久の乱」にも出展されるなど、美術価値が高いものです。

通常は歴史を感じさせる木の箱に収められている、六曲一双の屏風。広げれば「右隻(うせき)」から「左隻(させき)」へ、物語の世界が展開されていく様子がうかがえます。金箔が映える屏風に、男女含めて、様々な人物が精緻に描かれています。

『曾我物語図屏風』

描かれている題材は『曾我物語』。源頼朝の主催する富士山麓での狩りの場で、父を殺された曽我十郎・五郎の兄弟が父の仇討ちを成就するという有名な史実に基づいた物語です。浄瑠璃や歌舞伎でも「曽我物」と呼ばれて人気があるので、ご存じの方も多いことでしょう。

なかでも、赤い傘をさしかけられた源頼朝の姿は目を引きます。また、屏風に女性が描かれている点が珍しく、山梨県立博物館所蔵の『曽我物語 富士巻狩・仇討図』と比較されることがあるそうです。この屏風は、祇園祭の宵山で行われる屏風祭の時のみ『山本仁商店』の社屋で一般公開されています。

東側の緑が美しい庭。

今や世界的な観光地となった京都、お金を出せば拝観できる有名な観光地は多数ございますが、個人が所有するお屋敷の内部となりますと、滅多に観ることは叶いません。しかし、今回、家宝ともいえる貴重な屏風を広げて観せてくださった山本家のお姿に、おもてなしの心は今も脈々と京都の日常に息づいていることを学ばせていただきました。

■仁風庵
※本施設は個人宅であり、特定のイベント、催し物以外での一般公開は一切行なっておりません。

■山本仁商店
住所:京都市中京区室町通蛸薬師上る鯉山町529番地
TEL:075-221-0753
URL:https://www.yamamotojin.com/

企画・動画・編集/京都メディアライン(https://kyotomedialine.com/
文/奈上水香(京都メディアライン)
写真/小林禎弘(一部を除く)

 

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