日本各地には多くの湧水があるが、その中で、何故か名水と呼ばれる水があります。
ただ、美味しいというだけではなく、その水が、多くの恵みをもたらし、人々の命に深く関わり、生活を支えてきたからに他ならないからでしょう。それぞれの名水からは、神秘の香りと響きが感じられます。
名水の由来を知ることは、即ち歴史を紐解くことであり、地域の文化を理解することでもあります。名水に触れ、名水を口にすれば、もしかすると、古の人々の想いに辿り着くことができるかもしれません。
歴史ある水を訪ね古都を歩きます。
教科書などに登場する、名高い歴史上の人物に縁(ゆかり)のある場所や街には、人々を惹きつける不思議な魅力があります。同じ場所に立つことで、往時の佇まいを空想したり、その空想のなかで憧れの歴史上の人物に成ったかのような気分を味わうのも楽しいものであります。
今回は、滋賀の小京都とも呼ばれ、時代劇の撮影場所としても有名な「八幡堀(はちまんぼり)」など、見所も多い“水郷の街”近江八幡を、由緒ある水を求め散策を楽しんで参りました。
近江八幡は、悲運の関白として知られる豊臣秀次(秀吉の姉の長男)が開いた城下町です。滋賀県観光協会のパンフレットには、次のように紹介されています。
「1585年、18歳にして近江43万石の領主に任ぜられた豊臣秀次は、信長亡き後の安土城下の民を近江八幡に移し城下町を開きました。自由商業都市としての発展を目指して楽市楽座を施行。
城の防御である八幡堀を琵琶湖とつなぎ、往来する船を寄港させるなど、秀次はわずか5年の八幡山城在城の間に、商いのまちとしての繁栄の基盤を築いたのでした。」
ということなので、さっそく近江八幡の開町の祖・秀次の功績を辿ってみることにしました。
秀次が築いた八幡山城と日牟禮(ひむれ)八幡宮の自然水
先ずは、近江八幡のシンボル、八幡山城跡へ登ってみることにしました。城跡は、標高271.9mの八幡山山頂にあり、ロープウェイを利用して登ることができます。取材の日は、往時の武将たちの登城気分を味わうべく歩いて登ることに。山頂までは、ゆっくり歩いて約1時間ほどの道のりですから、健脚の方は、是非チャレンジしてみることをお勧めします。
頂上の本丸跡、西の丸跡、北の丸跡からは、それぞれの方角に城下町や琵琶湖、遠くには安土城跡を望むことができ、ちょっとした城主気分を味わうことができます。
戦国時代の城主気分を味わってみたところで、早々に名水散策をすることに。
八幡山のふもとにある日牟禮八幡宮をお詣りを兼ねて訪ねました。日牟禮八幡宮は、平安時代の中頃に九州の宇佐八幡宮から分社化されて生まれた八幡宮です。宇佐八幡宮と同じく、誉田別尊(ほんたわけのみこと)、息長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)、比賣神(ひめがみ)の三柱の神々をお祀ります。
この歴史あるお社の手水舎の水について社務所で尋ねてみたところ、昔からの井戸水を汲み上げているとのこと、古くから「日牟禮八幡宮の自然水」として知られているそうです。しかし、今は飲料にはお勧めしていないとのことでした。ちょっと残念な感じを抱きながら、情報収集を兼ねて旧市街地の中心である新町通りを歩いてみることにしました。
名水を求め、近江商人の発祥の地を散策
ここ近江八幡は、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の精神で知られる、近江商人のふるさと。古い町並みが、とても大切に保存されています。国の重要伝統的建造物保存地域にもなっており、江戸時代末期から明治にかけて建築された商家が整然と残る町並みは、まるでタイムスリップをしたかのような感覚を味わえます。
そんな保存地域の中に在る「近江八幡市立資料館」を訪ねてみました。館内には、市内の考古・民俗・美術工芸・文書などが展示されており、近江八幡の商家の帳場風景や当時の生活ぶりを体感できるようになっておりました。
残念ながら、資料館ではこの地域の湧水に関する情報は入手できなかったので、再び日牟禮八幡宮を訪ねてみることにしました。
秀次の涙を思わせる、八幡山城の麓に湧き出す霊水「大江(おいえ)水」
社務所におられた禰宜(ねぎ)の方に、地域の湧水について尋ねてみました。すると「北ノ庄」という所に観音堂があり、その境内に地域の人から「霊水」と崇められている「大江(おいえ)水」という湧き水があることを教えていただきました。
北ノ庄は、八幡山の東部山麓に位置する古い集落。日牟禮八幡宮からは車で約5分くらいの村です。普通自動車がやっと通れるくらいの細い旧道を進むと、目的の観音堂に辿りつくことができました。
そこは、地元住民しか知らないようなひっそりとした佇まい、清掃が行き届いた観音堂や水辺から信仰の深さが感じられました。古い石柱の囲いの奥に湧き出し口は在るようで、はっきりと分からないのですが、山際の岩の下から染み出しているようでした。八幡山城の麓にある湧水だけに、悲運の死を遂げた“秀次の涙”を連想してしまいました。
今回のように、古くから住民に信仰されている湧水を訪れると、何かしら恵みをもたらす水が、人を集め、やがては、村や町を形成し、歴史を作ったことを実感させられます。
秀次の時代から、長きにわたる時代の流れと風情を感じさせてくれる近江八幡。八幡堀(はちまんぼり)の遊覧船に乗りながら、歴史ロマンに浸ってみるのは如何でしょうか?
周辺のお勧め観光施設
・近江八幡市郷土資料館
郷土資料館は、かつて海外で活躍した近江商人・西村太郎右衛門邸跡に昭和49(1974)年3月1日に開設されました。旧市街地の中心・新町通りに位置し、八幡商人のふるさととしての歴史を伝えています。
・かわらミュージアム
かわらミュージアムは、かつての瓦工場の跡地に建てられています。八幡堀に面した白黒のモノトーンが映える個性的な瓦づくしの建物です。
また、周囲の景観にも溶け込むように、情緒ある施設です。他にも、古瓦で絵や模様が描かれており、日本の伝統美を満喫できるでしょう。
所在地・最寄り駅、交通手段
名水の所在地: 滋賀県近江八幡市北庄町内
電 車: JR琵琶湖線 「近江八幡駅」下車
自動車: 名神高速道路 竜王ICから30分程度
取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
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