世界文化遺産である「古都・京都」。
1200年以上の歴史によって涵養された文化や佇まいは、多くの人々を引き寄せ魅了します。しかし、奥深き歴史ゆえに格式や荘厳さ、威厳、権威などが立ち入ることを許さない雰囲気を醸し出し、時として訪問者をたじろがせることも…。
さらには、「一見さんお断り」「これより先はご遠慮ください」は、京都でしばしば見聞きすること。そうした背景から、「本来の京都」「観るべき京都」「観たい京都」を体験する機会は、もしかしたら知らぬ間に失われているのかもしれません。
そこで、「京都の奥義」では、「一見さんお断り」の向こう側にある京都、もう一歩奥の京都へと誘います。
皆さんは「京都」を訪れる時、何を楽しみにご旅行されますか? 寺社仏閣、美術工芸品、京料理…と多彩な選択肢がありますが、京都ならではの「京菓子」を楽しみに訪れる方も多くいらっしゃることでしょう。馴染みの老舗店があったり、お取り寄せを楽しまれている方もいるかもしれませんね。
いかにお馴染みの京菓子店といえども、調理場に足を踏み入れたり、職人さんからじっくりと話を聞く機会はなかなか得られないもの。
そこで、近年観光客にも人気が高く注目を集める『茶寮 宝泉』の内部を、特別に取材をさせていただきました。
店主が語る、人気和菓子店「茶寮 宝泉」の由来と隠された思い
古来から、“下鴨さん”と呼ばれ、京都の人たちから親しまれてきた、下鴨神社。そこから北へ約10分ほど歩くと、閑静な住宅街の中に『茶寮 宝泉』はあります。暖簾をくぐり石畳の小径を進むと、築100年以上経つ数寄屋造りの民家を改修した店の玄関に辿り着きます。
宝泉堂の創業は1947年。長年、京 半生菓子の小豆製品の卸販売をしていましたが、「本物の丹波大納言の味を届けたい」との思いから、1999年9月『あずき処 宝泉堂』を構えました。その後、2003年に『茶寮 宝泉』を開店。
『茶寮 宝泉』のある京都・下鴨は、住宅専用地区。なぜこのような場所でお店を開こうと思ったのでしょうか?
「私が生まれ育ってきた下鴨で、本来の京都の景色を残していきたいと思い、『茶寮 宝泉』を開設しました。当初は、観光地ではないこの場所にお客様が本当に来てくれるのだろうかと疑問を感じていましたが、時間がかかっても次世代にこの光景を残していきたいという思いが強かったですね」
こう話すのは店主の古田泰久さん(72歳)。この茶寮を通して、京都の先人たちが大切にしてきた四季の移ろいや、京都の原風景を感じてもらいたいと言います。
屋号「宝泉」の由来についても聞きました。
「京都の地下には、琵琶湖の面積に匹敵するほどの水がめがあると言われています。和菓子屋にとって、一番大切な材料は小豆であり砂糖ですが、水もなくてはならないものです。
『宝泉堂』という名は父がつけましたが、茶寮を作った時に、私が『宝泉』としました。“大切なのは水にある”という思いを込めたんです」と古田さんは語ります。
『茶寮 宝泉』の庭木や苔の緑が生き生きとしているのは、京都の地下水を用いて手入れをしているからかもしれません。
■心配りが細部まで行き渡る、もてなしの準備
『茶寮 宝泉』は、素材を追求する甘味処として知られています。そんな『茶寮 宝泉』の調理場では、二十四節気七十二候を興ずるかのように生菓子が創作されていました。訪れる日が違えば、メニューも変わる。それほど早い頻度で、生菓子の品書きは入れ替わります。まるで、京菓子との一期一会が演出されているようでした。
店内には、季節を感じさせる生け花や掛け軸がさりげなく設えられています。掛け軸は、京都の四季折々の情緒が感じられる一幅を、店主自ら厳選。「季節に一番合うものを選んで、お客様とともにさり気なく四季を楽しみたいんです」と古田さんは微笑みます。
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「故郷に戻ったように寛いだ気持ちで、この店での時間を楽しんでいただきたいですね」と古田さんは話します。茶寮 宝泉』の魅力は、手入れの行き届いた庭の美しさと、築100年以上経つ数寄屋造の佇まいの中でいただく、生菓子の美味しさ。
その底流には、「京都の良さを満喫していただけるように」という店主の心配りが行き渡っています。そうした心遣いがひとつひとつのお菓子作りにも息づいているのを感じていただけるのではないでしょうか。
■茶寮 宝泉
住所:京都市左京区下鴨西高木町25
電話番号:075-712-1270
営業時間:10時〜16時30分まで
定休日:水曜日・木曜日
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企画・動画・編集/京都メディアライン(http://kyotomedialine.com)