■広がる一揆にひるむ秀吉勢

10月上旬、伝馬役の賦課をきっかけとして、大崎家旧臣や年寄百姓らが新領主・木村吉清に反抗して磔(はりつけ)にされるという事件が、大崎氏の旧城・下中新田(なかにいだ、宮城県加美町)にほど近い米泉(こめいずみ、宮城県加美町)で発生した。これが、燎原の火のように旧葛西領の胆沢・気仙・磐井の諸郡(現在の岩手県)に拡大する。

木村清久が、対策を検討するために、古川城(宮城県古川市)から吉清の寺池城に向かう間に、岩手沢城(宮城県岩手山町)が落城してしまう。一揆は、旧葛西・大崎領の全域に広がってゆく。寺池城からの帰路、清久は一揆に包囲され、救援に駆けつけた吉清とともに佐沼城(宮城県登米市)に逃げ込んだ。

同月下旬、一揆勃発の報が会津黒川にも届く。氏郷は、秀吉に注進し、家康には加勢を依頼し、米沢の政宗に一揆討伐の案内役として先手に立つよう連絡する。そして家臣団を、一揆に包囲された木村氏救援軍と政宗来襲に備える会津黒川城番の二手に分け、11月5日の早朝に出陣した。

しかし、まったく経験のない厳冬下、しかも敵対勢力圏の行軍である。特にこたえたのが、雪中の野営であった。11月9日付で浅野長吉の重臣・浅野正勝に宛てた書状には、「雪中を罷り越し候故、仁(人)馬正体無く草臥(くたび)れ申し候」と吐露している(仙台市博物館所蔵「伊達家文書」)。政宗方の百姓達は警戒して宿を貸さないし、暖をとる薪にも事欠く始末だった。

氏郷は、政宗の重臣・片倉景綱と連絡を取りながら進軍して11月14日に政宗に対面し、一揆攻撃を同月16日と約束する。そして同月15日付で起請文を交わして、相互の連携を約束した。ところが政宗の家臣・須田伯耆らが氏郷のもとに奔り、政宗が一揆に通じていることを警告する(『貞山公治家記録』など)。そこで16日に氏郷は、急遽、大崎氏旧城名生(みよう)城に楯籠もり、24日には秀吉に政宗の異心あることを秀吉に連絡する。

氏郷は、政宗との交渉を第一として年内は籠城を続け、天正19年元旦に名生城から撤退し、木村父子を伴い二本松城で浅野長吉と対面して、正月11日暮方に会津黒川に帰城した。上洛の後、氏郷は前田利家の仲介により政宗と和解した。そのうえで、木村父子の旧領葛西・大崎12郡の没収とその政宗への給与、政宗の所領会津近辺5郡の没収とその氏郷への給与が決定する。

■一揆の鎮圧と秀吉の「天下統一」完成

奥州の騒乱は続く。天正19年には、南部信直の有力一族・九戸政実が決起する。政実の抵抗が、それを押さえ込むことのできない信直によって、天下の謀反に仕立て上げられたのである。これには、葛西・大崎一揆の残党も加わっていた。

前年に発生していた和賀・稗貫一揆への対処も兼ねて、同年6月に豊臣秀次と徳川家康が下向してくる。6月20日付で秀吉は秀次に宛てて奥州奥郡に向けての大動員令を発令した。その目的は、葛西・大崎一揆再征と九戸一揆の鎮圧、それに城割と郡分・知行割にあった。つまり、前年の現状を無視した性急な奥羽仕置の失敗を受けての再仕置といってよい。

政宗は豊臣政権内での地歩を確立するために、葛西・大崎一揆残党の徹底鎮圧による城郭請取に余念がなかった。葛西氏にとって悲劇だったのは、政宗が城請取を通じて一揆に荷担した旧臣を皆殺しにしたことである。7月に宮﨑城(宮城県加美町)や佐沼城は陥落するが、雑兵に至るまで討ち取り、首80と耳鼻130を秀吉のもとに送った。さらに8月には、葛西氏旧臣を深谷荘糠塚(石巻市)に誘き出し、ことごとく斬首した。

6万ともいわれる上方勢の前に5千程度の九戸勢では衆寡敵(しゆうかてき)せず、政実は天正19年9月4日に降伏した。籠城衆の助命の約束は反故にされ、女性や子供も含む九戸一族は殲滅される。政実は秀次の本陣三迫(宮城県栗原市)で成敗され、その首は京都で獄門にかけられた。

私は、秀吉の天下統一は天正19年の奥羽再仕置をもって完成したと主張してきた(『天下統一』中公新書)。天下統一とは、天下人が日本六十余州への城割・検地などの仕置を通じて国土領有権を掌握することを意味したからである。決して、戦争を通じて反抗する戦国大名がいなくなることを意味するのではない。

文/藤田達生
昭和33年、愛媛県生まれ。三重大学教授。織豊期を中心に戦国時代から近世までを専門とする歴史学者。愛媛出版文化賞受賞。『天下統一』『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』など著書多数。

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