文・石川真禧照(自動車生活探険家)

気候変動問題への切り札として期待が高まる、水素を燃料とした世界初の量産燃料電池車「MIRAI」。その新型車が昨年12月に発売された。最新の安全・運転支援機能を搭載する世界最先端の車に試乗した。

2代目MIRAI(ミライ)。環境にいいだけでなく、上級乗用車として使える実用性を備えた4ドアセダンだ。

19世紀の終わり頃、欧州や北米の自動車は、蒸気、ガソリンを動力源とする車が鎬を削っていた。少数だが電気自動車もあった。やがて、ガソリンエンジンが主役の座につき、ディーゼルエンジンも加わった。この時代から約100年が経過し、いま自動車を動かす動力源の世界で再び激しい主導権争いが繰り広げられている。

それまでのガソリン、ディーゼルに代わろうと、ハイブリッド(HV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、電気(EV)が次々と実用化されている。地球環境を守るために低炭素、脱炭素化に向けて世の中が動き出している。自動車もその流れに従い、新しい動力源に取り組んでいる。

水素で発電した電気で動かす

基本的な骨格はクラウンと同じタイプを共用している。水素タンクを床下に3か所搭載する。

トヨタが水素自動車「MIRAI(ミライ)」を初めて発表したのは2014年。世界に先駆けて量産を開始した燃料電池車(FCV)だった。しかし水素の供給能力に制約があり、生産台数も限られていたので、広く普及しなかった。

そもそも燃料電池車というのはどのような車か。2代目MIRAIに試乗する前に、まずは燃料電池車の基本を学ぶことにしよう。

MIRAIの燃料は圧縮水素だ。これを空気に混ぜると、触媒を介して水素が空気中の酸素と化学反応し、電力を生み出す。化学実験で行なった電気分解の逆の作用である。この電力でモーターを動かし、車を走らせる。電気自動車のように毎日電力を充電する必要がなく、排出ガスはゼロだから、究極のクリーンカーともいわれる。

ただし、現時点では水素を充填できる補給ステーションが限られているのが弱点かもしれない。

水素の充填はガソリン給油と同様に短時間で完了。
水素ステーションは全国で約140か所だが、建設基準の緩和で今後増えそうだ。

加減速はなめらかで速く室内は静粛で振動も少ない

走行中のCO2排出はゼロ。発電のために吸いこんだ空気は濾過され、車外に排出する。

新型MIRAIは、トヨタ/クラウンの骨格をもとにした4ドアセダンだ。水素タンクは床下の3か所に分散して搭載されている。燃料電池で発電し、モーターで後輪を駆動して走行する。

トヨタの最新技術が投入された運転席。安全対応も万全。白系の内装も選べる。
前席中央にはスマホを置くだけで充電できる充電装置を搭載。
運転席中央部のほか、後席にもUSB端子が2個ある。

発進時は駆動用バッテリーの電力で、その後は燃料電池からの電力で走行する。加速時は燃料電池と駆動用バッテリーを併用して加速。減速時に回生エネルギーを得て、駆動用バッテリーに充電する。

計器内の走行可能距離は「408km」を示していたが、これは試算値で、実際に走行できる距離とは異なる。今回は約200km走行し、走行可能距離の表示は140km分しか減らなかった。ちなみにカタログ値では、走行可能距離は約750kmとなっている。

走行時の加減速は、EVと同様で、なめらかで速い。音も振動も少なく室内は快適だ。

気になる燃費はどうか。今回は約200km走行した後に、水素2.99kgを充填。水素1kgは1210円だった。1kmあたり約18円になる。ガソリン価格を145円/Lで計算すると、8km/Lのガソリン車と同等の実燃費だ。今後のさらなる水素価格の低減に期待したい。

車体前部には、水素と酸素を取りこんで発電する燃料電池(FCスタック)を搭載。
水素タンクやモーターなどを小型化。トランクにはゴルフバッグを3セット収納可能。

トヨタ/MIRAI Z
全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm
ホイールベース:2920mm
車両重量:1930kg
電動機:交流同期(永久磁石式同期型モーター)
最高出力:182PS/6940rpm
最大トルク:30.6㎏f-m/0〜3267rpm
駆動方式:後輪駆動
燃料消費率:135㎞/kg(WLTCモード)
燃料・タンク容量:圧縮水素 141L
サスペンション形式:前・後:マルチリンク式
ブレーキ形式:前・後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員:5名
車両価格:790万円
問い合わせ先:お客様相談センター 電話:0800・700・7700

※撮影協力/豊洲水素ステーション

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦

※この記事は『サライ』本誌2021年7月号より転載しました。

 

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