今年もまたノーベル賞の発表が近づいてきました。ノーベル賞の発表は毎年10月上旬に行なわれますが、昨年は大村智氏、梶田隆章氏の2人の日本人科学者が受賞しました。今年も日本人の受賞に期待がかかっています。
さて、ノーベル賞はスウェーデン(平和賞のみノルウェー)で授賞式が挙行されますが、じつはその授賞式後の晩餐会で用いられるカトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン)は、1991年から現在に至るまで、日本の新潟県燕市に本社を置く山崎金属工業の製品が採用されているのです。
なぜ、ノーベル賞の晩餐会で、日本製のカトラリーが採用されることになったのでしょうか?
もともと山崎金属工業は戦前からスウェーデンと取引を行なっており、燕市のなかでも、スウェーデン向けのカトラリーの生産では60%以上のシェアを誇っていたそうです。
それは1985年のこと。6年後の1991年に訪れる「ノーベル財団設立90周年」という節目に、晩餐会の会場を、それまでのホテルからストックホルムのシティホールに変更し、あわせて晩餐会にふさわしい「オリジナルテーブル」を作ることが決まりました。
デザインから製造まで、すべてをスウェーデンの企業が行なう計画でしたが、ステンレス製の高級なカトラリーを製造できる企業がスウェーデン国内になかったのです。
そこで、スウェーデンを代表するクリスタルグラスのデザイナーであり、山崎金属工業と深い縁があったグンナー・セリーン氏の推薦で、カトラリーは山崎金属工業の製品を採用することに決定したそうです。
もちろん縁だけで決まったわけではありません。当時から、山崎金属工業の加工技術は世界に知れ渡っていたのです。
ステンレスはシルバーと違って非常に堅く、機械加工が難しい材料です。来日したグンナー・セリーン氏は工場の職人たちと綿密な打合せを行ない、実現できた製品なのだそうです。後にセリーン氏は、一切のミスを出さず、要求に完璧に応えた職人技術の高さを絶賛しています。
また、高度な職人技術だけでは、優れたカトラリーは生まれません。山崎金属工業では、完成した製品の検品にも長い時間を要します。
スプーンやフォークは舌に直接触れることが多いカトラリーです。舌は極めて敏感ですし、ちょっとした突起でも怪我をするかもしれません。
使う人に対する細やかな気配りを忘れない企業姿勢が、世界に評価されるメイド・イン・ニッポンのカトラリーを生み続けているのです。
取材/文:山内貴範
※「メイド・イン・ニッポン」を特集した『サライ』9月号が発売中です。第2部「世界がうらやむ『ニッポンの銘品』11」の一つとして、山崎金属工業のカトラリーを紹介しています。