古来、仏教が盛んであった滋賀は、京都、奈良、大阪に次いで、国宝や重要文化財の指定文化財を多く有する県です。その南東の端、東海道が通り、東西交通の要衝として栄えた甲賀市には、最澄が訪れたこともあり、天台宗の寺院が多くあります。
櫟野寺(らくやじ)は、その拠点です。普段、厨子に閉ざされ、特別な時にしか公開されない秘仏、十一面観音菩薩坐像をはじめ、重要文化財に指定される平安時代の仏像20体がまとまって伝来する、特筆すべき寺院です。
そんな櫟野寺所蔵の重要文化財の仏像すべてが初めて寺外で公開されるという貴重な展覧会が、上野の東京国立博物館で開かれています。
でも、いったいどのようにして、貴重な秘仏を東京で展示することが叶ったのでしょうか? 東京国立博物館研究員の丸山士郎さんに伺いました。
「当館では以前から櫟野寺様の作品の寄託を受けていたため、かねてより諸像作品全てを揃って展示する機会があれば良いと思っていました。このほど、櫟野寺様が本堂と収蔵庫を改修することになり、今回の特別展が開催できることになりました」。
収蔵庫の改修というタイミングだったからこそ、大切な本尊を寺外に出せたのですね。
展示室に足を踏み入れると、総高5メートルを超す十一面観音菩薩座像が、でんと鎮座しています。圧倒的な迫力です。極彩色の衣や手にする花瓶以外はすべて金色に輝き、その荘厳さに、思わず美術館にいることを忘れ、手を合わせたくなります。
台座や光背の高さを除く仏像自体の高さは、3.12mもありますが、頭と体は1本の木から彫り出されたと言いますから、驚きです。お寺とは違い、展示室では厨子に収まっていませんので、360度、あらゆる角度から拝することができます。
これだけのスケールの仏像ですと、東京まで運ぶのにさぞ苦労されたのでは、と心配してしまいます。
「本尊は大変に大きな作品であるため、ただでさえ輸送・展示に多くの日数を要します。そのうえ、サイズ的に余裕のない厨子に安置されているため、厨子からの搬出も非常に困難でした。
結果、本尊だけで搬出・輸送に約20日間、展示に約5日間かかりました。当館だからこそ、この規模の作品を輸送・展示が実現できたのだと思います」(丸山さん)。
通常でしたら公開日に合わせて、甲賀市まで足を運ばなければ見えることのできない秘仏を、ぜひこの機会に、上野の山でご覧ください。
【特別展「平安の秘仏―滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」】
■会期/2016年9月13日(火)~2016年12月11日(日)
■会場/東京国立博物館 本館特別5室(上野公園)
■住所/東京都台東区上野公園13-9
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1000円(900円)、大学生700円(600円)、高校生400円(300円)
※中学生以下無料、( )内は20名以上の団体料金、障がい者とその介護者一名は無料。入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
■開館時間/9時30分~17時(入館は閉館の30分前まで)
※ただし、会期中の金曜日および、10月22日(土)、11月3日(木・祝)、11月5日(土)は20時まで、9月の土・日・祝日は18:00まで、10月14日(金)、10月15日(土)は22時まで開館
■休館日/月曜日
※ただし、10月10日(月・祝)は開館、10月11日(火)は休館
■アクセス/JR上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、千代田線根津駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分
■展覧会公式サイト:http://hibutsu2016.com/
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』