取材・文/藤田麻希
京都の玄関口として馴染み深い東寺(正式名称は教王護国寺)。五重塔が見えると「京都に着たのだな」と実感するかたも多いでしょう。そんな東寺は、平安京遷都にともなって建てられたお寺です。創建当時、平安京の入り口だった羅城門の東側にあったため、東寺と言います。当初はさまざまな宗派の僧侶が集まっていましたが、嵯峨天皇が、中国で密教を学んだ空海に運営を任せたことによって、823年に真言密教寺院となりました。
空海は、密教は大変難解であって、言葉だけではなく、造形作品の力をかりなければ伝えることはできないと言っています。そのため東寺には数多くの密教美術に関する優れた作品が残されています。そんな東寺の文化財を紹介する展覧会が、現在、上野の東京国立博物館で開かれています。
●曼荼羅とは
曼荼羅は仏の悟りの世界を表した図で、大日如来等の本尊を中心に、関連ある諸尊を定められた方式に従って幾何学的に配置しています。曼荼羅にはさまざまな種類がありますが、とくに有名なのは、『大日経』という密教の経典に基づいて描かれる「胎蔵界曼荼羅」と、『金剛頂経』に基づいて描かれる「金剛界曼荼羅」をセットにした両界曼荼羅です。東寺にも、文化財指定を受けているものだけで5件あります。
こちらは、現存最古の彩色の「両界曼荼羅図」。平安時代につくられたものですが、美しい色がよく残っています。胎蔵界曼荼羅では、大日如来を中心に、外周に行くにしたがって、諸尊の大きさが小さくなり、大日如来の力が全方位に広がるさまをあらわしています。金剛界曼荼羅は大日如来の知恵と実践をあらわしており、1000を超える仏が描かれます。肉身には朱色のグラーションが施され、インドからの影響が伺えます。
●立体曼荼羅とは
空海は嵯峨天皇から東寺を賜った後、それまで信仰の中心であった金堂とは別に講堂をつくり、そこに21体の密教尊像を安置しました。中央に大日如来、そのまわりを4躯の如来像が囲み、さらに右側に五菩薩、左側に五大明王、両脇に梵天・帝釈天、四天王が囲んでいます。『金剛頂経』の世界観を仏像で表したと考えられ、立体曼荼羅と呼ばれています。空海は立体曼荼羅の完成を見ずに入定しましたが、各仏像の作風には空海の希望が反映されている、と言われています。今回の展覧会には21体あるうちの、15体が東京にやってきます。
東京国立博物館広報室長の丸山士郎さんは、つぎのように立体曼荼羅を説明します。
「空海は密教を言葉で理解することは無理なので、絵や彫刻をふくめた造形作品を使う必要があると言っています。密教のお坊さんの修法のときに、変わった手の形をしますよね、立体曼荼羅の仏像も見慣れない手のかたちをしていて、それぞれに重要な意味があるそうです。それを一つ一つ言葉では説明できませんが、その形をイメージすることで修行は進めることができます。密教の教えは我々俗人にはわからないことが多いと思いますが、空海が伝えたかった密教の雰囲気は伝わるかと思います。それを味わっていただけましたら幸いです」
手や顔のたくさんある明王像は、密教らしい仏像です。密教はインドで仏教がヒンドゥー教の勢力におされていたときに、それに抵抗しようとできた宗派で、ヒンドゥー教の神々を取り入れています。そのため、明王像には、手や顔がたくさんあります。
仏像界きっての「イケメン」と呼び声が高い、帝釈天騎象像も会場にお出ましです。東大寺法華堂などに、奈良時代の帝釈天像がありますが、象には乗っていません。象に乗る姿は、空海が中国で学んだ知識が影響しているだろうと言われています。
東寺の講堂を拝観しても、なかなか奥の仏像をじっくり見ることは叶いませんが、今回の展覧会では、それぞれの像に近づいて拝見することができます。仏像曼荼羅以外にも、空海の書や密教法具など、国宝を含めた寺宝が勢揃いしていますので、ぜひお出かけください。
【特別展「国宝 東寺―空海と仏像曼荼羅」】
■会期:2019年3月26日(火) ~ 2019年6月2日(日)
■会場:東京国立博物館 平成館 特別展示室
■住所:〒110-8712 東京都台東区上野公園13−9
■電話番号:03-5777-8600 (ハローダイヤル)
■展覧会公式サイト:https://toji2019.jp
■開室時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
(ただし、会期中の金曜・土曜は21:00まで)
■休館日:月曜日、5月7日(火)
(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)は開館)
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』