取材・文/藤田麻希
東京に美術学校が創立され、博物館や美術館が建てられ、文化財の調査や保護が始まるなど、美術をめぐる環境が目まぐるしく変化した明治時代。岡倉天心などによって、『國華(こくか)』という美術雑誌が創刊されました。現在も刊行を続けるものとしては、世界最古の美術雑誌です。一度誌面に掲載した作品は再録しないという編集方針のもと、その時代時代の名だたる研究者が新しい作品を紹介し、論文を世に問うてきました。
そんな『國華』の創刊130周年を記念した大規模な展覧会《名作誕生―つながる日本美術》が、東京・上野の東京国立博物館で開催されています(~2018年5月27日まで)。
仏像や仏画などの仏教美術から、長谷川等伯「松林図屛風」、「風俗図屛風(彦根屛風)」、尾形光琳「八橋蒔絵螺鈿硯箱」、伊藤若冲「仙人掌群鶏図襖」、菱川師宣「見返り美人図」、岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」にいたるまで、ジャンル、地域、時代を超えた名品が集められ、作品同士、作者同士の関係(=つながり)に着目して紹介しています。
出品例として、東京国立博物館主任研究員・瀬谷愛さんの説明をもとに、国宝の普賢菩薩について見ていきましょう。
仏の姿は、経典や儀軌という図像集の決まりに従うことが多いです。普賢菩薩は法華経のなかに、白玉色の宝石のような肌をして、6本の牙が生えた白い象に乗り、東の浄土からやってくると記されています。東京国立博物館が所蔵する平安時代の仏画「普賢菩薩像」は、この決まりのとおりに描かれています。絵画では右を東と定めるため、象は右からやってきています。
大倉集古館が所蔵する「普賢菩薩騎象像」は、立体で表された例です。両作品ともに、鮮やかな彩色や、極細の金箔を細く切って貼り付けた截金が、大変綺麗に残っています。
もう少し話を広げましょう。この2つの例のように、平安時代の普賢菩薩像のほとんどが合掌しているのですが、このポーズについて法華経は触れていません。法隆寺の金堂壁画など古い作例では、左手で蓮華茎を持ち右手を胸前で捻っているのですが、いつからか合掌する姿で表されるようになるのです。
最近の研究で、このイメージソースが明らかになってきました。9世紀の天台宗の高僧・円仁が、唐に留学して持ち帰った資料のなかに、合掌している姿で表した普賢菩薩の図像が含まれていたのです。それをもとに、法華経の見返し絵が描かれ、そこから派生して合掌している普賢菩薩が流行するようになったと考えられています。
本展に出品されている「紺紙金字法華経(開結共)のうち観普賢経」は、そのような法華経見返し絵の例です。紺色に染めた紙に金泥の細い線で、合掌した普賢菩薩像が精緻に描かれています。
このような作品と作品との関係性を、説明とともに現物で確認することができます。展示品約130件のうち、国宝が14件、重要文化財が53件、つまり半分以上は国指定文化財です(会期中、展示替えあり)。日本美術史の教科書のような贅沢な内容の展覧会に、ぜひお出かけください。
【開催概要】
創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年
特別展「名作誕生-つながる日本美術」
■会期:2018年4月13日(金) ~ 2018年5月27日(日)
■会場:東京国立博物館 平成館
■住所:〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
■電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
■展覧会公式サイト:http://meisaku2018.jp/
■開館時間:9:30~17:00
※ただし、金曜・土曜は21:00まで、日曜および4月30日(月・休)、5月3日(木・祝)は18:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
■休館日:月曜日(ただし4月30日(月・休)は開館)
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』
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