夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。水曜日は「クルマ」をテーマに、演出家のテリー伊藤さんが執筆します。
文/テリー伊藤(演出家)
こんにちは、テリー伊藤です!
今の時代、スーパーカーが必ずしも自分を満たしてくれるわけではないことは、これまでにお伝えしてきましたが、じゃあ、どんなクルマならワクワクできるのか?そんなことを考えて今週と来週の2回にわたり、今手に入れると楽しいニッポンの「ちょいフル中古車」について語ってみたいと思います。
■あの娘に会うために横田まで
アメリカに憧れた世代のひとりである僕は、たまに時間ができると、東京西部の横田基地のほうにドライブします。おいしいハンバーガーを食べるのが目的なんですけど、もうひとつ気になる場所があるんです。1970年代にタイムスリップした気分になるところ。それは古いアメ車屋じゃなくて、いすゞの旧車専門店なんです。
いすゞは随分前に乗用車の販売をやめてしまいましたが、個性的なクルマを作るメーカーとして有名でした。特に有名なのが、1960年代終わりから80年代にかけて販売されていた、117クーペ。初代フォルクスワーゲン・ゴルフを手掛けたことで有名な、ジョルジェット・ジウジアーロによる流麗なスタイリングに、若い頃の僕は憧れたものです。
その中古車が売ってるんですよ、しかもどれも程度がいい!出会わせてくれてありがとうという気持ちになります。最近聞いた話では、日産・スカイラインGT-Rなんか、海外で人気が高く、アメリカやヨーロッパから中古が買い付けられるようになって、1000万円近い値段をつけることもあるそうですが、117クーペはまだ大丈夫。初期型の希少なハンドメイドモデルでなければ、高くても300万円くらいですから。そのお店では117クーペの後継モデル、ピアッツァも売っててね。これなんか100万円台で買えちゃいます。
■知恵とセンスで勝負していたメーカー、いすゞ
実は、僕はまだいすゞ車を買ったことがないんだけど、すごく気になってましてね~。
ちょっとマニアックになりますが80年代の「イルムシャー」とか「ハンドリング・バイ・ロータス」って覚えてます? 「イルムシャー」はドイツのカスタムメーカーで、「ロータス」はご存じ、イギリスの老舗スポーツカーブランド。当時のいすゞは、ピアッツァや小型車のジェミニにこれらのパーツや技術を使ったグレードを作っていたんですね。もちろんノーマルとの違いは走りにしっかり現われていたけど、僕はそうしたヨーロッパ的ないすゞの世界観が今でも好きなんです。
思えば80年代のクルマって、どれもワクワクさせてくれましたよね。「ターボ」「ツインカム」といった言葉に心を躍らせて、仲間同士で「今度の〇〇は何馬力だぜ!」なんて話をしたり…。高性能ドイツ車に羨望のまなざしを送りながら、頑張れば手の届く日本車に、みんなが憧れていたんです。いすゞは大メーカーには開発資金で叶わない分、知恵とセンスで勝負していたんですね。
あと、いすゞのクルマって、当時のほかのメーカーと比べても、顔つきが優しい気がします。だからコワモテ顔が幅を利かせる今こそ、洒脱で大人の品格を主張できるいすゞ車は「買い」なんです! いや~、こんなことを書いていたら、またお店を覗きに行きたくなってしまいましたよ。お店のほうも僕の気持ちを心得ていて、ときどき「いい117が入りました!」なんてメールが来るの。もう、寿司屋のネタじゃないっての!
【今週のテリー・カー(1):いすゞ・117クーペ】
【今週のテリー・カー(2):いすゞ・ピアッツァ】
文/テリー伊藤(てりー・いとう)
昭和24年、東京生まれ。演出家。数々のテレビ番組やCMの演出を手掛ける。現在は多忙な仕事の合間に、慶應義塾大学 大学院で人間心理を学んでいる。
(今週のテリー・カー、キャプション:編集部)