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四十八歳の抵抗|人生の盛りを終えようとする男の焦りが切ない【サライ名画館】

東京都内を中心に、全国の映画館で上映される映画史に残る往年の名作から、川本三郎さんが推薦する作品をご紹介します。

48歳の耕太郎(山村聰・左)は妻(杉村春子・右)と娘(若尾文子・中央)がいながら、19歳の少女に惹かれる。(C)1956KADOKAWA

四十八歳の抵抗(昭和31年) 選・文/川本三郎

「ミドルエイジ・クライシス」という。中年の危機。中年になった男を襲う。それなりの社会的地位はある。家庭にも恵まれている。それでも何か物足りない。決してまだ老け込む年齢ではない。若い女性と知り合いたい。

人生の盛りを終えようとする男の焦りが、切なく、時に滑稽に描かれる。脚本・新藤兼人、監督・吉村公三郎のコンビ。

原作は石川達三。昭和30年から31年にかけて「読売新聞」に掲載され、評判になった。

主人公は大手保険会社に勤める五十歳になろうとするサラリーマン。山村聰が演じる。現代では五十歳はまだ若いが、昭和三十年当時は初老。停年が近い。学生時代の友人達が死んでゆく。

奥さん役は杉村春子。夫に黙って電気洗濯機を買ったので夫婦のあいだで「ひともめ」あるのがこの時代らしい。娘役は若尾文子。キャバレーでトランペットを吹く年下の恋人(川口浩)がいるのも父親として頭が痛い。

ある日、彼は本屋でゲーテの『ファウスト』を買う(原作では森鴎外訳)。こんな言葉が目にとまる。「あてのない遊びをするには年を取り過ぎた。しかし欲望をたつにはまだ早い」。まるで自分の心のなかを言い当てられたよう。

そんな時、部下( 船越英二)がファウストを誘惑するメフィストフェレスのように彼を逸楽の世界へと誘う。

ある酒場でユカリという少女と知り合い、心を奪われる。ヌードモデルのアルバイトもしているという。演じているのは当時、歌手として人気のあった雪村いづみ。「おじさま好きよ」と甘え、可愛い小悪魔の魅力を見せる。

「中年後に覚えた道楽はむかしから七ツ下りの雨にたとえられる」

とは永井荷風『墨東綺譚(墨東の「ぼく」はさんずいに墨)』にある言葉。いつまでもやまない意。

少女と会うために小遣いをやりくりするのが侘しい。ようやく熱海に一緒に行くが、いざという時に抵抗され恋はあっけなく終る。ここで雪村いづみがいう「やめて、ユカちゃん、お嫁に行けなくなる」は題名と共に流行語になった。

山村聰が利用する駅はまだ木造駅舎の中央線の阿佐ヶ谷駅。

文/川本三郎
評論家。昭和19年、東京生まれ。映画、都市、旅、漫画など、幅広いテーマで評論活動を繰り広げる。著書に『荷風と東京』『映画の昭和雑貨店』など多数。

【今日の名画】
『四十八歳の抵抗』
昭和31年(1956)日本
監督/吉村公三郎
原作/石川達三
出演//山村聰、若尾文子、雪村いづみ、小野道子、船越英二、川口浩ほか
上映時間/1時間48分

【上映スケジュール】
期間:12月9日(土)~15日(金)
 *上映時間は要問い合わせ
会場:神保町シアター
 東京都千代田区神田神保町1-23
地下鉄神保町駅より徒歩約3分
電話:03・5281・5132

http://jinbocho-theater.jp/

※神保町シアターでは11月25日(土)から12月22日(金)まで特集「女優で観る〈大映〉文芸映画の世界」を上映。大映が残した数々の傑作文芸映画を、美しい女優たちに注目して特集します。

※この記事は『サライ』本誌2017年12月号より転載しました。

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