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飢餓海峡|洞爺丸沈没を背景に描く社会派ミステリー【サライ名画館】

東京都内を中心に、全国の映画館で上映される映画史に残る往年の名作から、川本三郎さんが推薦する作品をご紹介します。

ベテラン刑事の弓坂(伴淳三郎・左からふたり目)は、偽装殺人の容疑者として犬飼(三國連太郎・中央)に目をつける。(C)東映

飢餓海峡(昭和40年) 選・文/川本三郎

戦前の長塚節原作の『土』(昭和14年)や戦後の中村錦之助主演の『宮本武蔵』シリーズ(昭和36年~40年)で知られる内田吐夢監督の渾身の一作。社会派ミステリー映画の傑作として映画史に残っている。原作は水上勉。原作も映画も素晴しいのはあまり例がない。

昭和二十九年九月、台風によって青函連絡船の洞爺丸が沈没。千人を超える犠牲者を出す大惨事になった。同じ日、北海道の岩内町で大火が起き、町を焼き尽した。

水上勉はこの二つの事件をもとに『飢餓海峡』を書いた。ただ、時代設定を昭和二十二年にした。犯罪の背後に戦後の混乱があったことが大事と考えたからだろう。

三國連太郎演じる主人公の犬飼は、岩内町の質店を襲い、家人を殺し、大金を強奪する犯罪に関わる。洞爺丸沈没で騒然とするなか、小舟で北海道から下北半島に逃げる。途中、仲間二人を殺す。

モノクロ。十六ミリで撮影したフィルムを三十五ミリに拡大する新しい手法が画面にざらついた迫力を出している。

犬飼は下北半島の山中を走る森林鉄道のなかで気のいい女性からにぎり飯をもらう。八重(左幸子)というこの女性は大湊の町の娼婦。犬飼は彼女の優しさにほだされ、一夜を共にしたあと盗んだ大金の一部を与える。

思わぬ大金を貰もらった喜びと驚きに札束を抱きしめる貧しい娼婦がいじらしい。左幸子の演技は圧巻。

十年後。犬飼は名前を変え、東舞鶴で食品会社の社長として成功している。新聞でそれを知った八重は自分に大金をくれた「恩人」の犬飼に礼をいうために会いに行く。しかし、過去を知られたくない犬飼は彼女を殺してしまう。

八重は貧農の娘。犬飼もまた貧しい家に生まれ、汚れた金をもとにようやく世に出た。被害者も加害者も貧しさを背負っている。そこが悲しい。

驚くのは、犬飼の犯罪を追う北海道の地味な刑事を伴淳三郎が演じていること。喜劇俳優がシリアスな役をみごとに演じた。

北海道の岩内、下北半島の恐山、森林鉄道、青函連絡船などロケも効果を上げている。御詠歌や和讃を思わせる冨田勲の音楽も出色。

文/川本三郎
かわもと・さぶろう 評論家。昭和19年、東京生まれ。映画、都市、旅、漫画など、幅広いテーマで評論活動を繰り広げる。著書に『荷風と東京』『映画の昭和雑貨店』など多数。

【今日の名画】
『飢餓海峡』
昭和40年(1965)日本
監督/内田吐夢
原作/水上勉
出演/三國連太郎、左幸子、
伴淳三郎、高倉健、
三井弘次 ほか
上映時間/3時間3分

【上映スケジュール】
期間:上映中〜10月21日(土)
*上映時間は要問い合わせ
会場:ラピュタ阿佐ヶ谷
電話:03・3336・5440
東京都杉並区阿佐谷北2-12-21 JR中央線阿佐ヶ谷駅より徒歩約2分
http://www.laputa-jp.com

※この記事は『サライ』本誌2017年10月号より転載しました。

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