■サッチモの骨太路線
では、そのサッチモのヴォーカルと器楽演奏の魅力を、ポピュラリティという視点で分析してみましょう。
世間では、サッチモが大きな目玉をくりくりさせて愛嬌をふりまくので、大衆性といっても「俗受け」を狙っているのでは、と若干軽く見る傾向がないでもないようです。まあ、わからないでもありませんが、ここのところは重要なのできちんと見ていきたいと思います。
「ポピュラリティ」という英語を辞書で調べると「大衆性・人気・人望」といった穏当な意味と同時に、「通俗性・俗受け」といったちょっとネガティヴな意味合いも含んでいるようです。たしかに「親しみやすさ」を感じるという状況は、発信者と受け取る側、双方のスタンスによって微妙に異なってくるようです。
発信者が受け手の感受性を「低く」見積もっているときは、確信犯的に「俗受け路線」をとることもあるでしょう。テレビのお笑いタレントなどによくみられる状況ですよね。
他方、発信者が受け手を対等、あるいは一定の敬意をもって接するときは、そんなやり方はしません。相手に親しみを感じてもらうには、何より飾ることなく自分という人間をわかりやすくプレゼンテーションするのがいちばん。サッチモの「ポピュラリティ」は、この「王道路線」をきっちりと歌とトランペットで演じているのですね。そしてこれはジャズのもっとも重要な要素、「魅力的な自己表現」そのものなのです。
19世紀末に誕生した「ジャズ」が、“ニューオルリンズ・スタイル”、“スイング・ミュージック”、“ビ・バップ”、“クール”、“ハード・バップ”、“ウエスト・コースト”、“モード”、“フリー”と、ほんとうにめまぐるしくスタイルを変えつつも、今に至るまで同じ「ジャズ」の名称で親しまれ愛聴されているのは、サッチモがジャズ誕生から時を経ずして、歌と楽器演奏を通じて魅力的な自己表現を行なうという「ジャズの骨太路線」を敷いたおかげといっても過言ではないのです。
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