インド風の築地本願寺の外観。重要文化財に指定されている。築地市場はここから徒歩5分ほどだが、この写真だけを見たらとても日本の風景とは思えないだろう。

文・取材/山内貴範

東京メトロ築地駅の1番出口から地上に出ると、すぐ左手にインド風の不可思議な建築物が立っている。「築地本願寺」である。

設計を担当したのは、近代日本を代表する建築家、伊東忠太(いとう・ちゅうた、1867~1954)。昭和9年(1934)に、鉄骨鉄筋コンクリート造で再建されたこの築地本願寺本堂は、現代人の目にもきわめて斬新に映るだろう。インド風の意匠が用いられたのは確たる理由がある。「インドこそが仏教発祥の地である」という考えを、建築で表現しようとしたためなのだ。

ここ築地本願寺は、東京でも屈指の大寺院である。これほどまでに奇抜なデザインがよく許されたものだと驚いてしまうが、これはひとえに、当時の本願寺宗主・大谷光瑞の理解があったためだ。

光瑞は忠太と公私を通じて親しく交わり、その才能を高く評価していた。2人の出会いがなければ、築地のシンボルともいえるこの建物は誕生し得なかった。

忠太は建築家初の文化勲章を受章するなど、建築界に大きな足跡を残した人物だ。その一方で、幼い頃から絵を描くことが好きで、時間があればスケッチやイラストを描いていたという。晩年には毎日のように風刺画を描き、おびただしい数の動物や妖怪の絵を描いた。漫画家、イラストレーターとしての側面もあったのだ。

広間脇の階段には動物たちがいっぱい。写真は獅子と馬。変化に富む表情は、さすがは“漫画家”の忠太ならではといえる。

階段手すりに置かれた象。忠太の彫刻の特徴は、ムクムクと膨らんだ胴体の造形にある。

そんな忠太は、自らの建築作品に、様々な動物たちを生息させることで知られる。築地本願寺の堂内外にも、動物たちの彫刻が溢れている。正面の階段には翼が生えた獅子がいるし、広間脇の階段の手すりや壁には、鳥、牛、獅子、馬、猿、象がいる。いずれも写実的でありながら表情豊かで、胴体はムクムクと膨らんでいる。愛嬌たっぷりな造形は、忠太ならではのセンスといえる。

お寺の中で“動物観察”ができる、東京随一の奇想建築、築地本願寺。ぜひ一度、足を運んでその奇想っぷりを体感していただきたい。

文・取材/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

『サライ』2017年7月号は「奇想建築」の大特集です。伊東忠太の建築もたっぷり紹介しています。
 https://serai.jp/news/201347

 

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