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上層の屋根は芭蕉の顔で、なめらかな屋根は笠の表現。下層は芭蕉の服と身体である。

文・取材/山内貴範

伊賀流忍者の里として知られる三重県伊賀市。藤堂高虎が築いた伊賀上野城の敷地内に立つ「俳聖殿」は、奇妙奇天烈なデザインの奇想建築だ。

緩やかな曲線を描いた独特の形の屋根が特徴で、すぐ近くにある忍者屋敷を訪れた人々も“ぎょっ”としてしまうはずだ。一体何のために立てられたのだろうか。

回廊に立つ柱は芭蕉の健脚と杖をイメージしたもの。

“俳聖”とは、伊賀市が生んだ江戸時代の俳人・松尾芭蕉のこと。「俳聖殿」は昭和17年(1942)に芭蕉の業績を讃えるために建立された建築で、その佇まいは芭蕉の旅姿をイメージして設計されたという。ゆったりとした造りの屋根は芭蕉の帽子に当たる。

設計したのは、「築地本願寺」などの作品で知られる建築家・伊東忠太。イラストや漫画を描くことを好んだ忠太ならではの、見事な“擬建築化”のデザインなのだ。

世の中に擬人化の例は数あれど、歴史上の人物を“擬建築化”した例は他にないのではないか。こうした意匠の独創性が評価され、重要文化財にも指定されている。

堂内には伊賀焼で製作された芭蕉の像が安置されている。

建築の原案を出したのは、地元出身の政治家・川崎克である。川崎は伊賀上野城の天守再建にも携わるなど、故郷のために力を尽くした。伊賀市のシンボルを造った人物といえる。

竣工した昭和17年(1942)は芭蕉の生誕300年に当たる年だった。とはいえ、時代は第二次世界大戦真っ只中。物資が困窮しているような状況であるはずだが、質の高い仕事がなされている。先人を偲ぶ伊賀の人々の情熱の結晶といえるだろう。

「俳聖殿」を象った伊賀市内の電話ボックス。

文・取材/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

『サライ』2017年7月号は「奇想建築」の大特集です。伊東忠太の建築もたっぷり紹介しています。
 https://serai.jp/news/201347

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