選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

現代のオペラ界を代表するスター・テノールで、1969年ミュンヘン生まれのヨナス・カウフマンが、英国出身の名指揮者ジョナサン・ノットとウィーン・フィルと組んで、マーラー:大地の歌を録音した。

これは通常二人の歌手が交互に歌う全楽章を一人で歌ったもので、演奏史上初めての試み。その効果はめざましい。二人が歌うときは一種の文学的客観性を帯びていたものが、あたかも一人の男の主観的な、孤独な魂の告白のように響くからだ。(試聴はこちらから

李白や孟浩然、王維らによる中国詩のドイツ語訳にマーラーが作曲したこの作品は、美に酔い、酒に酔い、恋に酔い、そして人生そのものをいとおしむかのような、交響的歌曲集ともいうべきもの。そこにカウフマンは一人称という求心力をもたらした。

逞しく情感豊かな声を生かした歌唱は、真摯な思いを伝える。ウィーン・フィルの演奏は、明晰で引き締まったノットの指揮のもと、夢のように甘く柔らかい響きに満ちている。

【今日の一枚】
マーラー:大地の歌
ヨナス・カウフマン(テノール)、ジョナサン・ノット(指揮)他
録音/2015年
発売/ソニー・ミュージック
http://www.sonymusicshop.jp

商品番号/SICC-30425
販売価格/2600円

選評/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ局「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金曜 18:00~22:00放送)。近著に『ルネ・マルタン プロデュースの極意』(アルテスパブリッシング)がある。

※この記事は『サライ』本誌2017年7月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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