文・取材/山内貴範

国内外からの観光客で賑わう京都・祇園。伝統的な京町家が立ち並ぶ中に、奇妙な建築が聳え立っている。

祇園祭の山鉾をモチーフにしていることは一目でわかる。しかし、そのてっぺんには鶴が乗り、全体は仏堂風の造りだ。いったいこの建物は何なのか。

八坂神社側から望む祇園閣。鉄筋コンクリート造3階建てで、頂部まで含めた高さは約36mある。

この奇妙な建物は、その名を「祇園閣」といい、昭和2年に大倉財閥の創始者・大倉喜八郎が自身の別荘の敷地内に建設した望楼である。そして設計したのは近代日本きっての奇想の建築家・伊東忠太だ。

頂部の鶴は、喜八郎の幼名が“鶴吉”、雅号が“鶴彦”、晩年に“鶴翁”と名乗ったことに由来する。

入口に置かれた一対の獅子はむっくりとした造形で、いかにも忠太らしい個性的なデザイン。

扉に描かれた鶴。頂部の鶴と同様に、喜八郎の雅号などに由来するモチーフ。

喜八郎が銀閣に並ぶ“銅閣”を目指して建立したとか、ゆくゆくは観光施設として公開しようとしていたとか、この祇園閣の建設にまつわる逸話は多い。いずれにせよ、京都の新しいランドマークを造ろうとしていたに違いない。必然的に遠くからも目立つ意匠が求められ、当時すでに数々の奇想建築を手掛けていた建築家・伊東忠太に白羽の矢が立ったというわけだ。

伊東忠太にとって、喜八郎は重要なパトロンの一人で、東京の『大倉集古館』をはじめ数々の設計を依頼されている。建築の造形には施主の意向が反映されがちだが、長年の信頼関係もあり、忠太はかなり自由に設計できたといわれている。

そのため、内外に忠太の十八番である動物や怪獣の姿を見ることができる。建築ウォッチングの醍醐味が味わえるのだ。

堂内の壁に目をやると、ランプを持つ怪獣の姿がある。豚鼻を持ち、角が生えた奇妙な造形だ。

回廊から京都市街地を一望できる。奥には法観寺五重塔(八坂の塔)が見える。

この「祇園閣」は通常は非公開だが、7月8日~9月30日までの期間限定で特別公開が行なわれている。造形が注目されがちだが、望楼として建設されたということもあって、回廊からの眺望も見事なものだ。ぜひ、拝観可能なこの機会を活かして、奇想建築の粋を見に行っていただきたい。

【祇園閣】
所在地:京都府京都市東山区祇園町南側594-1
電話:075-531-5018(大雲院)
営業:通常は非公開。7月8日~9月30日までの期間限定で特別公開(ただし、9月26日は休み)。10時~16時。
拝観料:600円
アクセス:JR・近鉄京都駅より市バスで祇園下車、徒歩約5分。タクシーで約15分。

文・取材/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

 

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