平成27年(2015)に「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産の一つとして世界遺産に登録された、長崎市の軍艦島(端島)。石炭を採掘する拠点として高度成長期を支えた存在だったが、石炭から石油への転換のため、昭和49年(1974)に閉山、無人島となった。
その後、産業遺産として注目を集めるようになり、大正時代~昭和中期にかけて建設された鉄筋コンクリート造のアパート群が今なお残されている。
そんな軍艦島のアパート群のなかでも象徴的な存在と言えるのが“30号棟”だ。大正5年(1916)に軍艦島に完成したアパートで、現在、日本に現存する最古の鉄筋コンクリート造のアパートとしても名高い。
その完成から100周年を迎えた平成28年(2016)の12月、軍艦島の魅力を最新技術で体感できる施設「軍艦島デジタルミュージアム」館内に、「30号棟メモリアルスペース」がオープンした。軍艦島デジタルミュージアムのプロデューサーを務める久遠裕子さんは、こう話す。
「世界遺産登録後、軍艦島に上陸できるツアーを各社が運行しています。しかし、30号棟は老朽化が著しく、崩落箇所も多いため、屋内への立ち入りはできません。そこで、30分の1サイズの模型を作成し、展示することにしました」
重要文化財級の価値があると言っていい30号棟。模型の制作にあたり、当時の図面やかつての島民の意見を参考にしたという。約半年かけて制作されたというだけあって、見ごたえも十分だ。
また、スペースでは軍艦島の元島民の人々のインタビュー映像のほか、石炭採掘に使われたツルハシや日用品など、島内の暮らしを偲ぶ貴重な資料が並ぶ。
もちろん、館内の他の展示も見逃せないものばかりだ。
「ミュージアムの館内にもアパートの一室を再現した空間や、地下の採掘現場への道のりをリアルな映像で体験できる展示など、島での生活に思いを馳せることができる展示が満載です」と、久遠さん。
世界遺産登録後も客足が好調という軍艦島上陸ツアー。ツアーの前後にミュージアムを訪れると、より一層理解が深まるに違いない。
【軍艦島デジタルミュージアム】
■住所:長崎県長崎市松が枝町5-6
■電話:095・895・5000
■時間:9時~18時(最終入館は17時30分まで)
■休日:不定休(ホームページで告知)
■料金:1800円
■交通:長崎電気軌道大浦天主堂下駅から徒歩約1分。
http://gdm.nagasaki.jp/
文・取材/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。
写真/高橋昌嗣