文・写真/山内貴範

筆者はこれまで、現存する辰野金吾の作品はほとんど見学している。そのなかでも、岩手県盛岡市にある「岩手銀行旧本店本館」は、お気に入りの建築である

角地にドームを掲げ、屋根に窓や塔をリズミカルに配置して変化に富んだ意匠とするのが、辰野の作風の最大の特徴である。

角地にドームを掲げ、屋根に窓や塔をリズミカルに配置して変化に富んだ意匠とするのが、辰野の作風の最大の特徴である。

辰野と、盛岡市出身の葛西萬司の設計によって明治44年に完成した。辰野は設計の堅牢さから“辰野堅固”の異名をとったほど、堅実・堅牢な設計に定評があり、この建物も平成23年の東日本大震災でも被害はほとんどなかったという。

そんな「岩手銀行旧本店本館」は、翌年8月に銀行としての営業を終え、改修を経て平成28年7月に「岩手銀行赤レンガ館」としてオープンした。

中津川から見た「岩手銀行旧本店本館」は屋根の水平性が強調され、市街地側から見た景色と大きく異なって見える。

中津川から見た「岩手銀行旧本店本館」は屋根の水平性が強調され、市街地側から見た景色と大きく異なって見える。

外観を見た人の多くは、「東京駅みたい!」と感じるのではないだろうか。赤レンガの要所を白い花崗岩で飾り、大きなドームを掲げるデザインは、辰野の代表作である「東京駅丸ノ内本屋」と同じである。

角地に掲げられたドームは、市街地で一際目を引く存在だ。その後に完成した周りのビルと比較してもまったく負けていない。

一方で、中津川の方から建物を眺めると表情が一変する。塔とドームが重なり、うまい具合にドームの存在が消えるようになっているのだ。盛岡城や中津川から見たときの景観を意識したのかもしれない。

ドーム下にはこれまで2階と1階の間に床が設けられていたが、改修工事で撤去され、往時の吹き抜けの姿に復元された。

ドーム下にはこれまで2階と1階の間に床が設けられていたが、改修工事で撤去され、往時の吹き抜けの姿に復元された。

館内では、現役時代には見学できなかった部屋を自由に見て回ることができるようになったのが嬉しい。小規模な建築であるぶん装飾が充実しているので、一部屋ごとに異なる意匠を楽しみたい。

営業室はもっとも華やかな空間。手前のカウンターは蛇紋石を用いる。県内の早池峰山から切り出したものという。

営業室はもっとも華やかな空間。手前のカウンターは蛇紋石を用いる。県内の早池峰山から切り出したものという。

さらに、この建物で働いていた岩手銀行のOB・OGの方が受付を担当しているので、会話をとおして行員ならではのエピソードを聞くことができる点も魅力といえるだろう。

クジャクをモチーフにした装飾。

クジャクをモチーフにした装飾。

現存する辰野の作品は、それぞれの地域のランドマークになっている。岩手銀行も例外ではなく、銀行の建物という役割を超えて、盛岡の顔となっている。

辰野は同年代の建築家である曾禰達蔵や妻木頼黄と比較すると、デザインのぎこちなさは感じられるものの、“人に愛される建築”を生み出す才能があった。そんな非凡な才能を強く感じさせてくれる名建築である。

【岩手銀行赤レンガ館】
■住所:岩手県盛岡市中ノ橋通1-2-20
■電話:019・622・1236
■開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
■休日:火曜、12月29日~1月3日
■料金:300円
■交通:JR盛岡駅からバスで盛岡バスセンターななっく前下車 、徒歩約1分
http://www.iwagin-akarengakan.jp/

文・写真/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。

 

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