
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)も第41回では、松平定信(演・井上祐貴)政権の「出版統制」が、須原屋市兵衛(演・里見浩太朗)の刊行物まで及んだこと、須原屋も畳半分がなくなり、部屋の中のものもずいぶん減っている様子が描かれました。
編集者A(以下A):『三国通覧図説』は、日本と隣り合う朝鮮、琉球、蝦夷について、絵入りで紹介した書籍になります。同じく林子平著の『海国兵談』は、日本近海に外国船がやってきている現状に対して、国防を充実させるべきだと論じた警世の書です。著者の林子平は、もともと幕臣の子弟として誕生しましたが、姉が仙台藩伊達家の侍女となり、後には藩主の側室になったという縁で仙台藩士となった人物です。
I:深掘りすると、どんな人にも「物語あり」なんですね。その書を須原屋さんが刊行して、内容が松平定信の怒りを買い、絶版+版木没収などの処分がくだされたということですね。
A:須原屋さんの「知らねぇってのは怖ぇことなんだよ。物を知らねぇと知ってるやつにいいようにされちまう。間違っていることも正しいって信じたまま進んでっちまう。それこそ国益だって損なう。本屋にはな、より良い世のために知らねぇ事を知らせてまわるって役目があんだよ」っていう須原屋さんの台詞は、出版に携わる人間にとって身に沁みる台詞でしたね。
I:この場面などは、松平定信政権の出版統制の苛烈さをあらわしていますね。
A:『三国通覧図説』の本文は、「其の国九州の北にあり。肥前国唐津より壱岐島へ海上十三里。壱岐島より対馬島へ海上四十八里、対馬島豊ノ浦より朝鮮の東港、釜山浦へ四十八里」と平易な文章で解説されています。ところが付録の地図が、現代になって議論のネタになっているのが歴史の複雑なところです。現在、中国や韓国が日本固有の領土である尖閣諸島や竹島について不当に領有権を主張していますが、その根拠として『三国通覧図説』に付された地図をあげることがあるそうです。詳細についてここでは言及しませんが、200年以上経って、議論のネタにされるとは林子平や松平定信、須原屋市兵衛もびっくりしていることでしょう。

【反松平定信派が蠢き始める。次ページに続きます】










