さっそく子をもうけた将軍家斉(演・城桧吏)。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第35回を見終わって、改めて前回の第34回の田沼意次(演・渡辺謙)と蔦重(演・横浜流星)のやり取りがじわじわと響いてきました。

編集者A(以下A):大河ドラマ史上の名場面リストに入るような場面になりましたね。「ありがた山にかたじけ茄子(なすび)」。なんだか、なんども見返したくなる場面になりました。大河ドラマの歴史の中では、1987年の『独眼竜政宗』で渡辺謙さん演じる伊達政宗と勝新太郎さん演じる豊臣秀吉対面の回が、今も「神回」と言い伝えられているわけですが、新たに「神回」認定されるような好場面。第35回を見終えた後に、再度第34回をみると確かにうるっときますね。

I:きっと、20年後、30年後に「神回」と称される場面になるのでしょうね。それにしても、第35回から、蔦重周辺に暗雲が立ち込めてきた雰囲気があって、やきもきしてきました。

A:時代の空気が激変するわけです。ここは歴史の重要な分岐点。今まで見ていなかった人もここから先は見て欲しいです。

ふんどし政権の行方とは?

I:さて、蔦重の耕書堂で刊行した『文武二道万石通(ぶんぶにどうまんごくとおし)』です。

A:江戸中期には、浅野内匠頭を塩冶判官、吉良上野介を高師直に擬する『忠臣蔵』系の戯作で顕著ですが、政権の実在人物を登場させるのは、禁忌とされていました。蔦重が、朋誠堂喜三二(演・尾美としのり)に執筆してもらい刊行した『文武二道万石通』は、将軍徳川家斉(演・城桧吏)を源頼朝、老中松平定信(演・井上祐貴)を畠山重忠に擬した黄表紙です。

I:『忠臣蔵』もそうなのですが、鎌倉時代や南北朝時代の歴史をある程度把握していないと、作者の意図が伝わりませんから、当時の人々は歴史に通じていたんですね。

A:『べらぼう』劇中でも「梅鉢!」という台詞がありましたが、畠山重忠が、松平定信の家紋である「梅鉢」をつけているわけですから、蔦重、ちょっと攻めすぎでは? という感じもするのですが……。

I:定信が、むしろ蔦重らから励まされていると勘違いしているところがミソですね。

畠山重忠になぞらえられた松平定信(演・井上祐貴)。(C)NHK

田沼意次から松平定信に上司が変わったら?

I:さて、ということで、第35回で完全に政権交代が行なわれたということになるのでしょうか。

A:政権交代を上司交代になぞらえてみましょう。開放的で先取の気概があり、多少山っ気はあるものの、先例にとらわれずに、自由な空気を醸しだす。そんな上司から、何事も四面四角。細かいところまで指図しなければ気が済まず、先例をことさらに重視する人物が上司になったとしたら、どうでしょう?

I:ちょっと心がどんよりするかもしれません。もしかしたら、仕事に行きたくなくなるかもしれません。世の中、心がもやもやする原因の最たるものが「人間関係」だといわれています。気が気ではないですね。

A:そういう政権交代が現実になったわけです。蔦重らがやきもきするのもわかるのですが、ふつうは、やりすごしたり、迎合したりするのでしょうが、蔦重は、あくまで時代の流れに抗おうとします。

I:時代の雰囲気、空気が変わってくる様子がどう描かれるのか。今後のみどころですね。

政権のブレーン・柴野栗山が登場

I:柴野栗山(演・嶋田久作)という讃岐生まれ、阿波蜂須賀家中の儒学者が登場しました。

A:第6代将軍家宣の侍講として、家宣の「正徳の治」にかかわった新井白石の存在でもわかるように、将軍は、自らのお気に入りを側近くに置きたいということなのでしょう。現代でも「首相の政策ブレーン」という触れ込みの学者が一世を風靡することがあります。柴野栗山もそれと同じようなものなのでしょう。

I:2023年の大河ドラマ『どうする家康』では、新たな統治の基準として朱子学を導入することに触れられていましたね。

A:柴野栗山らは、まさにその朱子学こそ「祖法」であり、金科玉条ということを鮮明にします。さらに、劇中の松平定信は、田沼時代を「田沼病」と悪しざまに批判します。田沼らの政治は、「祖法」を逸脱したものだといいたかったのでしょう。時の為政者が「改革」を標ぼうする際には、その改革が「政権を延命するためのものなのか」「10年後、20年後の人々の暮らしに資するものなのか」ということをよくよく吟味しなければならないという教訓なのだと思います。

I:それは現代にも通じますね。よくよく吟味しなければ……。

53人の子どもをもうけた家斉。第一子は? 次ページに続きます

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