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長谷川平蔵に斬られた「七変化の隠密」。斎宮太夫を動員した蔦重の仕掛け。食糧難さえ政局に利用する主導権争いがひどすぎる！【べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～満喫リポート】33

2025/8/31

ライターＩ（以下Ｉ）：『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』（以下『べらぼう』）第33回は、田沼意次（演・渡辺謙）が一時的に「復帰」して復権を試みる様子が描かれました。一橋VS田沼の最終決戦ということでしょうか。田沼はお救い米を供出して、庶民の救難を救おうとします。ところが、松平定信（演・井上祐貴）の差し金なのか、お救い米は供出されずに、打ちこわしが激しさを増します。

編集者Ａ（以下Ａ）：天明の打ちこわしが、田沼意次の息の根を止めたのは事実です。世情というものは、こういう事態に容赦ないですからね。実際は、天災の影響による米不足なのに「田沼の悪政」のせいだと思われる。世直しというのは、「前政権＝悪」という刷り込みも必要ですから、「田沼＝悪」を徹底するためには「食糧難すら政局にする」冷徹な松平定信が描かれました。

Ｉ：食糧難という国難を政局にするとはひどいといえばひどいですが、ここまでひどいものはなくとも、国難を政局にする局面は現代でもあったりするのかもしれないですね。

「隠密七変化」を演じた俳優

Ａ：さて、『べらぼう』では、そうした打ちこわしを煽動する人物が存在していたことが描かれたのが、特筆すべきところですね。

Ｉ：平賀源内（演・安田顕）の死に関わり、田沼意知（演・宮沢氷魚）と佐野政言（演・矢本悠馬）の刃傷沙汰にも関与、さらには意知の葬列に石を投げ、直近では、打ちこわしを煽動する。あらゆる人物になりすます男の存在に注目が集まりました。打ちこわしによる死者が出たのも、「丈右衛門だった男」「身なりの貧しい男」という「煽動員」がいたせいです。

Ａ：実際に打ちこわしが頻発することで、田沼派は窮地に陥ります。そうした影のキーマンを演じたのが矢野聖人さん。源内の死は第16回でしたが、いろいろな人物になりすますという難しい役をこなしてくれました。なんかすごくないですか？

Ｉ：文字通り「七変化の如く」ですからね。私は、「丈右衛門だった男」が佐野家に訪れた際の凛とした佇まいが好きでしたが、今週の打ちこわしを煽動する様子を見て、「これ同じ人？」と思いました。さまざまな人物を演じわけた「影のキーマン」の矢野聖人さん。なんだか気になる存在になりました。

Ａ：その「煽動し続けた男」が、蔦重を襲おうとした末に、長谷川平蔵（演・中村隼人）に斬られて絶命しました。最後に長谷川平蔵に斬られる展開とは、「影のキーマン」への手向けとして、さらにはエンターテインメントとして「秀逸だなあ」と思いました。

Ｉ：隠密の定めとして、この男の死に一橋家はまったく関知しない、ということになるのでしょうね。そして、長谷川平蔵が奉行になれなかったのは、「治済密偵」のこの男を斬ったからという「裏設定」のせいだ、と思ったりしました（笑）。

Ａ：配下を従えて、江戸を疾走する長谷川平蔵の姿は、明らかに『鬼平犯科帳』を想起させる場面でした。「中村隼人版鬼平犯科帳」が見たい！　と思った人も多いのではないでしょうか。一方で、中村隼人さんが主演の『大富豪同心』の続編も見たいですし、悩ましいですね。

Ｉ：私は、どっちも見たいです！

Ａ：さて、こういう隠密というか、世の中を密かに煽動する人物というのは、いつの世にも出没するんだと思われます。国レベルでもそうです。例えば、日露戦争前後の欧州で「ロシアの反政府陣営の支援」をするなどの工作活動を行なった明石元二郎という人物がいました。彼の工作活動は「軍隊20万人以上のはたらきをした」とも讃えられたそうです。1981年のNHKドラマ『ポーツマスの旗』では、原田芳雄さんが明石元二郎を演じました。今日、どれだけの人が明石元二郎の功績を知っているでしょうか。『ポーツマスの旗』は『べらぼう』で松平武元を演じた石坂浩二さんが小村寿太郎を演じています。NHKオンデマンドに入れてくれたらいいのにと思います。