相続は誰にでも発生しうることですが、「相続税がそもそもかかるのか?」「かかる場合はいくらぐらいなのか?」と不安を感じている人も多いのではないでしょうか。最近は専門家に相談する前に「まずは自分で大まかな金額を知りたい」というニーズが高まっています。そこで活用したいのが、相続税のシミュレーションツールです。

国税庁の公式ツールをはじめ、銀行や民間企業が提供する便利なサービスも増えています。この記事では、相続税シミュレーションの基本から、目的別におすすめのツール、そして結果をどう活かすべきかまで、実践的な情報をご紹介します。

100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、LIFEBOOK(R)を提唱する独立系ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。

相続税シミュレーションとは? 目的と基本の考え方

相続税シミュレーションとは、将来発生する可能性のある相続税額を事前に試算することです。被相続人(財産を遺す人)の資産状況や相続人の構成をもとに、おおよその税額を計算します。

なぜシミュレーションが必要なのか?

相続税は、相続発生から10か月以内に申告と納税が必要で、この期間は想像以上に短く感じられます。葬儀や遺品整理、遺産分割などで忙しい中、余裕を持って対応するためにも事前のシミュレーションが重要です。

試算することで「相続税がかかるかどうか」が分かり、必要なら納税資金の準備や節税対策も早めに検討できます。生前贈与や保険の活用なども計画的に進められ、「準備不足だった」という事態を防ぐために欠かせないステップです。

相続税は誰にどのくらいかかる? 簡単な仕組み解説

相続税は、亡くなった方(被相続人)から財産を受け継いだ相続人に対して課税される税金です。ただし、すべての相続に課税されるわけではありません。まず重要なのが「基礎控除額」です。これは、相続税がかからない非課税枠のことで、計算式は次のとおりです。

相続税の基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば、配偶者と子ども2人が相続人の場合(法定相続人3人)、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3)=4,800万円となります。遺産総額がこの金額以下なら、相続税はかかりません。遺産総額が基礎控除額を超える場合は、超えた部分に対して相続税が課税されます。税率は10%から最高55%までの累進課税で、財産が多いほど税率が高くなる仕組みです。

<図表1>相続税の速算表

(出典:国税局ホームページNo.4155 相続税の税率|国税庁より抜粋)

また、配偶者には「配偶者の税額軽減」という特例があり、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。このような各種控除や特例を考慮することで、実際の納税額は大きく変わってきます。

まず試したい! 相続税の「概算」の出し方

専門的なツールを使う前に、まずは簡単な概算を自分で計算してみましょう。大まかな流れは以下のとおりです。

1.遺産総額を把握する
不動産、預貯金、株式、生命保険金、退職金などすべての財産を合計します。不動産は固定資産税評価額を目安にし、生命保険金や退職金は非課税枠(500万円×法定相続人数)を差し引きます。

2.基礎控除額を計算する
前述の計算式で基礎控除額を算出します。

3.課税遺産総額を求める
遺産総額から基礎控除額を引いた金額が課税対象です。この時点でマイナスなら相続税はかかりません。

4.法定相続分で分割したと仮定して税額を計算
課税遺産総額を法定相続分で各相続人に分配し、それぞれの相続税率を適用して税額を計算します。その後、各人の税額を合計して相続税の総額を求めます。

5.実際の相続割合で按分する
相続税の総額を、実際の遺産分割割合に応じて各相続人に配分します。

この方法でおおまかな金額感をつかむことができます。

国税庁の相続税シミュレーション|安心の公的ツールの使い方

相続税を試算するなら、まず国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」が便利で安心です。無料で使え、最新の税制にも対応しています。公的機関が提供するため信頼性が高く、初めての人でも使いやすいのが特徴です。ここでは、この公式ツールのポイントと基本的な使い方を分かりやすく紹介します。

国税庁のシミュレーターでできること・できないこと

国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」は、相続税の申告が必要かどうかを判定することが主な目的です。質問形式で財産や相続人の情報を入力していくと、基礎控除額と遺産総額を比較して、申告の要否を判定してくれます。

<図表2>国税庁のシミュレーターでできること・できないこと

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

国税庁のツールは基本的な判定には十分ですが、より詳細な試算や複雑なケースには、専門家への相談や民間ツールの併用が必要になる場合もあります。

入力に必要な情報と注意点

国税庁の相続税シミュレーションを使う際は、事前にいくつかの情報をそろえておくとスムーズです。死亡日、相続人の人数・関係、預貯金や株式などの財産額、生命保険金、不動産の評価額(固定資産税評価額や路線価)、債務・葬儀費用、生前贈与の有無などがあると便利です。

ただし、不動産の評価や特例の適用には細かい条件があり、ツールで「可能」と出ても実際は要件を満たさないケースがあります。あくまで結果は「目安」であり、最終的な申告には専門家による精査が必要です。

配偶者・子・孫などケース別の試算方法

相続人の構成によって、相続税額は大きく変わります。国税庁のツールでは、さまざまなケースに対応できるよう設計されていますが、ここではケース別に見ていきましょう。

<配偶者と子どもがいる場合>

最も一般的なパターンです。配偶者には税額軽減があるため、法定相続分(2分の1)または1億6,000万円までは相続税がかかりません。

<配偶者のみ、または子どものみの場合>

配偶者だけが相続人の場合、配偶者の税額軽減が大きいため、法定相続分(2分の1)または1億6,000万円までは相続税がかかりません。逆に子どもだけの場合は、配偶者の税額軽減が使えないため、税負担が重くなる可能性があります。

<孫が相続人になる場合>

子が先に亡くなっている場合、孫が代襲相続人になります。また、遺言で孫に直接相続させることも可能です。ただし、子がまだ生きている場合における孫への相続は2割加算の対象となるため、税額が20%増えることに注意が必要です。

<親や兄弟姉妹が相続人の場合>

子どもがいない場合は、親や兄弟姉妹が相続人になります。この場合も基礎控除額の計算方法は同じですが、法定相続分が異なるため、ツールで正確に関係性を入力することが重要です。

各ケースで、実際の遺産分割協議の内容に応じて相続割合を調整し、複数パターンを試算してみることで、最適な分割方法を検討できます。

相続税計算をもっと手軽に! 人気のシミュレーションツール5選

国税庁のツールは信頼性が高い一方、入力項目が多く、やや使いづらいと感じる方もいるかもしれません。そんな時は、民間企業や金融機関が提供するシミュレーションツールも選択肢に入れてみましょう。ここでは、目的別におすすめのツールをご紹介します。

エクセルでできる相続税試算表|簡単にカスタマイズ

エクセル形式の相続税計算シートは、自由度の高さが最大の魅力です。インターネット上には、相続専門サイトが無料で提供しているテンプレートが多数あります。基本的に財産の項目と金額を入力すると、自動で相続税が計算される仕組みです。

ただし、数式が正確に設定されているか、最新の税制に対応しているかを確認する必要がありますのでチェックしましょう。

アプリ・ソフトで直感的に計算できるサービス

スマートフォンアプリは視覚的にわかりやすいのが特徴です。相続税計算アプリとして、「相続税シミュレーター」「相続税計算機」などがアプリストアで公開されています。無料版でも基本的な計算は可能ですが、詳細な分析や保存機能は有料版でのみ利用できる場合があります。

PC向けでは、相続税申告ソフトの簡易版として無料で提供されているツールもあります。これらは税理士事務所が使う本格的なソフトの機能限定版で、一般の方でも扱いやすく設計されています。

銀行系のツールもチェック

銀行などの金融機関も、顧客サービスの一環として相続税シミュレーションツールを提供しています。メガバンクに加え信託銀行は、充実したツールを提供しています。ネット銀行も、シンプルで使いやすいシミュレーターを公開しています。

銀行では、相続専門の担当者から具体的なアドバイスを受けられることがあります。ただし、自行の商品を前提とした提案になる場合もあるため、複数の情報源を比較検討することをおすすめします。

土地や不動産がある場合の試算に強いツールとは?

相続財産の中でも、不動産の評価は特に複雑です。路線価方式や倍率方式、小規模宅地等の特例など、専門知識が必要な部分が多いため、不動産に特化したツールの活用が効果的です。不動産会社や不動産専門の税理士事務所が不動産に特化したツールを提供していることがあります。

ただし、不動産の正確な評価には、現地調査や周辺環境の確認をする必要があります。ツールでの試算はあくまで目安として、実際の申告では不動産鑑定士や税理士に依頼することをおすすめします。

無料と有料の違いは? 信頼性の見分け方

相続税シミュレーションツールには無料のものと有料のものがあります。どちらを選ぶべきか迷う方も多いでしょう。それぞれのメリットデメリットは以下です。

<図表3>

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

信頼性の見分け方としては、税理士法人、金融機関など、信頼できる組織が運営しているかを確認しましょう。また税制は毎年改正されるため、最新の情報に対応しているかの確認も必要です。さらにはどのような計算方法を使っているのか、個人情報が適切に管理されているかなども重要なポイントです。

相続は頻繫に起こるものではないので、有料ツールを使用するのではなく、まずは無料ツールで大まかな金額感をつかみ、その後は専門家に相談することをおすすめいたします。

シミュレーション結果をどう生かす? 実際の相続手続きへのステップ

シミュレーションで相続税の概算を把握したら、相続対策や手続きにどう活かすかが重要です。シミュレーションは出発点に過ぎません。

ここからが本当の相続準備のスタートです。専門家への相談のタイミング、申告までのスケジュール、そして節税の可能性まで、具体的なアクションプランを見ていきましょう。

税理士や司法書士への相談の前にできる準備

シミュレーション結果をもとに専門家に相談する際、事前準備をしっかり行なうことで、相談時間を有効活用でき、より的確なアドバイスを受けられます。シミュレーション結果と、シミュレーション時に活用した元データを用意しておきましょう。

申告・納税に向けたスケジュールの立て方

相続税の申告・納税は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に、税務署に申告し、納税を完了する必要があります。この期間は意外と短く、計画的に進めることが重要です。

<図表4>

(株式会社SMILELIFE projectにて作成)

生前贈与と組み合わせて考える節税策の可能性

シミュレーションの結果、相続税が高額になりそうな場合、生前贈与を活用した節税対策を検討する価値があります。贈与を行なうことにより、将来の相続税負担を軽減できる可能性があります。

ただし、定期贈与(多額の資産を毎年小分けに贈与して税金を逃れる手法)には気をつけましょう。否認されて追徴されることになります。5つの選択肢について見ていきましょう。

1.暦年贈与
年間110万円までの贈与は非課税です。贈与することで、相続財産が減ることになります。ただし、2024年以降の税制では、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるため、早めの贈与が有効です。

2.相続時精算課税制度
2,500万円まで贈与税がかからず、相続時に精算する制度です。2024年の改正で年間110万円の基礎控除が新設され、使い勝手が向上しました。不動産など、今後値上がりが見込まれる資産の贈与に有効です。

3.教育資金の一括贈与
孫などへの教育資金として、1,500万円まで非課税で贈与できます。専用口座での管理が必要で、受贈者が30歳に達すると残額に贈与税がかかります。

4.結婚・子育て資金の一括贈与
1,000万円まで非課税で贈与できます(結婚費用は300万円まで)。こちらも専用口座での管理が必要です。

5.住宅取得資金の贈与
子や孫が住宅を取得する際、一定額まで非課税で贈与できます。非課税枠は年度や住宅の種類によって異なります。

いずれにせよなるべく早く動くことが重要です。贈与は時間を味方につけ、複数の制度を組み合わせることで得られる効果について検討しましょう。ただし、贈与しすぎてしまい自身の金融資産残高が早々につきてしまうのは意味がありません。ファイナンシャルプランナーと相談しながら、適切な贈与割合を決めることが大切です。

まとめ

相続税シミュレーションは、将来の相続に備えるための重要な第一歩です。ツールには国税庁の公式ツールから民間の便利なアプリ、エクセルシートまで、さまざまな選択肢があります。まずは無料のツールで気軽に試算してみることから始めましょう。

ただし、シミュレーションはあくまで概算です。相続対策と絡めてご自身のライフプランを考える時には、ファイナンシャルプランナーや専門家への相談をおすすめします。

資産運用や投資のアドバイスは、今や銀行などの金融機関の窓口でもさかんに行われています。同時に、インターネット上でもYouTubeやSNSを通じて色々な人がそれぞれの立場から投資術などを発信しています。しかし、それらのアドバイスは本当にあなた自身に適したものなのでしょうか?

さまざまな金融商品が出回っている世の中だけに、あなたの味方になって守ってくれる相談相手を持つことが必要な時代になっています。ご自身のライフプランを考える時には、生命保険や金融商品の販売をせずに中立的な立場からコンサルティングに徹する独立系のファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。

●構成・編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)

株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。

株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com

 

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