生前準備あるいは相続開始を迎えたばかりの人にとって、相続税の計算方法を完全に理解することは、大変難しいと言わざるを得ないでしょう。相続税の計算は、いくつかの手順を踏む必要があるため、相続税の目安を「遺産評価額が、◯円なら〇円程度かかる」とのように一般化できません。
遺産のうち課税対象となる金額を算出するにも、債務に代表される“負の遺産”・適用可能な控除・相続人構成などの様々な要素を加味しなければならないのです。
そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続シミュレーションの手順についてお話ししたいと思います。
目次
相続税の税率と控除額
相続税の計算方法
手順(1):「課税遺産総額」を計算する
手順(2):「相続税の総額」を計算する
手順(3):「各人の納税額」を計算する
手順(4):相続税の減額につながる特例や控除の確認
まとめ
相続税の税率と控除額
相続税の計算にあたっては、下記表の税率と控除額を事前に押さえる必要があります。
法定相続分に対応する取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0万円 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の計算方法
相続税の試算では、「(1)遺産総額から課税対象額を求め、(2)相続税の総額を計算してから、(3)遺産を取得した人ごとの最終的な納税額を算出する」と理解しましょう。以下では、下記の想定ケースを用いてシミュレーションしながら解説します。
【例】
被相続人 :父
法定相続人 :母・長男・次男
遺産総額 :1億1,000万円
債務と葬儀費用の合計 :1,000万円(母負担)
各人の法定相続分:母2分の1・長男4分の1・次男4分の1
遺産分割による各人の取得額:母7,000万円・長男2,000万円・次男2,000万円
適用する税制:配偶者の税額軽減のみ
※本例では、亡父の遺言により法定相続分とは異なる遺産分割を行ったものとします。
手順(1):「課税遺産総額」を計算する
遺産のうち課税対象となる金額(=課税遺産総額)を計算する際は、まず各人の取得財産の価額を整理します。
各人の取得財産の価額
母の「正味の遺産額」 :7,000万円 - 債務と葬儀費用の合計1,000万円 = 6,000万円
長男の「正味の遺産額」 :2,000万円
次男の「正味の遺産額」 :2,000万円
→ 母6,000万円 + 長男2,000万円 + 次男2,000万円 = 1億円
上記の金額から基礎控除を差し引きます。基礎控除の計算式は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で行い、正味の遺産額の総額から差し引いて「課税遺産総額」を算出します。
課税遺産総額
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
→ 課税遺産総額 = 1億円 - 4,800万円 = 5,200万円
手順(2):「相続税の総額」を計算する
課税遺産総額が算出できた段階で、税率・控除を用いて「相続税の総額」の計算を始めます。まずは「法定相続分に沿って取り分を決めたもの」と想定し、課税遺産総額を分割します。
法定相続分の課税価格
法定相続分の課税価格:母2,600万円(2分の1)・長男と次男がそれぞれ1,300万円(4分の1)
上記の法定相続分の課税価格に沿った各人の相続税を求め、最後に合算します。
相続税の総額
上記でご説明した相続税の税率と控除額を用いて、各自ごとの相続税額を計算します。
母の相続税額:2,600万円 × 税率15% - 控除50万円 = 340万円
長男と次男の各相続税額 :1,300万円 × 税率15% - 控除50万円 = 145万円
→ 相続税の総額=母340万円 + 長男145万円 + 次男145万円 = 630万円
手順(3):「各人の納税額」を計算する
手順(2)で計算した「相続税の総額」を課税遺産総額に対する実際の取得割合に沿い、相続税の総額を按分して「各人の課税額」を求めます。
相続税総額を按分
母:相続税の総額 630万円 × (6,000万円 ÷ 1億円)= 378万円
長男:相続税の総額 630万円 ×(2,000万円 ÷ 1億円)= 126万円
次男:相続税の総額 630万円 ×(2,000万円 ÷ 1億円)= 126万円
※相続税額の2割加算
相続、遺贈によって財産を取得した人が、被相続人の兄弟姉妹や、甥、姪として相続人となった人の場合、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。遺産を取得した人ごとに適用できる各種税額控除を確認し、最終的な「各人の納税額」を求めます。
最終的な納税額
母:0万円(配偶者の税額の軽減を適用)
長男:126万円
次男:126万円
手順(4):相続税の減額につながる特例や控除の確認
相続税申告では「遺産を取得した人の身分」「取得する資産の種類」に合わせ、税額減額につながる特例や控除が利用できます。下記はその代表的な税制になります。それぞれの制度について簡単にご紹介いたしましょう。
相続人の身分ごとに利用できる制度
・配偶者の税額軽減
亡くなった人の配偶者が取得する遺産については、法定相続分相当額(上限1億6,000万円)まで課税されません。
・未成年者控除
未成年者が遺産を取得した場合は、対象者の年齢に応じた額を本人の課税額から控除できます。
・障害者控除
障害のある人が遺産を取得した場合も、対象者の年齢に応じた額を本人の課税額から控除できます。
相続する財産ごとに利用できる制度
下記の2種類が代表例として挙げられます。
・小規模宅地等の特例
遺産に「亡くなった人の居住や事業の用に供されていた土地」がある場合、その課税評価額を最大80%減額できます。
・死亡保険金の非課税枠
死亡保険金には、法定相続人の数と連動する「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。
まとめ
相続税の計算を行う場合には、税額の計算式・各種控除の要件ともに複雑です。万が一にも間違った計算のまま進めてしまうと、大きな誤算に繋がります。また、忘れられがちなのは、相続人に高齢者や病人が含まれる場合の二次相続が起きる可能性です。相続税の課税も2回にわたって生じることを踏まえ、節税や納税資金対策も加味しなければなりません。
本記事をもとにした計算はあくまでも“目安”と考え、正確な税額や節税対策については、なるべく相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)